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7話『βの国の独立記念日』
4 必然的な出会い
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****♡Side・α(クライス)
クライスをホテルまで迎えに来てくれたのは、品のあるβ男性体の紳士だった。年の頃は三十過ぎくらいだろうか。もしかしたらもっと年を重ねているのかも知れないが、とても若々しく見えた。
彼はカイルの執事を務めているという。クライスは迎えの車に乗り込むと後部座席に品よく座り、昨夜のレストランでの会話を思い出していた。
───快楽に囚われたα。
居場所を突き止めた時は廃人同然で、今は生死もわからない。
会社からの調査命令は、生死を問うものでも、居場所を突き止めるものでもではない。連絡が取れなくなった時点で会社は、そのαを見捨てたのだ。
彼は会社に関係する書類が残っていれば、破棄しろという任務を受けた。
『あなたはどうして、まだこの国に留まっておられるのですか?』
クライスの問いに、彼はフッと笑う。任務はもう終了している。ここへいる意味はもうない。αならば、そこまで誰かに拘ったりはしないはず。
すると、彼は驚くべきことを口にしたのだ。
『アイツは、恋人だったんだよ』
αの国では禁断の関係。
α男性体同士やα女性体同士の恋人関係は許されていない。もっとも奇跡の子以外のαが恋をしたなどと言う事は聞いたことがなかった。
そこでクライスは、おやっと思う。
話しかけてきたことへの違和感。
クライスに忠告した意味。
そして、禁断の関係。
『君の思っている通り、アイツも俺も奇跡の子ってやつだよ』
Ω男性体よりも更に少ないとされる、奇跡の子。彼らは自然と集まるということから、この出会いは必然なのだとクライスは感じていた。類は類、友は友を呼ぶ。
彼はαと奇跡の子との違いについて研究し、目立たないように普通のαのフリをして生きて来たという。そんな中、自然に振舞う奇跡の子、αの彼に出逢った。
『自分と真逆の生き方をするアイツに惹かれたんだ』
───α同士の恋とはどんなものだったのだろう。
αはβとは違って、身体の交わりを求めるような関係にはなれない。αには欲情というものがないから。とするなら、きっと心と心の繋がりを大切にしていたのだろう。
しかしその恋人が、複数のβに凌辱され、快楽を知ってしまったなら?
彼はどんな思いで、かつての恋人の変わりゆく姿を見たのだろう。
自分には恋人は救えない。代わりになることもできない。目の前にあるのは絶望。一般のαと違い、奇跡の子には豊かな感情というものがある。恋人のαは彼を裏切る行為に溺れながら、自分自身の運命を呪ったに違いない。
『君は、アイツのようにならないように気を付けるんだ』
彼はクライスに、かつての恋人の幻影を重ねていたのだろう。
『独立記念日の前には必ず、国に戻るんだ』
”αを守ってくれる者はこの国にはいない”彼はそう言って、唇を歪めた。クライスとて、その事は分かっているつもりだ。
───あの人は、どうするつもりなのだろうか。
「クライス様、着きましたよ」
考え事をしていたクライスは、執事の声によって現実に引き戻されたのだった。
クライスをホテルまで迎えに来てくれたのは、品のあるβ男性体の紳士だった。年の頃は三十過ぎくらいだろうか。もしかしたらもっと年を重ねているのかも知れないが、とても若々しく見えた。
彼はカイルの執事を務めているという。クライスは迎えの車に乗り込むと後部座席に品よく座り、昨夜のレストランでの会話を思い出していた。
───快楽に囚われたα。
居場所を突き止めた時は廃人同然で、今は生死もわからない。
会社からの調査命令は、生死を問うものでも、居場所を突き止めるものでもではない。連絡が取れなくなった時点で会社は、そのαを見捨てたのだ。
彼は会社に関係する書類が残っていれば、破棄しろという任務を受けた。
『あなたはどうして、まだこの国に留まっておられるのですか?』
クライスの問いに、彼はフッと笑う。任務はもう終了している。ここへいる意味はもうない。αならば、そこまで誰かに拘ったりはしないはず。
すると、彼は驚くべきことを口にしたのだ。
『アイツは、恋人だったんだよ』
αの国では禁断の関係。
α男性体同士やα女性体同士の恋人関係は許されていない。もっとも奇跡の子以外のαが恋をしたなどと言う事は聞いたことがなかった。
そこでクライスは、おやっと思う。
話しかけてきたことへの違和感。
クライスに忠告した意味。
そして、禁断の関係。
『君の思っている通り、アイツも俺も奇跡の子ってやつだよ』
Ω男性体よりも更に少ないとされる、奇跡の子。彼らは自然と集まるということから、この出会いは必然なのだとクライスは感じていた。類は類、友は友を呼ぶ。
彼はαと奇跡の子との違いについて研究し、目立たないように普通のαのフリをして生きて来たという。そんな中、自然に振舞う奇跡の子、αの彼に出逢った。
『自分と真逆の生き方をするアイツに惹かれたんだ』
───α同士の恋とはどんなものだったのだろう。
αはβとは違って、身体の交わりを求めるような関係にはなれない。αには欲情というものがないから。とするなら、きっと心と心の繋がりを大切にしていたのだろう。
しかしその恋人が、複数のβに凌辱され、快楽を知ってしまったなら?
彼はどんな思いで、かつての恋人の変わりゆく姿を見たのだろう。
自分には恋人は救えない。代わりになることもできない。目の前にあるのは絶望。一般のαと違い、奇跡の子には豊かな感情というものがある。恋人のαは彼を裏切る行為に溺れながら、自分自身の運命を呪ったに違いない。
『君は、アイツのようにならないように気を付けるんだ』
彼はクライスに、かつての恋人の幻影を重ねていたのだろう。
『独立記念日の前には必ず、国に戻るんだ』
”αを守ってくれる者はこの国にはいない”彼はそう言って、唇を歪めた。クライスとて、その事は分かっているつもりだ。
───あの人は、どうするつもりなのだろうか。
「クライス様、着きましたよ」
考え事をしていたクライスは、執事の声によって現実に引き戻されたのだった。
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