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7話『βの国の独立記念日』
6 そのαへの違和感
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****♡Side・β(カイル)
カイルは二人と共に、二階のリビングへ向かう。
レンがクライスを上座に通すと向かい側に腰かけ、カイルはレンの隣に腰をおろす。
「お口に合うと良いですが」
そう言いながら、食事を持ってきた給仕の者がクライスの前に皿を置くのを、カイルはじっと見ていた。
カイルは先ほどから、彼の首に下げられている銀のネックレスが気になっている。仕事で何度もαの統治国家に足を踏み入れたことがあるが、彼らが身に着ける装飾品は、時計や婚姻の証である指輪が一般的だ。
特に、首に何かを下げている者など見たことがない。
いや、下げるとするならば、社員証などの証明書のみだ。
───容姿だけなら、αだということは疑いようがないのだが。
なんだ、この違和感は。
「ありがとうございます。美味しそう」
レンも何か思うところがあるのだろうか、給仕のβ女性体に向け微笑むクライスを、じっと見つめていた。
「あの、頂いても?」
あまりにも二人が自分をじっと見ているので、居心地の悪そうな表情を浮かべ、彼が二人に交互に視線を移し尋ねる。
「ええ、もちろん」
カイルは彼に向かって微笑む。一種の社交辞令のようなものだ。
しかし彼は頬を染め、伏し目がちになりフォークとナイフを手に取る。
───うん?
「僕も。いただきます」
自分たちが手を付けなければ食べづらかろうと思ったのか、レンが彼に倣いフォークを手に取った。カイルは食事を始める二人を眺めながら、スープのカップに手を伸ばす。
「美味しい」
彼に出された食事は、オーソドックな朝食でバランスがいい。
それに比べ、レンの食事は生ものが多く、主食と言えるものがない。カイルの食事は粥に具のないスープ、野菜で出来た数種類のムース。そこに鶏肉の肉団子が添えられている。
二人の食事があまりにも対照的に見えたのか、
「お二人の好みは真逆なんですか?」
と質問された。
「うん、僕は生ものが好きなんだよね」
レンは酵素の多く含まれたものを身体が欲する様だ。
「俺は、原型の留めているモノがどうも苦手でね」
と、カイル。
すると、カリっと焼き目を付けたフランスパンに、ローストビーフと野菜を挟んだものを頬ぼっていたクライスが、とても驚いた顔をし、
「こんなに美味しいのに。勿体ないですね」
と。
カイルは苦笑いをしながら、
「どうも受け付けなくて」
と返す。
「何か、トラウマでも?」
その質問に、記憶を辿ってみるものの、思い当たることがみつからなかった。気づけばカイルは、そのようなものを口にすることが出来なくなっていたのだ。
「ところで、クライスさんって」
レンはずっと気になっていたのだろうか、
「αっぽくないよね」
と。
カイルも同じく気になっていたことだ。
「クライスで結構です」
彼は初めに、敬称が不要であることを告げた。
それを受け、
「俺たちも、カイルとレンでいいから」
とカイルが返し、
「あと、敬語いいから」
と、レン。
同じ年ではないだろうが、彼は恐らく年が近いように感じる。これからいろんな話を聞く為にも、打ち解けたいと二人は思っていたのだった。
カイルは二人と共に、二階のリビングへ向かう。
レンがクライスを上座に通すと向かい側に腰かけ、カイルはレンの隣に腰をおろす。
「お口に合うと良いですが」
そう言いながら、食事を持ってきた給仕の者がクライスの前に皿を置くのを、カイルはじっと見ていた。
カイルは先ほどから、彼の首に下げられている銀のネックレスが気になっている。仕事で何度もαの統治国家に足を踏み入れたことがあるが、彼らが身に着ける装飾品は、時計や婚姻の証である指輪が一般的だ。
特に、首に何かを下げている者など見たことがない。
いや、下げるとするならば、社員証などの証明書のみだ。
───容姿だけなら、αだということは疑いようがないのだが。
なんだ、この違和感は。
「ありがとうございます。美味しそう」
レンも何か思うところがあるのだろうか、給仕のβ女性体に向け微笑むクライスを、じっと見つめていた。
「あの、頂いても?」
あまりにも二人が自分をじっと見ているので、居心地の悪そうな表情を浮かべ、彼が二人に交互に視線を移し尋ねる。
「ええ、もちろん」
カイルは彼に向かって微笑む。一種の社交辞令のようなものだ。
しかし彼は頬を染め、伏し目がちになりフォークとナイフを手に取る。
───うん?
「僕も。いただきます」
自分たちが手を付けなければ食べづらかろうと思ったのか、レンが彼に倣いフォークを手に取った。カイルは食事を始める二人を眺めながら、スープのカップに手を伸ばす。
「美味しい」
彼に出された食事は、オーソドックな朝食でバランスがいい。
それに比べ、レンの食事は生ものが多く、主食と言えるものがない。カイルの食事は粥に具のないスープ、野菜で出来た数種類のムース。そこに鶏肉の肉団子が添えられている。
二人の食事があまりにも対照的に見えたのか、
「お二人の好みは真逆なんですか?」
と質問された。
「うん、僕は生ものが好きなんだよね」
レンは酵素の多く含まれたものを身体が欲する様だ。
「俺は、原型の留めているモノがどうも苦手でね」
と、カイル。
すると、カリっと焼き目を付けたフランスパンに、ローストビーフと野菜を挟んだものを頬ぼっていたクライスが、とても驚いた顔をし、
「こんなに美味しいのに。勿体ないですね」
と。
カイルは苦笑いをしながら、
「どうも受け付けなくて」
と返す。
「何か、トラウマでも?」
その質問に、記憶を辿ってみるものの、思い当たることがみつからなかった。気づけばカイルは、そのようなものを口にすることが出来なくなっていたのだ。
「ところで、クライスさんって」
レンはずっと気になっていたのだろうか、
「αっぽくないよね」
と。
カイルも同じく気になっていたことだ。
「クライスで結構です」
彼は初めに、敬称が不要であることを告げた。
それを受け、
「俺たちも、カイルとレンでいいから」
とカイルが返し、
「あと、敬語いいから」
と、レン。
同じ年ではないだろうが、彼は恐らく年が近いように感じる。これからいろんな話を聞く為にも、打ち解けたいと二人は思っていたのだった。
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