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3話『運命を背負いし者』

7 もし自分がαだったら

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****♡Side・β(カイル)

「レンっ!」
 カイルは力なく崩れ落ちるレンを抱き上げると、屋敷へ急いだ。外が騒がしかったためか、家の者たちが外へ出てきている。
「カイル様⁉」
「大丈夫だ。二重扉を」
「かしこまりました」
 カイルの指示を受け、従者たちが通りに面した鉄の扉を閉め、閂をかけた。それはΩ性のものが暮らす屋敷では必ず設置する扉である。

 この国でΩと暮らす者は、集合住宅では暮らせない。最低五名の、従者や使用人を置くことも義務づけられており、通常は国から派遣されてくる。彼らは、活動が自由ではない代わりに、給料が高い。その費用は国が賄っている。
 カイルの場合は特殊なケース。城に居た頃から身の回りの世話をしてくれていた信頼のできる者たちを傍に置いている。国のシステムにより、カイルは彼らにお給金を払う必要がないため年に数回、別途で賞与を渡していた。
 彼らは第一皇子であったカイルを慕い、傍に居られるだけで良いと断ったのだが、Ωとの生活は気も使う上に制約が多く、時には暴漢と対峙することもある。大変な思いをして自分たちを守ってくれているのだから受け取って欲しい、と彼らを説き伏せたのだった。

「カイル様、発情期はまだ先では?」
 もちろん、レンの周期管理も彼らがしてくれている。
「そのはずなんだが」
 ”屋敷への出入りは、地下の通路から頼む”と告げると、カイルはレンを抱いたまま二階の部屋へ向かう。

「カイル……カイル……」
 うわ言のようにカイルの名を呼ぶ彼をぎゅっと抱きしめ、ベッドに腰を下ろす。
「レン、俺はここに居るよ」
「助けて……いやだよ。発情なんてしたくない」
 こんなことは初めてだった。周期から外れた発情期、それを拒否するレン。彼は今まで上手に発情期と向き合い、受け入れてきたというのに。
「怖いよ、カイル」
「大丈夫だよ。俺がずっと傍にいる」
 発情期への入り方は、人それぞれだと聞く。それでも自分自身で察することは出来るようだが。
 レンの発情期への入り方は、まるで波が押し寄せたり引いたりを繰り返し、そのうちざあっと波に攫われるようだと話していた。
「カイル、好きだよ」
「レン……」
 ぽろぽろと涙を溢しながら虚ろな瞳を向ける彼に、初めてのキス。

「んんッ……」
「レン、大好きだよ。怖がらないで。きっと大丈夫だから」
「これは、な……に?」
「キスって言うんだ。愛し合う者同士がするものだよ」
「キス……」
 段々と彼の意識が飲まれていくのが分かった。もうすぐレンは、自分自身の意志とは関係なく本能だけの獣のように、カイルを求め始めるだろう。それがレンの運命なのだ。そして、Ωの運命。
「そうなんだ……気持ちいいね」
 力なく微笑む彼を、カイルは痛いほど胸に抱きしめる。やっと恋人同士になれたというのに、レンとまた語り合えるのは一週間後だ。
「カイル……」
「うん?」
「発情期が明けたら、いっぱいキスしてくれる?」
「もちろんだよ」

────βの俺は、なんて無力なんだろう。

 この世で一番憎いα。でも、”もし自分がαだったなら、彼を救えたのに”と思ってしまう。
「レン……」
「カイル様、準備が整いました」
 執事の言葉で顔を上げるカイル。
「カイル様、大丈夫ですか?」
「うん……大丈夫だ。レンの恋人は俺なんだから」
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