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8話『第一皇子を巡る人々』
2 皇子の変化
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****♡Side・β(カイル)
「ちょっ……なんかそれ、おかしくない?」
”いっぱいエッチな声出していいよ”とレンに言われ、カイルは困惑した。
「何もおかしくないでしょ?」
と彼は、カイルにもう一度ちゅっと口づけると、そっと離れる。
「そう言えば、クライスは独立記念日のこと知っているのかな……」
と、彼。
───そうだ、もうすぐ独立記念日。αにとっては地獄の日。
捜査依頼でこの国に滞在しているというのならば、一時帰国については警察のほうで手続きが行われるだろう。カイルはそんな風に考えており、警察のほうには確認をしなかった。このことが後に大事件に繋がるとも思わずに。
「前回が初入国とは言っていたが、この国についての基礎知識くらいはあるんじゃないか?」
と、カイル。
「うーん」
彼は、カイルの考えには賛同できないようだ。
「僕らはずっとこの国にいるからそう思うかもしれないけど、よその国で暮らしていたら、習慣や法律って意外と知らないことの方が多いと思うし、何を知って置いたらいいかとなると、ガイドブック程度のことにしか気がまわらないんじゃないかな?」
確かに、彼の言う事は一理ある。独立記念日は忌まわしい行事。何度もこの国に足を運んでいるαであれば、噂に聞いたことがあるだろうが、内容については自分で調べない限り親切に教えてくれる者などいない。
αは個人主義なため、一々親切に教えたりはしないだろうし、βはαを恨んでいる。教える義理もなければ、暴徒の餌食になろうがお構いなしだ。
「どっちにしろ、一時帰国の予定は聞いておいた方がいいんじゃないかな?」
と、彼。
「そうだね。国境まで送迎の必要があるだろうし」
「最悪、外へ出なければなんとかなるとは思うけれど」
窓を拭き終えた彼は、掃除道具を纏めるとカイルに向き直って。カイルはその言葉を受け、昨年の独立記念日のことを思い出す。
どんなにαを憎んでいようとも、元皇族であるカイルは参加することができない。Ωであるレンはもちろんのこと。妹姫がなくなったのは一昨年であり、彼女が亡くなって初めての独立記念日であった。
あの日のことは忘れない。
前代未聞の数の国民が暴徒と化す。
独立記念日のことを知らなかったα、逃げ遅れた者どものが軒並み犠牲となり、街にはあちこちに煙があがった。確かに自分もαに憎しみを感じていたが、人はそこまで残酷になれるのものなのだと感じたものだ。
「クライスは他のαとは違う」
思わず呟いたカイルに、彼が一瞬驚いた表情をする。
「守ってやらないと」
「カイル」
「うん?」
呼ばれて彼に視線を移すと、レンは優しい目をしこちらを見ていたのだった。
「ちょっ……なんかそれ、おかしくない?」
”いっぱいエッチな声出していいよ”とレンに言われ、カイルは困惑した。
「何もおかしくないでしょ?」
と彼は、カイルにもう一度ちゅっと口づけると、そっと離れる。
「そう言えば、クライスは独立記念日のこと知っているのかな……」
と、彼。
───そうだ、もうすぐ独立記念日。αにとっては地獄の日。
捜査依頼でこの国に滞在しているというのならば、一時帰国については警察のほうで手続きが行われるだろう。カイルはそんな風に考えており、警察のほうには確認をしなかった。このことが後に大事件に繋がるとも思わずに。
「前回が初入国とは言っていたが、この国についての基礎知識くらいはあるんじゃないか?」
と、カイル。
「うーん」
彼は、カイルの考えには賛同できないようだ。
「僕らはずっとこの国にいるからそう思うかもしれないけど、よその国で暮らしていたら、習慣や法律って意外と知らないことの方が多いと思うし、何を知って置いたらいいかとなると、ガイドブック程度のことにしか気がまわらないんじゃないかな?」
確かに、彼の言う事は一理ある。独立記念日は忌まわしい行事。何度もこの国に足を運んでいるαであれば、噂に聞いたことがあるだろうが、内容については自分で調べない限り親切に教えてくれる者などいない。
αは個人主義なため、一々親切に教えたりはしないだろうし、βはαを恨んでいる。教える義理もなければ、暴徒の餌食になろうがお構いなしだ。
「どっちにしろ、一時帰国の予定は聞いておいた方がいいんじゃないかな?」
と、彼。
「そうだね。国境まで送迎の必要があるだろうし」
「最悪、外へ出なければなんとかなるとは思うけれど」
窓を拭き終えた彼は、掃除道具を纏めるとカイルに向き直って。カイルはその言葉を受け、昨年の独立記念日のことを思い出す。
どんなにαを憎んでいようとも、元皇族であるカイルは参加することができない。Ωであるレンはもちろんのこと。妹姫がなくなったのは一昨年であり、彼女が亡くなって初めての独立記念日であった。
あの日のことは忘れない。
前代未聞の数の国民が暴徒と化す。
独立記念日のことを知らなかったα、逃げ遅れた者どものが軒並み犠牲となり、街にはあちこちに煙があがった。確かに自分もαに憎しみを感じていたが、人はそこまで残酷になれるのものなのだと感じたものだ。
「クライスは他のαとは違う」
思わず呟いたカイルに、彼が一瞬驚いた表情をする。
「守ってやらないと」
「カイル」
「うん?」
呼ばれて彼に視線を移すと、レンは優しい目をしこちらを見ていたのだった。
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