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7話『βの国の独立記念日』
7 運命の出会い
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****♡Side・α(クライス)
クライスは朝食を取り終え、フォークとナイフを皿の上に置く。すると、給仕がデザートを出してくれた。
αの統治国家では滅多にお目にかかれない、装飾の綺麗なケーキである。
「わあ……綺麗」
クライスが思わず感想を声に出すと、カイルがニコッと笑い、レンはふふふっと声を出して笑った。途端に恥ずかしくなってしまう、クライス。
「俺の国では珍しいので」
何もケーキが特別なわけではない。αは機能性を重視し、装飾は軽視する傾向にある。無駄を好まないのだ。
そのためこのような美しく繊細な細工のモノには滅多にお目にかかれない。先ほど、自分が国では”奇跡の子”と呼ばれる分類に入ることをカイル達に説明したばかり。
『通りで、αにしては違和感があると思ったんだ』
とカイルは言った。
カイルの言葉を受けて、レンも納得した表情を見せる。
「そろそろ事件の日のことについて、聞いてもいいかな」
と、カイルは両手の指先を合わせると、真剣な面持ちでクライスを見つめた。
クライスは、姿勢を正し、
「それはもちろん」
と答える。
そもそもここに居るのは、事件の日のことを当事者であるクライスから、直接聞きたいとの要望があったから。ご飯を馳走になり雑談ばかりでは、目的を果たしていない。
───それでも、この国に来た目的は果たせた。
俺はやっぱり、カイルに惹かれている。
これは事実だ。
「俺があの日見たのは、立ち去る人影と茶色の薬瓶です」
クライスは結論から述べ、疑問について質問してもらおうと思っていた。
「きっと人影は、あの日尋ねて来た人だね、カイル」
とレンがカイルのほうに視線を向ける。
「そうだな。時間からしてもそうに違いない。なあ、クライスはその人物の背格好は見ていないのか?」
「危険を感じたので」
相手を見ることなく退避したと説明すると、カイルとレンの二人は顔を見合わせた。その意味がクライスにはわからない。
何か変なことを言ってしまっただろうか?
「ねえ、瓶のほうは何だったの?」
と、レン。
「あの瓶には”発情促進薬”というラベルが貼られていました」
「なんだって!?」
と声を上げたのはカイル。
レンは両手で口元を抑え、驚いた表情をしている。
「あ、そうだ……」
クライスは持ち物の中からスコープを出し、彼らのほうに押しやった。
「見たものが記録されるんです」
車につけるドライブレコーダーのように、αはβの国で身を守るには記録が一番だと考えている。αにとってこの国では、なにかあれば圧倒的に不利な立場。そんな時に活躍するのがこの記録型スコープだ。見たものを記録に残し、証言の裏付けにするのである。
クライスから受け取ったカイルがスコープの映像を覗き込み、続いてレンに渡す。
「レン。いよいよ分からなくなってきたよ」
と、カイル。
「そうだね。これでクライスの言っていた”危険を感じた”という意味も理解した」
レンはそう言って頷く。
「ねえ、クライス。君も俺たちと一緒に事件について調べないか?」
カイルの突然の提案に、クライスは驚きを隠せない。
「そんな顔をしないで。これで分かったのは、犯人の目的が俺たちの中の誰か分からなくなったということなんだ」
「え?」
レンを発情させ、クライスを罠に嵌めるつもりだったのか。
カイルを恨んだものが、レンをαに奪わせるつもりだったのか。
レンに嫉妬したカイル信者が嫌がらせで行ったことのなのか。
「どのみちこのままじゃ、また何か起こる。協力してくれないかな? 君を悪いようにはしないし」
クライスには断る理由はなかった。
そしてカイルは、
「この国にいる間は、うちに滞在するといい」
と提案する。
こうしてクライス、カイル、レンの三人は一緒に行動することとなったのだ。
彼らはまだ知らない。
この出会いが運命であることを。
クライスは朝食を取り終え、フォークとナイフを皿の上に置く。すると、給仕がデザートを出してくれた。
αの統治国家では滅多にお目にかかれない、装飾の綺麗なケーキである。
「わあ……綺麗」
クライスが思わず感想を声に出すと、カイルがニコッと笑い、レンはふふふっと声を出して笑った。途端に恥ずかしくなってしまう、クライス。
「俺の国では珍しいので」
何もケーキが特別なわけではない。αは機能性を重視し、装飾は軽視する傾向にある。無駄を好まないのだ。
そのためこのような美しく繊細な細工のモノには滅多にお目にかかれない。先ほど、自分が国では”奇跡の子”と呼ばれる分類に入ることをカイル達に説明したばかり。
『通りで、αにしては違和感があると思ったんだ』
とカイルは言った。
カイルの言葉を受けて、レンも納得した表情を見せる。
「そろそろ事件の日のことについて、聞いてもいいかな」
と、カイルは両手の指先を合わせると、真剣な面持ちでクライスを見つめた。
クライスは、姿勢を正し、
「それはもちろん」
と答える。
そもそもここに居るのは、事件の日のことを当事者であるクライスから、直接聞きたいとの要望があったから。ご飯を馳走になり雑談ばかりでは、目的を果たしていない。
───それでも、この国に来た目的は果たせた。
俺はやっぱり、カイルに惹かれている。
これは事実だ。
「俺があの日見たのは、立ち去る人影と茶色の薬瓶です」
クライスは結論から述べ、疑問について質問してもらおうと思っていた。
「きっと人影は、あの日尋ねて来た人だね、カイル」
とレンがカイルのほうに視線を向ける。
「そうだな。時間からしてもそうに違いない。なあ、クライスはその人物の背格好は見ていないのか?」
「危険を感じたので」
相手を見ることなく退避したと説明すると、カイルとレンの二人は顔を見合わせた。その意味がクライスにはわからない。
何か変なことを言ってしまっただろうか?
「ねえ、瓶のほうは何だったの?」
と、レン。
「あの瓶には”発情促進薬”というラベルが貼られていました」
「なんだって!?」
と声を上げたのはカイル。
レンは両手で口元を抑え、驚いた表情をしている。
「あ、そうだ……」
クライスは持ち物の中からスコープを出し、彼らのほうに押しやった。
「見たものが記録されるんです」
車につけるドライブレコーダーのように、αはβの国で身を守るには記録が一番だと考えている。αにとってこの国では、なにかあれば圧倒的に不利な立場。そんな時に活躍するのがこの記録型スコープだ。見たものを記録に残し、証言の裏付けにするのである。
クライスから受け取ったカイルがスコープの映像を覗き込み、続いてレンに渡す。
「レン。いよいよ分からなくなってきたよ」
と、カイル。
「そうだね。これでクライスの言っていた”危険を感じた”という意味も理解した」
レンはそう言って頷く。
「ねえ、クライス。君も俺たちと一緒に事件について調べないか?」
カイルの突然の提案に、クライスは驚きを隠せない。
「そんな顔をしないで。これで分かったのは、犯人の目的が俺たちの中の誰か分からなくなったということなんだ」
「え?」
レンを発情させ、クライスを罠に嵌めるつもりだったのか。
カイルを恨んだものが、レンをαに奪わせるつもりだったのか。
レンに嫉妬したカイル信者が嫌がらせで行ったことのなのか。
「どのみちこのままじゃ、また何か起こる。協力してくれないかな? 君を悪いようにはしないし」
クライスには断る理由はなかった。
そしてカイルは、
「この国にいる間は、うちに滞在するといい」
と提案する。
こうしてクライス、カイル、レンの三人は一緒に行動することとなったのだ。
彼らはまだ知らない。
この出会いが運命であることを。
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