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8話『第一皇子を巡る人々』
4 可愛らしいα
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****♡Side・Ω(レン)
「ホントに、こんな素敵な部屋をお借りしても?」
クライスは敬語は良いよといくら言っても、すぐに戻ってしまう。
慣れないのは分かるが、他に何か理由があるのではないかとレンは思っている。
───そんなにβが怖いのかな?
その気持ちは分からないでもないけれど。
「クライス」
カイルは彼の腕を掴むと自分のほうへぐいっと引き、少しかがんだ彼の頭をポンポンと撫でた。クライスは何故そんなことをされたのか分からず、きょとんとしている。
「そんなに、かしこまらなくていい」
「あ、うん」
「おいで」
カイルは部屋の中を案内するために、彼の手を引く。レンはなんだかおもしろいなあ、と思いつつ二人の後から部屋へ。
───カイルが僕以外に、こんな風に接するの初めて見た。
「ここがバスルームで、そっちがトイレ。備品は給仕の者が毎朝持ってきてくれるから、必要なものがあったら言って。代わりに洗濯物を渡すんだよ」
「うん」
「ここが簡易キッチン。簡単な生活家電がそろっているけれど、朝昼晩の三食は俺たちの部屋で一緒に食べようね」
カイルがまるで子供にでも話すように優しく彼に説明するのを、レンは穏やかな気持ちで見ていた。
自分はαが好きではない。しかしそれは、彼の国でのΩの扱いを聞いているからであって、カイルがαを嫌いな理由とは違う。
レンもカイル同様、クライスには好感を持っている。純粋で礼儀正しく素直な反応をするクライスは、自分たちが知っているαとは全く違うように感じた。
───β全てがいい人と言うわけではない。αだって全てが悪い人ではないんだよね。
きっと環境で人は変わる。
レンはそんな風に思っていたが、それはまるでクライスの母と同じ考え方であった。
妹姫を失ってから、狭い世界に閉じこもってしまったカイル。
そんな彼に自分以外の大事なものができるのは少し寂しいが、笑顔が増えるのなら悪くない。自分はカイルを取り巻く全てを含め、彼が大切だ。
「うん、もちろん。おやつもだよ」
この時二人は、クライスがあまりにも低姿勢なので、自分たちよりも年下だと思っていた。αがβやΩよりも体格が良いのは当たり前。背が高いから年上などという安易な考え方をしないのも常識の範疇。
「え? クライス、俺の一個上なの⁈」
二人が話しているのをレンがぼんやり眺めていると、突如カイルが素っ頓狂な声をあげる。
「カイル、どうしたの?」
と、レン。
「俺、てっきりクライスのこと年下かと思ってた」
と笑っている。
聞けば、彼は今年二十歳らしい。レンの二個上、カイルの一つ上であった。
「あはは。失礼なことしちゃったね」
とカイルが”ごめん”と謝罪すると、クライスは首を横に振り、
「そのままがいい」
とニコッと微笑んだのだった。
「ホントに、こんな素敵な部屋をお借りしても?」
クライスは敬語は良いよといくら言っても、すぐに戻ってしまう。
慣れないのは分かるが、他に何か理由があるのではないかとレンは思っている。
───そんなにβが怖いのかな?
その気持ちは分からないでもないけれど。
「クライス」
カイルは彼の腕を掴むと自分のほうへぐいっと引き、少しかがんだ彼の頭をポンポンと撫でた。クライスは何故そんなことをされたのか分からず、きょとんとしている。
「そんなに、かしこまらなくていい」
「あ、うん」
「おいで」
カイルは部屋の中を案内するために、彼の手を引く。レンはなんだかおもしろいなあ、と思いつつ二人の後から部屋へ。
───カイルが僕以外に、こんな風に接するの初めて見た。
「ここがバスルームで、そっちがトイレ。備品は給仕の者が毎朝持ってきてくれるから、必要なものがあったら言って。代わりに洗濯物を渡すんだよ」
「うん」
「ここが簡易キッチン。簡単な生活家電がそろっているけれど、朝昼晩の三食は俺たちの部屋で一緒に食べようね」
カイルがまるで子供にでも話すように優しく彼に説明するのを、レンは穏やかな気持ちで見ていた。
自分はαが好きではない。しかしそれは、彼の国でのΩの扱いを聞いているからであって、カイルがαを嫌いな理由とは違う。
レンもカイル同様、クライスには好感を持っている。純粋で礼儀正しく素直な反応をするクライスは、自分たちが知っているαとは全く違うように感じた。
───β全てがいい人と言うわけではない。αだって全てが悪い人ではないんだよね。
きっと環境で人は変わる。
レンはそんな風に思っていたが、それはまるでクライスの母と同じ考え方であった。
妹姫を失ってから、狭い世界に閉じこもってしまったカイル。
そんな彼に自分以外の大事なものができるのは少し寂しいが、笑顔が増えるのなら悪くない。自分はカイルを取り巻く全てを含め、彼が大切だ。
「うん、もちろん。おやつもだよ」
この時二人は、クライスがあまりにも低姿勢なので、自分たちよりも年下だと思っていた。αがβやΩよりも体格が良いのは当たり前。背が高いから年上などという安易な考え方をしないのも常識の範疇。
「え? クライス、俺の一個上なの⁈」
二人が話しているのをレンがぼんやり眺めていると、突如カイルが素っ頓狂な声をあげる。
「カイル、どうしたの?」
と、レン。
「俺、てっきりクライスのこと年下かと思ってた」
と笑っている。
聞けば、彼は今年二十歳らしい。レンの二個上、カイルの一つ上であった。
「あはは。失礼なことしちゃったね」
とカイルが”ごめん”と謝罪すると、クライスは首を横に振り、
「そのままがいい」
とニコッと微笑んだのだった。
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