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3話『運命を背負いし者』
5 紛れもなくαで (間違っていたのでページ修正)
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****♡Side・α(クライス)
食後、とりあえず相手宅の道順だけでも確認しようと思い立ったクライスであったが────。
「行動記録?」
不思議そうに聞き返すクライスに、ホテルのカウンターにいるホテルマンがゆっくりと頷いた。
クライスが不思議そうな顔をしたのは、何も監視されることが嫌だったからではない。常時、街中に無数にある監視カメラによってαの動きは監視されているはずである。
しかしそれに重ねて、GPSでの追跡を行うと言うのだ。厳重すぎると言っても過言ではない。
”まさか自分が不正に入国したことがバレたのではないか”、と思ったのである。
「こちらの動きは始終、把握されているはずでは?」
流石に、プライバシーの侵害にあたるトイレや風呂は目視で確認はされないが、そういう場所には位置確認のためセンサーが設置されていた。何処へ行こうとも、この国でのαの行動は筒抜けだ。
「ええ。でもカイル様のお宅には、Ω性の方がおられますので」
もちろんその情報は、クライスにとって初耳である。
「あなたもお仕事でいらしているのに、こんなところで死にたくはないでしょう?」
とフロントマンは言う。
それはきっと、脅しなんかじゃない。
前例あっての忠告なんだと受け取った。
それに、ここで余計なことを言えば疑われる。クライスは聡明だった。
元々Ωには興味なかったが、
「それはもちろん。これからもガッポリ稼ぎたいですからね」
と、一般的なαを装う。
フロントマンは一瞬軽蔑の眼差しを向けたがすぐ笑顔になり、準備をするために一旦奥へと引っ込んだのだった。
腕にGPS内蔵のリングをつけられたクライスは、怪しまれないよう速くもなく遅くもない速さで、入管で貰った地図を頼りにカイルの自宅へと向かっていた。
────彼の名はカイル。
よくある名だ。
でも、彼に似合う名でもある。
どういった理由でΩと暮らしているのか。
クライスにはわからなかったが、手荷物の中に強力なヒート抑制剤が入っていることを再度確認する。即効性のものだ。
もし我を失うようなことがあれば、一巻の終わりである。
これだけは、肌身離さず持っていようと改めて思う。
────正直、不安がないと言ったらウソになる。
母以外のΩと遭遇するのは初めてだ。
フェロモンを感じることさえ、初体験。
自分にとってΩのフェロモンとは、得体の知れない何かだ。しかしαならば、感じ取れるらしい。もし感じ取れなかったら、αではないということになる。
────もし、αでなかったら、カイルと仲良く……。
一瞬期待をしてしまったが、自分にはαの証拠があることを思い出し、その可能性は絶対にないのだと落胆した。
αには”あの部分”に特徴があるのだ。イボが。
自分はどう転んでも、カイルと同じβにはなれない。
先ほどフロントマンから聞かされた言葉を反芻し、”これほどまでβに産まれたかったと思ったことは過去にない”とクライスは改めて思うのだった。
食後、とりあえず相手宅の道順だけでも確認しようと思い立ったクライスであったが────。
「行動記録?」
不思議そうに聞き返すクライスに、ホテルのカウンターにいるホテルマンがゆっくりと頷いた。
クライスが不思議そうな顔をしたのは、何も監視されることが嫌だったからではない。常時、街中に無数にある監視カメラによってαの動きは監視されているはずである。
しかしそれに重ねて、GPSでの追跡を行うと言うのだ。厳重すぎると言っても過言ではない。
”まさか自分が不正に入国したことがバレたのではないか”、と思ったのである。
「こちらの動きは始終、把握されているはずでは?」
流石に、プライバシーの侵害にあたるトイレや風呂は目視で確認はされないが、そういう場所には位置確認のためセンサーが設置されていた。何処へ行こうとも、この国でのαの行動は筒抜けだ。
「ええ。でもカイル様のお宅には、Ω性の方がおられますので」
もちろんその情報は、クライスにとって初耳である。
「あなたもお仕事でいらしているのに、こんなところで死にたくはないでしょう?」
とフロントマンは言う。
それはきっと、脅しなんかじゃない。
前例あっての忠告なんだと受け取った。
それに、ここで余計なことを言えば疑われる。クライスは聡明だった。
元々Ωには興味なかったが、
「それはもちろん。これからもガッポリ稼ぎたいですからね」
と、一般的なαを装う。
フロントマンは一瞬軽蔑の眼差しを向けたがすぐ笑顔になり、準備をするために一旦奥へと引っ込んだのだった。
腕にGPS内蔵のリングをつけられたクライスは、怪しまれないよう速くもなく遅くもない速さで、入管で貰った地図を頼りにカイルの自宅へと向かっていた。
────彼の名はカイル。
よくある名だ。
でも、彼に似合う名でもある。
どういった理由でΩと暮らしているのか。
クライスにはわからなかったが、手荷物の中に強力なヒート抑制剤が入っていることを再度確認する。即効性のものだ。
もし我を失うようなことがあれば、一巻の終わりである。
これだけは、肌身離さず持っていようと改めて思う。
────正直、不安がないと言ったらウソになる。
母以外のΩと遭遇するのは初めてだ。
フェロモンを感じることさえ、初体験。
自分にとってΩのフェロモンとは、得体の知れない何かだ。しかしαならば、感じ取れるらしい。もし感じ取れなかったら、αではないということになる。
────もし、αでなかったら、カイルと仲良く……。
一瞬期待をしてしまったが、自分にはαの証拠があることを思い出し、その可能性は絶対にないのだと落胆した。
αには”あの部分”に特徴があるのだ。イボが。
自分はどう転んでも、カイルと同じβにはなれない。
先ほどフロントマンから聞かされた言葉を反芻し、”これほどまでβに産まれたかったと思ったことは過去にない”とクライスは改めて思うのだった。
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