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8話『第一皇子を巡る人々』
3 国民に愛された皇子
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****♡Side・α(クライス)
「カイル様はクライスさんのこと、気に入っておられるようですね」
”珍しいこと”なのだと、執事は言った。
カイルはなかなか他人を信用せず、傍に寄せないのだという。それはクライスにとって意外だった。彼は最も国民から愛された皇子。フレンドリーで、いろんな人と交流を持っているのだろうと思っていたから。
そのことを執事の彼に告げると、
「ええ。以前はそうでした」
「以前は?」
彼を変えてしまったのは、”妹姫に起きた事件”が原因だと言う。その事件以来、Ωであるレンを守るために外との交流を極力絶ったのだ。
それでもカイルは国民から慕われ、愛されている。
「みんながカイルさんを慕うの、何となくだけれど理解できます」
見目麗しいだけではなく、聡明で優しい。彼がレンをとても大切にしていることは、初対面の自分でさえ感じることが出来た。
そうでなければ嫌っているはずのαに事件について知るためとはいえ、自ら接触をしようなどとは思わないはずだ。
カイルはレンを守るため、最善を尽くそうとしている。自分も出来る限り、それに協力したいと思っていた。
───カイルと仲良くなれるといいな。
自分はαだから、彼に近づくことさえ難しいと思っていたのに。今、自分には希望が芽生えている。恋人になりたいだなんて多くは望まない、せめて友人になりたい。彼が自分を気に入っていると第三者に言われたことが、クライスの心を嬉しさで満たす。
「カイル様と仲良くして差し上げくださいね、クライスさん」
「えっ」
βたちから忌み嫌われているα。そのαである自分が、βである彼からそんなことを言われるなんて思ってもいなかった。嬉しさに顔が緩む。
「はい」
頬をほんのり染めるクライスを、執事は見つめていた。
「着いたようですよ」
再び戻って来たカイルの屋敷。クライスは執事に手伝って貰いながら、車から荷物を下ろす。朝食のケーキが気に入ったクライスは途中でケーキ屋に寄って貰い、家人へお土産を購入していた。
「お帰り、クライス」
玄関のドアが開くのに気づいて、カイルとレンの二人が下に降りてきてくれている。レンはケーキの箱を受け取ると、小さな透明の窓から中身を覗き込む。
「うわ。豪華」
「口に合うといいのだけれど」
と、二人の様子を窺うクライス。
「見て、カイル。色とりどりで綺麗」
レンの言葉にカイルも中を覗き込み、微笑んだ。
「クライス、ありがとう。三時のお茶の時間にみんなでいただこう」
カイルは、レンに””一階のキッチンへ持っていくように指示すると、
「部屋に案内するよ」
といって、クライスを二階へ案内したのだった。
───これからしばらく、カイルと毎日会えるなんて夢みたいだ。
「カイル様はクライスさんのこと、気に入っておられるようですね」
”珍しいこと”なのだと、執事は言った。
カイルはなかなか他人を信用せず、傍に寄せないのだという。それはクライスにとって意外だった。彼は最も国民から愛された皇子。フレンドリーで、いろんな人と交流を持っているのだろうと思っていたから。
そのことを執事の彼に告げると、
「ええ。以前はそうでした」
「以前は?」
彼を変えてしまったのは、”妹姫に起きた事件”が原因だと言う。その事件以来、Ωであるレンを守るために外との交流を極力絶ったのだ。
それでもカイルは国民から慕われ、愛されている。
「みんながカイルさんを慕うの、何となくだけれど理解できます」
見目麗しいだけではなく、聡明で優しい。彼がレンをとても大切にしていることは、初対面の自分でさえ感じることが出来た。
そうでなければ嫌っているはずのαに事件について知るためとはいえ、自ら接触をしようなどとは思わないはずだ。
カイルはレンを守るため、最善を尽くそうとしている。自分も出来る限り、それに協力したいと思っていた。
───カイルと仲良くなれるといいな。
自分はαだから、彼に近づくことさえ難しいと思っていたのに。今、自分には希望が芽生えている。恋人になりたいだなんて多くは望まない、せめて友人になりたい。彼が自分を気に入っていると第三者に言われたことが、クライスの心を嬉しさで満たす。
「カイル様と仲良くして差し上げくださいね、クライスさん」
「えっ」
βたちから忌み嫌われているα。そのαである自分が、βである彼からそんなことを言われるなんて思ってもいなかった。嬉しさに顔が緩む。
「はい」
頬をほんのり染めるクライスを、執事は見つめていた。
「着いたようですよ」
再び戻って来たカイルの屋敷。クライスは執事に手伝って貰いながら、車から荷物を下ろす。朝食のケーキが気に入ったクライスは途中でケーキ屋に寄って貰い、家人へお土産を購入していた。
「お帰り、クライス」
玄関のドアが開くのに気づいて、カイルとレンの二人が下に降りてきてくれている。レンはケーキの箱を受け取ると、小さな透明の窓から中身を覗き込む。
「うわ。豪華」
「口に合うといいのだけれど」
と、二人の様子を窺うクライス。
「見て、カイル。色とりどりで綺麗」
レンの言葉にカイルも中を覗き込み、微笑んだ。
「クライス、ありがとう。三時のお茶の時間にみんなでいただこう」
カイルは、レンに””一階のキッチンへ持っていくように指示すると、
「部屋に案内するよ」
といって、クライスを二階へ案内したのだった。
───これからしばらく、カイルと毎日会えるなんて夢みたいだ。
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