64 / 145
9話『事件を追う者ども』
5 狙いは独立記念日?
しおりを挟む
****♡Side・α(クライス)
クライスは二人の会話を黙って聞いていたが、引っ掛かるところがあった。
「この時期って……どういうこと?」
その疑問は思わず口をついて声に出る。
自分はこの一週間で更に、βの独立国について学んだ気でいた。
カイルは時々仕事で不在だが、レンは一日中家にいる。
何かあってはならないと、カイルが不在の際は執事が部屋に控えてくれてはいるが、クライスにとっては好都合だった。
この国について学ぶ上ではやはり、βの話を聞きたかったから。そんな風に学びながら過ごした一週間は、クライスに知識を齎した。
それでも”この時期”と聞いて、ピンと来ない自分には恥ずかしさを感じる。今まで、何を学んできたのかと。
だがクライスの問いにレンは、
「え? 独立記念日」
と、不思議そうに答えた。
それはまるで”知ってるじゃない”という言い方であった。
クライスは青ざめる。そのことをすっかり忘れていたからだ。
真っ青になりテーブルに視線を落としたクライスに、過剰反応したのはカイルである。
「クライス……まさか……」
何故か最後まで言われずとも、彼の言いたいことが分かってしまった。
クライスは唇を噛みしめ、ただ頷く。二人のただならぬ雰囲気に刑事は怪訝そうな顔をし、レンは音のしそうな勢いでカイルを見た。
「いや、冗談でしょ?」
と、レン。
刑事は自分が関わっているにも関わらず、なんのことか分からないようだ。
「カイル、今からで間に合うの?」
「分からない。手続きは通常、一週間前には終わらせておくものだが」
独立記念日は一週間後に迫っている。
そこでやっと刑事は何の話か把握したようだ。
「まさか、一時帰国の申請をしていないので?」
暢気なものだ、誰のせいだと言いたくなる。
「今から申請しても間に合うかどうか」
と、カイル。
βの独立国では一時帰国には何パターンかあり、病気や怪我、身内の不幸などでどうしても国に帰国しなければならない場合。
これは緊急措置が取られ、まず先に帰国することが出来る。書類を後回しに出来るのだ。
次に、仕事で入国したが取引先相手のパートナーが発情期に入ることにより急遽、都合がつかなくなった場合。
クライスが初来国した時の状況だ。この場合は手続きを滞在ホテル側が入管と連携し、行ってくれることになっている。
問題は”任意で一時帰国”する場合なのだ。
ほとんどのケースが”独立記念日”によるものでありながら、緩和されてはいない。きちんと手順を踏み、審査を受けなければならない。
この国の考え方としては、そんな時期に入国してくる方が”どうかしている”ということであろうか。
「俺が口添えしてもいいが、間に合うかどうかは五分五分だな」
と、刑事。
「クライス、大丈夫だよ」
カイルは安心させるためか、クライスのほうを見て微笑んだ。
「もし、間に合わなくても、この家から一歩も出なければ、やり過ごせる」
しかし、レンは恐ろしいことを言いだした。
「ねえ、もしそれが犯人の狙いだったら?」
と。
───まさか俺を独立記念日にこの国に留まらせることが、狙いだっていうのか?
クライスの背中を冷たいものが伝う。
見ず知らずの人間に恨まれ、暴徒の餌食にされるだなんてと。
思い出す、ホテルで自分と同じく”奇跡の子”である彼から聞いた話を。
捕まった彼の恋人は、今は生存しているかすら分からない。
クライスは、凌辱され玩具にされて恨みを晴らす道具にされたあのαに、自分自身を重ねるのだった。
クライスは二人の会話を黙って聞いていたが、引っ掛かるところがあった。
「この時期って……どういうこと?」
その疑問は思わず口をついて声に出る。
自分はこの一週間で更に、βの独立国について学んだ気でいた。
カイルは時々仕事で不在だが、レンは一日中家にいる。
何かあってはならないと、カイルが不在の際は執事が部屋に控えてくれてはいるが、クライスにとっては好都合だった。
この国について学ぶ上ではやはり、βの話を聞きたかったから。そんな風に学びながら過ごした一週間は、クライスに知識を齎した。
それでも”この時期”と聞いて、ピンと来ない自分には恥ずかしさを感じる。今まで、何を学んできたのかと。
だがクライスの問いにレンは、
「え? 独立記念日」
と、不思議そうに答えた。
それはまるで”知ってるじゃない”という言い方であった。
クライスは青ざめる。そのことをすっかり忘れていたからだ。
真っ青になりテーブルに視線を落としたクライスに、過剰反応したのはカイルである。
「クライス……まさか……」
何故か最後まで言われずとも、彼の言いたいことが分かってしまった。
クライスは唇を噛みしめ、ただ頷く。二人のただならぬ雰囲気に刑事は怪訝そうな顔をし、レンは音のしそうな勢いでカイルを見た。
「いや、冗談でしょ?」
と、レン。
刑事は自分が関わっているにも関わらず、なんのことか分からないようだ。
「カイル、今からで間に合うの?」
「分からない。手続きは通常、一週間前には終わらせておくものだが」
独立記念日は一週間後に迫っている。
そこでやっと刑事は何の話か把握したようだ。
「まさか、一時帰国の申請をしていないので?」
暢気なものだ、誰のせいだと言いたくなる。
「今から申請しても間に合うかどうか」
と、カイル。
βの独立国では一時帰国には何パターンかあり、病気や怪我、身内の不幸などでどうしても国に帰国しなければならない場合。
これは緊急措置が取られ、まず先に帰国することが出来る。書類を後回しに出来るのだ。
次に、仕事で入国したが取引先相手のパートナーが発情期に入ることにより急遽、都合がつかなくなった場合。
クライスが初来国した時の状況だ。この場合は手続きを滞在ホテル側が入管と連携し、行ってくれることになっている。
問題は”任意で一時帰国”する場合なのだ。
ほとんどのケースが”独立記念日”によるものでありながら、緩和されてはいない。きちんと手順を踏み、審査を受けなければならない。
この国の考え方としては、そんな時期に入国してくる方が”どうかしている”ということであろうか。
「俺が口添えしてもいいが、間に合うかどうかは五分五分だな」
と、刑事。
「クライス、大丈夫だよ」
カイルは安心させるためか、クライスのほうを見て微笑んだ。
「もし、間に合わなくても、この家から一歩も出なければ、やり過ごせる」
しかし、レンは恐ろしいことを言いだした。
「ねえ、もしそれが犯人の狙いだったら?」
と。
───まさか俺を独立記念日にこの国に留まらせることが、狙いだっていうのか?
クライスの背中を冷たいものが伝う。
見ず知らずの人間に恨まれ、暴徒の餌食にされるだなんてと。
思い出す、ホテルで自分と同じく”奇跡の子”である彼から聞いた話を。
捕まった彼の恋人は、今は生存しているかすら分からない。
クライスは、凌辱され玩具にされて恨みを晴らす道具にされたあのαに、自分自身を重ねるのだった。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
温泉地の謎
asabato
大衆娯楽
可笑しな行動を求めて・・桃子41歳が可笑しなことに興味を持っていると、同じようなことで笑っているお父さんが見せてくれたノートに共感。可笑しなことに遭遇して物語が始まっていきます。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
異世界ぼっち暮らし(神様と一緒!!)
藤雪たすく
BL
愛してくれない家族から旅立ち、希望に満ちた一人暮らしが始まるはずが……異世界で一人暮らしが始まった!?
手違いで人の命を巻き込む神様なんて信じません!!俺が信じる神様はこの世にただ一人……俺の推しは神様です!!
君のことなんてもう知らない
ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。
告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。
だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。
今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが…
「お前なんて知らないから」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる