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6話『運命を揺るがす出逢い』
2 無関心だった自分
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****♡Side・α(クライス)
『おう、クライス。そっちはどうだ? 会えたのか?』
「どうやら滞在期間が伸びそうなんだ」
クライスはラット抑制剤を届けてもらう為に、専用電話で自国に居る友人の爽に通話をしていた。母はΩ、外を出歩くことはしない。父は仕事が忙しく、とてもじゃないが頼めない。こんな時頼りになるのは親友の爽だけだった。
『そういや、事件に巻き込まれたんだって?』
「うん」
『長期滞在なら、抑制剤がもっと必要になるかもしれないな』
「そうなんだよ。持ってきて貰えないかな? 国境のゲートで受け取れるように手配してもらったからさ」
『それはもちろん』
爽はクライスの頼みを二つ返事でOKしてくれた。初めてこの国を目指した時は反対したものの、彼はいつだってクライスの味方でいてくれる大親友なのだ。
「爽……」
『どうした? ホームシックか?』
「俺、生きて帰れるのかな」
『クライス、お前……』
しばし黙り込む二人。
一時帰国した際に爽は、クライスからβの独立国の様子を聞いてクライスの不安について聞いている。
「あした、会いたかった人に会えるんだ」
彼を心配させてしまったと思い、クライスは話を変えた。
『まじか。やったな』
「うん」
彼と三十分ほど通話をし部屋に戻ると、ソファーの上で膝を抱える。一人になると急に不安と寂しさが襲ってきた。初めてこの国に足を踏み入れた時とは、全く違う気持ち。
────そうだ、あの時はいつだって帰れるって思っていたんだ。
クライスは、負の気持ちを払う為に手帳を開く。αを嫌うカイルに失礼があってはならないと思いながら。
「え?」
クライスは手帳からはらりと落ちる紙を拾い上げ、中身を確認し青ざめた。それは書き写し忘れたコピーの一枚。
「独立国記念日」
タイトルを読み上げ、もう一度中身を確認する。
────別名:α狩りの日。
暴徒と化したβたちが、国内に滞在中のαを容赦なく襲う。皇族は参加することはできない。暴徒が罰せられることもない。αにとって、最も恐れる行事である。
特に、第一皇女(カイルの妹姫)が亡くなった年は暴徒の数が過去最大となり、出国し遅れたαの十数名が見せしめとして犠牲になった。
暴徒となるのは、αに何らかの形で親しい人や家族を奪われた者たちである。
概要に目を通し、カレンダーを確認した。このままこの国に留まれば、その日は近い。一度、国に戻れるのか確認する必要があるようだ。
────もし、帰れなかったら?
クライスはコピーを手帳にしまうと、ソファーから立ち上がる。窓際まで歩いて行き、窓から見える夜景を見つめた。
そして、今まで自分がどれほど恵まれて生きて来たのか考える。どれほど、国のΩに対して無関心だったのかを。
『おう、クライス。そっちはどうだ? 会えたのか?』
「どうやら滞在期間が伸びそうなんだ」
クライスはラット抑制剤を届けてもらう為に、専用電話で自国に居る友人の爽に通話をしていた。母はΩ、外を出歩くことはしない。父は仕事が忙しく、とてもじゃないが頼めない。こんな時頼りになるのは親友の爽だけだった。
『そういや、事件に巻き込まれたんだって?』
「うん」
『長期滞在なら、抑制剤がもっと必要になるかもしれないな』
「そうなんだよ。持ってきて貰えないかな? 国境のゲートで受け取れるように手配してもらったからさ」
『それはもちろん』
爽はクライスの頼みを二つ返事でOKしてくれた。初めてこの国を目指した時は反対したものの、彼はいつだってクライスの味方でいてくれる大親友なのだ。
「爽……」
『どうした? ホームシックか?』
「俺、生きて帰れるのかな」
『クライス、お前……』
しばし黙り込む二人。
一時帰国した際に爽は、クライスからβの独立国の様子を聞いてクライスの不安について聞いている。
「あした、会いたかった人に会えるんだ」
彼を心配させてしまったと思い、クライスは話を変えた。
『まじか。やったな』
「うん」
彼と三十分ほど通話をし部屋に戻ると、ソファーの上で膝を抱える。一人になると急に不安と寂しさが襲ってきた。初めてこの国に足を踏み入れた時とは、全く違う気持ち。
────そうだ、あの時はいつだって帰れるって思っていたんだ。
クライスは、負の気持ちを払う為に手帳を開く。αを嫌うカイルに失礼があってはならないと思いながら。
「え?」
クライスは手帳からはらりと落ちる紙を拾い上げ、中身を確認し青ざめた。それは書き写し忘れたコピーの一枚。
「独立国記念日」
タイトルを読み上げ、もう一度中身を確認する。
────別名:α狩りの日。
暴徒と化したβたちが、国内に滞在中のαを容赦なく襲う。皇族は参加することはできない。暴徒が罰せられることもない。αにとって、最も恐れる行事である。
特に、第一皇女(カイルの妹姫)が亡くなった年は暴徒の数が過去最大となり、出国し遅れたαの十数名が見せしめとして犠牲になった。
暴徒となるのは、αに何らかの形で親しい人や家族を奪われた者たちである。
概要に目を通し、カレンダーを確認した。このままこの国に留まれば、その日は近い。一度、国に戻れるのか確認する必要があるようだ。
────もし、帰れなかったら?
クライスはコピーを手帳にしまうと、ソファーから立ち上がる。窓際まで歩いて行き、窓から見える夜景を見つめた。
そして、今まで自分がどれほど恵まれて生きて来たのか考える。どれほど、国のΩに対して無関心だったのかを。
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