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5話『動き出す、運命の輪』

6 目的を違えずに

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****♡side・α(クライス)

『明日の朝、カイル様が”ホテルの方へ迎えの者を寄こす”と伝えて欲しいと、連絡がありましてね』
 滞在先のホテルに戻ったクライスは、担当の刑事に言われたことを思い出しながら一人、遅めの昼食を取っていた。
 このホテルの料理人の腕は、一流だと思う。しかし一人で食べる料理は、何故こんなにも味気ないのだろうか。

『迎え、ですか?』
『”朝食をご一緒に”とのことです。どうやら、直接話を聞きたいと』

 カイルは今回の事件……事件といっていいだろう、について自分の持つ疑問について、クライスから直接話を聞きたいらしい。
 彼とてこの刑事が、クライスからの情報をカイルに正しく伝えてくれない可能性がある、などという疑いを持っているわけではない。微妙なニュアンスの違いなどは、直接聞かないと分からないものだと思う。人は他人から聞いた情報を、そのまま別の人物に伝えるのが難しい。それは自分なりに解釈し、より分かりやすく相手に説明しようとするからである。
 今だって、そうだ。カイルが”どんな様子で”クライスの話を聞きたいと言ったのかわからない。

 クライスは一度国に戻った際に、βの国について調べたことをメモした手帳を繰った。何故わざわざ手書きをするかと言えば、滞在中、頻繁にスマホに触れることが危険極まりないからである。
 何かあった時に一番に目を付けられるのは記憶媒体。調べれば調べるほどクライスは、この国に恐怖を感じていた。
 そして、そうさせているのが自国であることを実感していたのだ。

 一度目の滞在とは違う覚悟を持って、クライスはここに居る。無知とはどれほど愚かであり、知らないゆえに気丈でいられるのかを知った。
 クライスの心を掴んで離さないカイルという人物は、元この国の第一皇子。αの統治国家でも報道された、あのΩ女性の親族だった。 
 何故ホテルマンや刑事が、カイルのことを”様”とつけて呼ぶのか。カイルの素性を知るまでは深く考えてはいなかった。しかし知った今は、彼らは敬意を持ってカイルに対し、様をつけるのだと気づく。

────カイルはαを、心の底から憎んでいる。

 突きつけられた現実に、クライスは心が折れそうになる。想いが叶うなんて、はなから思っちゃいないが、せめて友人になれたらいいのにと思っていた。しかも彼にはΩの恋人がいる。警察に任せて置けばいいことを自らも調べたいと思うのは、今回事件に巻き込まれたのが恋人だからだ。

────どこにも入る隙なんてないのに、それでもまだ……。

 カイルがどんな人かも知らないのに一方的に想いを寄せる自分。何故ここまで執着してしまうのか分かってない。い、や自分はこの気持ちが何なのかを知りたかったから、危険を起こしてまでもβの独立国に入国したのだ。

────そうだ。落ち込んでいる場合じゃない。目的を誤ってはだめだ。

 気持ちを新たにしたクライスに、もう迷いはなかった。
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