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4話『望まぬ発情と愛情』
1 フェロモンにあてられて
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****♡Side・α(クライス)
時は少し遡る───。
「!」
クライスはカイルの屋敷に向かう途中で立ち止まった。彼の家は目前だが、すごく嫌な予感がする。
────なんだろう、この違和感。
クライスは目だけで辺りを見回す。この国は手入れが行き届いており、景観をとても大切にしているのだと感じていた。それは入国の時の第一印象である。そこで、クライスはハッとした。
この路地も清掃が行き届いており、チリ一つ見つからない。なのにカイルの家の前には、茶色の薬瓶が転がっている。不自然極まりない。蓋が開いたままの薬瓶には、何やらラベルが貼ってあるようだが、この位置からは遠すぎて確認できなかった。
クライスは自分の勘を信じポケットに手を入れると、スコープを取り出して目に充てる。
「…発情促進薬?」
五十倍に拡大し、読み取れたのは薬品名。しかも服用や直接摂取するものではなく、香りタイプのようだ。
────!! これは罠だ。
クライスはそれ以上近づくのを止め、ゆっくりと後ずさる。自分の腕につけられているGPSが、何処まで高性能かは分からない。監視カメラもあるはずだから、もし疑いをかけられても容疑は晴れるはず。
だがβはαにとって、敵と言っても過言ではない。周りから見て自然な動作に感じるように、頷いてから踵を返した。フロントの従業員には、”カイルの屋敷の位置を確認してくる”と告げてある。クライスはとっさに、”位置確認できたから帰る”そう見えるように振舞ったのだ。
ゆったりとした歩調で歩き出す、クライス。すると数歩あるいた後、背後に人の気配を感じた。瓶が石に当たる小さな音、もしかしたら襲われるかもしれないと思い、そちらに全神経を集中させる。しかし相手は、
「ちっ」
と舌打ちしたのち、クライスが振り返るよりも先にその場から消えていたのだった。
────俺は……誰かに恨まれているのか? それとも……。
カイルがΩ性の者と一緒に暮らしていることが頭を過る。もしその者が家に居たとしたら、危険に晒されるだろう。そのことから、どちらを恨んでの犯行か判りかねた。
────これは調べてみる必要がありそうだ。
迂闊に近づき罠に嵌れば、一巻の終わり。この国では、”Ωに危害を加えたαには容赦なく処刑”という道しか残されていない。クライスはじっと、自分を嵌めようとした犯人の逃げた方向を見つめていたが、
「うッ…」
更なる想定外の事態が襲う。
「なんだこれ……」
それは、本能を呼び覚ますような、何とも言えない香り。まさか発情促進薬が自分にも効き目があるのだろうかと疑う。
────いやいや、そんなハズはない。だとすると……。
そこでクライスは、あることに気づく。この香りは、発情促進薬に触発されたΩのフェロモンなのだと。
「まずい。早くこの場から逃げないと」
ラット抑制剤は服用しているが、抑えきれる自信がない。何せ初めての経験なのだから。
時は少し遡る───。
「!」
クライスはカイルの屋敷に向かう途中で立ち止まった。彼の家は目前だが、すごく嫌な予感がする。
────なんだろう、この違和感。
クライスは目だけで辺りを見回す。この国は手入れが行き届いており、景観をとても大切にしているのだと感じていた。それは入国の時の第一印象である。そこで、クライスはハッとした。
この路地も清掃が行き届いており、チリ一つ見つからない。なのにカイルの家の前には、茶色の薬瓶が転がっている。不自然極まりない。蓋が開いたままの薬瓶には、何やらラベルが貼ってあるようだが、この位置からは遠すぎて確認できなかった。
クライスは自分の勘を信じポケットに手を入れると、スコープを取り出して目に充てる。
「…発情促進薬?」
五十倍に拡大し、読み取れたのは薬品名。しかも服用や直接摂取するものではなく、香りタイプのようだ。
────!! これは罠だ。
クライスはそれ以上近づくのを止め、ゆっくりと後ずさる。自分の腕につけられているGPSが、何処まで高性能かは分からない。監視カメラもあるはずだから、もし疑いをかけられても容疑は晴れるはず。
だがβはαにとって、敵と言っても過言ではない。周りから見て自然な動作に感じるように、頷いてから踵を返した。フロントの従業員には、”カイルの屋敷の位置を確認してくる”と告げてある。クライスはとっさに、”位置確認できたから帰る”そう見えるように振舞ったのだ。
ゆったりとした歩調で歩き出す、クライス。すると数歩あるいた後、背後に人の気配を感じた。瓶が石に当たる小さな音、もしかしたら襲われるかもしれないと思い、そちらに全神経を集中させる。しかし相手は、
「ちっ」
と舌打ちしたのち、クライスが振り返るよりも先にその場から消えていたのだった。
────俺は……誰かに恨まれているのか? それとも……。
カイルがΩ性の者と一緒に暮らしていることが頭を過る。もしその者が家に居たとしたら、危険に晒されるだろう。そのことから、どちらを恨んでの犯行か判りかねた。
────これは調べてみる必要がありそうだ。
迂闊に近づき罠に嵌れば、一巻の終わり。この国では、”Ωに危害を加えたαには容赦なく処刑”という道しか残されていない。クライスはじっと、自分を嵌めようとした犯人の逃げた方向を見つめていたが、
「うッ…」
更なる想定外の事態が襲う。
「なんだこれ……」
それは、本能を呼び覚ますような、何とも言えない香り。まさか発情促進薬が自分にも効き目があるのだろうかと疑う。
────いやいや、そんなハズはない。だとすると……。
そこでクライスは、あることに気づく。この香りは、発情促進薬に触発されたΩのフェロモンなのだと。
「まずい。早くこの場から逃げないと」
ラット抑制剤は服用しているが、抑えきれる自信がない。何せ初めての経験なのだから。
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