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9話『事件を追う者ども』

4 辿り着けない真実

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****♡Side・β(カイル)

───心あたりがないわけじゃないが、あの人を疑うには早計過ぎる。

 もし間違っていた時のことを考える。
 相手に迷惑をかける上に、自惚れが過ぎるというものだ。だが確信したこともある。犯人はβに違いない。
 でなければ体格を変える必要はないし、自分がわざわざαだと告げる必要もなかったはずなのだ。

───問題は”発情促進剤”を使って何をしたかったのか?

 たぶんこれが事件のカギであろう。
 αであるダメ押しがしたかったのか。いや違う、恐らくは”レンに魂の番”がいると思わせたかったのだ。
 そこでもしやとカイルは思う。

 ”クライスが来たことが想定外……いや、計画を狂わせたのではないか?”

 クライスに目撃されていなければ事件にならなかった可能性もある。
 だがこの推理には少し無理がある。
 魂の番がいると思わせることが出来たとしても、こちらで調べれば直ぐに分かってしまう。何故なら、この国に居るαの行動は入管や警察が把握済だからだ。
 となると、瓶を持ち帰るつもりはなかったという可能性が浮上する。想定外の訪問者があったことから自分の素性がバレるのを恐れ、瓶を持ち帰ったのかもしれない。

「ホテルの従業員、入管の職員、警察関係者」
 刑事はカイルが推理を組み立てている間にも、クライスから事情を聞いていた。どう考えても彼らが事件に関与しているとは思えないが、刑事はもう一度彼らの中から外部に情報が漏れていないか調査するという。

「ねえ、カイル」
「うん?」
 考え事をしていたレンに声をかけられ、窓の外に目をやる。
 彼がそちらをじっと見ていたからだ。
「クライスが来たことは偶然だとして、犯人がこの時期を狙っていたのは偶然じゃないよね」

 それはカイルも思うところであった。
 外からある程度監視をしていれば、このうちのΩの発情期の周期は簡単に分かってしまう。何故なら外部からの侵入を防ぐために特別な門を閉めるからだ。
 発情期のΩのフェロモンは、通常のフェロモン対策ではβには不安が残る。もしもの時のために、まるで要塞で使われるようなイカツイ鋼鉄の門を閉めるのだ。
 元々ある高い塀、ちょっとやそっそではびくともしない門。しかし逆を言えば、それは発情期が来ていると知らせるようなモノであったし、Ωが暮らしていると誰の目にも明らかなのである。

───発情期から外れた時でなければ、魂の番が居ることなど信じさせることは出来ない。

 発情するはずない時にレンが発情してしまったから、カイルはその可能性を疑った。そして、もうすぐ”独立記念日”がやってくる。
 独立記念日間近に犯行に及んだのは、決して偶然ではないはずだ。
 クライスがこちらに向かっていることに気づきながらも、危険を冒してまで決行したのだから。

───ん?
 クライスがこちらに向かうことに気づいていた?

 カイルはもう一息のところで、真実にたどり着けなかったのである。
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