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6話『運命を揺るがす出逢い』

5 復讐の餌食となったα

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****♡Side・α(クライス)

「明日……朝……迎え……」
 クライスは恐怖と戦う為に、ぽつりと呟く。
 時間を追うごとに増すその恐怖は、今までに感じた事のないものだった。ホテル最上階のレストランで、なかなか喉を通らない食事を無理やり口に持っていくものの、身体が拒否をしている。
 ふと周りを見渡せば、十数名の客。皆、黙々と食事をしていた。仕事で訪れるものは単独が多いからだ。
「ねえ、君」
 いつの間にか傍らに男性体の者が立っていて驚く。ボーイではないことから、彼もαであろう。αが他人に用もなく話しかけることは極めてまれな為、クライスはとても驚いた。
「ふふ、やっぱり。君、”奇跡の子”って奴だろ」
「何故、わかるんですか?」
 αであることが背格好からわかっても、”奇跡の子”であることは分からないはずだ。何処かに証拠をつけているわけでもない。

「簡単だよ」
 言って彼は隣に腰かける。そして、クライスの首にかけられた銀のチェーンを指さす。ロケットのついたものだ。中には家族写真が入れられている。
「一般のαはそんなものはつけない」
 αは身だしなみに気は遣うが、それはビジネスの一環としてだ。不要なモノ、単なるお洒落のための装飾品はつけないと彼は言う。特にΩを想像しやすい首には、何もつけないのが一般的である。
 クライスは外せと言われるのを恐れ、ぎゅっとロケット握った。

───俺はαであって、αでない。

 まるでそう言われているようで、心の行き場を失う。
 βに産まれたかったとどんなに憧れたところで、βにはなれない。αとしても落ちこぼれと言われたように感じ、悲しくなった。まるで世界に独りぼっちのような感覚。どんなに傷ついたとしても、αの自分を守ってくれる者などこの国にはいやしない。
「そんなに警戒しなさんなって」
 ビジネス以外で他人に興味など向けないはずのα。何故彼が自分に話しかけて来たのか。それを考えると怖い。何か、事件に巻き込まれるような、嫌な予感がした。

「”奇跡の子”ってどんな感じ? 俺たちαにはない感覚を持っているって話は、よく耳にするけれど」
「どんなとは?」
「そうだな、例えば性欲とか」
「性欲……」
 希少なΩとしか子を成すことの出来ないαには、性欲など存在しない。
 あったところでΩは希少な上、発情期にしか受精しない。そんなレアケースに対し、性欲など持ち合わせていては無駄としか言いようがない。その為、数打てば当たるかもしれないβとは違いαの性欲は退化していった。”奇跡の子”とてそれは同様である。
「そっか」
と言って彼は一枚の写真を取り出し、クライスのほうへ押しやった。
 それはとても衝撃的な写真である。

「性欲がなくても快感は得られるみたいだぜ」
「これは?」
「βの復讐の餌食になった、哀れなαさ」
 彼はここに仕事の為に入国していた、行方不明の同僚について調査に訪れたのだという。
 写真には、その同僚らしきαが数人のβに凌辱されている姿が映し出されてしたのだった。
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