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9話『事件を追う者ども』

2 犯人の目星

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****♡Side・α(クライス)

「クライスさんが見たという、薬についてなのですが」
 犯人への手掛かりは、クライスが見たという”発情促進剤”のみであった。犯人と思しき人物は、現場に指紋などを残していない。
 連日の天気により、石畳の歩道にはもちろん靴跡などもなく、防犯カメラに映っていたのは黒のトレンチコートに目深に被った帽子。足元まで隠れる、幅広の黒のパンツスタイルということから、身長を盛っている可能性もあり、もちろん体系すら確定しない。

「この国では、発情促進剤を作っている会社、町工場などは存在しません」
 カイルとレンは刑事のその言葉に、別段驚いた風でもなかったが、クライスは驚いていた。暗礁に乗り上げそうだ、ということはこの国で作られてない場合、輸入された……もしくは個人が持ち込んだと考えるのが妥当な線ではあるが、今回の薬は入国審査で確認されなかったモノということになる。

「そして、輸入ないし、持ち込まれた形跡ももちろんない」
 何故作られていないのか。それは簡単な理由だ。この国の住人はΩ性かβ性の者しかいない。Ωがβと子を成すことが出来るならばまだしも、Ωとβの間では受精は不可能。となれば、発情を促進させる必要がないからだ。
「で、我々は輸入もしくは持ち込む際に、別の入れ物で偽装したのではないか? と疑ったわけですよ」
 それは最も疑わしいケースである。
「だがその場合、辻褄《つじつま》が合わんのです」
 そこで、前のめりで話を聞いていたカイルが上体を起こし、背もたれに背を預け、両手の指先を合わせた。
 刑事はフランスパンに生ハムとチーズとレタス、トマトなどを挟み口に持っていく。
「辻褄ねえ」
と、レンは顎に手をやる。

「まあ、確かに。現場に瓶を残すつもりもないのに、国に持ち込んでから入れ替える必要があるのか? ってことだよな」
と、カイル。
 それを聞いてクライスはなるほどと思った。三人のうちの誰を嵌めるつもりだったのかは定かでないが、この場合その薬が”発情促進剤”であることが分からない方が良いと考えたから、犯人は瓶を持ち帰ったのだ。
 その理由としては、
「自分をαだと思い込ませたかったはずだしな」
とカイルが皆の考えを代弁する。
「で、警察の見解はどうなんです?」
と、クライス。

「犯人はαの国にある発情促進剤を真似て、この国で作成したのではないかという見解で一致しているわけですわ」
と、刑事。
「つまり、個人で作ったと」
「そうなりますな。ただ、その材料については、どこでも売っているようなモノのため、特定できそうにないわけですよ」
「完全に行き詰ったわけだねー」
と、レン。
「ええ。そこで我々は別の角度で事件に迫ろうということになりましてな」
と、刑事は三人を見渡すと、
「動機から探っていこうと」
と続ける。
「皆さん、自分に恨みを持っている人物に心当たりはありませんかな?」

───俺はあの時、初入国だった。
 誰も知り合いはいないはずなんだが。

 刑事の言葉を受け、それぞれが日常を振り返るのであった。
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