上 下
55 / 145
8話『第一皇子を巡る人々』

3 国民に愛された皇子

しおりを挟む
****♡Side・α(クライス)

「カイル様はクライスさんのこと、気に入っておられるようですね」
 ”珍しいこと”なのだと、執事は言った。
 カイルはなかなか他人を信用せず、傍に寄せないのだという。それはクライスにとって意外だった。彼は最も国民から愛された皇子。フレンドリーで、いろんな人と交流を持っているのだろうと思っていたから。
 そのことを執事の彼に告げると、
「ええ。以前はそうでした」
「以前は?」

 彼を変えてしまったのは、”妹姫に起きた事件”が原因だと言う。その事件以来、Ωであるレンを守るために外との交流を極力絶ったのだ。
 それでもカイルは国民から慕われ、愛されている。

「みんながカイルさんを慕うの、何となくだけれど理解できます」
 見目麗しいだけではなく、聡明で優しい。彼がレンをとても大切にしていることは、初対面の自分でさえ感じることが出来た。
 そうでなければ嫌っているはずのαに事件について知るためとはいえ、自ら接触をしようなどとは思わないはずだ。
 カイルはレンを守るため、最善を尽くそうとしている。自分も出来る限り、それに協力したいと思っていた。

───カイルと仲良くなれるといいな。

 自分はαだから、彼に近づくことさえ難しいと思っていたのに。今、自分には希望が芽生えている。恋人になりたいだなんて多くは望まない、せめて友人になりたい。彼が自分を気に入っていると第三者に言われたことが、クライスの心を嬉しさで満たす。
「カイル様と仲良くして差し上げくださいね、クライスさん」
「えっ」
 βたちから忌み嫌われているα。そのαである自分が、βである彼からそんなことを言われるなんて思ってもいなかった。嬉しさに顔が緩む。
「はい」
 頬をほんのり染めるクライスを、執事は見つめていた。
「着いたようですよ」

 再び戻って来たカイルの屋敷。クライスは執事に手伝って貰いながら、車から荷物を下ろす。朝食のケーキが気に入ったクライスは途中でケーキ屋に寄って貰い、家人へお土産を購入していた。

「お帰り、クライス」
 玄関のドアが開くのに気づいて、カイルとレンの二人が下に降りてきてくれている。レンはケーキの箱を受け取ると、小さな透明の窓から中身を覗き込む。
「うわ。豪華」
「口に合うといいのだけれど」
と、二人の様子を窺うクライス。
「見て、カイル。色とりどりで綺麗」
 レンの言葉にカイルも中を覗き込み、微笑んだ。
「クライス、ありがとう。三時のお茶の時間にみんなでいただこう」
 カイルは、レンに””一階のキッチンへ持っていくように指示すると、
「部屋に案内するよ」
といって、クライスを二階へ案内したのだった。

───これからしばらく、カイルと毎日会えるなんて夢みたいだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

温泉地の謎

asabato
大衆娯楽
可笑しな行動を求めて・・桃子41歳が可笑しなことに興味を持っていると、同じようなことで笑っているお父さんが見せてくれたノートに共感。可笑しなことに遭遇して物語が始まっていきます。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

異世界ぼっち暮らし(神様と一緒!!)

藤雪たすく
BL
愛してくれない家族から旅立ち、希望に満ちた一人暮らしが始まるはずが……異世界で一人暮らしが始まった!? 手違いで人の命を巻き込む神様なんて信じません!!俺が信じる神様はこの世にただ一人……俺の推しは神様です!!

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

処理中です...