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7話『βの国の独立記念日』

1 彼はもう、救えない

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****♡Side・α(クライス)

「あのっ。その同僚の方はどうなったんですか?」
 クライスは手元の写真から相手へと視線を移した。
「俺たちαには発情はあっても、性欲というものはない」
 それはαが繁殖能力が低いために独自の進化、あるいは退化した結果であろう。
 クライス自身もなんら不便を感じた事もなければ、ある意味万年発情期であるβを羨ましいと思ったこともなく、不要な欲求だと思っている。
「だが快楽を得られることには変わりない」
「と、言うと?」
「そうだな……」
 彼は言いたいとことを動物に例え説明してくれた。
「例えば飼い猫。人間以外の動物というのは料理をしない」
「ええ、そうですね」
「だから調味料というものを使わないし、使いたいとも思わないはずだ」

 それをαに当てはめるならば、”性欲を持たないから性交を行いたいという気持ちが芽生えない”ということを指している。
 しかし自然界以外の味を人間が飼い猫に教えてしまったなら?

「濃い味を覚えてしまった飼い猫は、その味を求めてしまう」
 そう、快楽を覚えてしまえば快楽から抜け出せなくなるのだ。
 βにとってαは、Ωと違い憎むべき存在。どんなにぞんざいに扱おうとも、心が痛むこともない。
 毎年行われてきた”βの独立記念日”、通称『α狩りの日』ではどれだけのαが犠牲になったか分からない。
 αは我が子であっても愛情は持たない。人というよりは、優秀な後継ぎという括りで考えられることの方が一般的。
 そしてβの独立国に出入りする者たちは、”死と隣り合わせ”と考えるのが当然のことなのだ。

 仮に行方不明になろうとも、αの統治国家が動くことはなく、闇に葬られる。何故、αが子供に愛情を注げないのか。それはαの産まれに関係していた。
 彼らはβのように愛を育み、結婚して子を成しているわけではないからだ。非人道的なシステムによって産まれてくる。
 クライスのように、両親に愛されて育つαのほうが稀なのだ。

「彼はもう、救えない」
 βたちに快楽を植え付けられ、それがなければ生きてはいけない。そこから逃げ出したところで、αの統治国家では代りのモノは得ることが出来ない。
「君もこの国に滞在するなら、気を付けることだ」
 クライスは何故彼が自分に同僚の話をし、忠告するのか気になった。初めて滞在する者すべてに教えている、とでもいうのだろうか?

「君は情を持つとされる、奇跡の子だ。もし道端に人が倒れていたならば、きっと無意識に助けてしまうだろう。それが罠だと気づかずに」

───なんて恐ろしい国なんだ。

 それでも、カイルに会いたい一心で、自分はこの国に居る。もしこれが恋でないというのならば、自分は異常でしかない。
 クライスは複雑な気持ちになりながらも、気を引き締めたのだった。
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