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3話『運命を背負いし者』
3 憧れのリング
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****♡Side・Ω(レン)
レンはカイルの手をぎゅっと握り、表通りを歩いていた。隣の彼は、ニコニコしながら”What Lovers Do”を口ずさんでいる。彼がこんなに機嫌がいいのは初めてだった。部屋ではいつも、寂し気にこちらを見つめていることの方が多く、レンは彼を笑顔に出来ない自分自身に嫌気が差していたものだ。
背の低いレンに合わせ、ゆっくり歩く彼。ふとショーウインドウに目をやると、自分たちが光の反射で映し出されている。
「何か欲しいものでもあった?」
レンの視線に気づいた彼が立ち止まり、ショーウインドウを覗き込む。レンは首を横に振った。
「欲しいものがあるなら、何でも買ってあげるよ」
ショーウインドウから視線を外し、優しい瞳をこちらに向ける彼。彼は皇子であることを剥奪された時、それなりの財産を受け取っている。それに加えてΩには毎月、生活費が支給されていた。
フェロモン対策が施された住宅も宛がわれており、二人はそこそこ裕福な暮らしをしている。それでもカイルは仕事を持っていた。レンが発情期になると傍を離れることが出来なくなるため、不定期な仕事ではあったが。
「ううん。違うの」
レンは仕事をしていない。彼に負担をかけたくなくて、モノを強請ったことはなかった。レンは決して、怠慢なわけではない。仕事に出て心配をかけるくらいならば、家にこもって彼を安心させたいと思っている。それ以前にこの国では、Ωが一人で出歩くことは禁止されていた。
そうなると職場まで、誰かに送り迎えをしてもらわなければならない。Ωの中には、職を持っているものもいる。だが大半は、恋人の職場で庇護されながら職務をこなしているのだ。
残念ながらレンは、彼の仕事にはついて行くことが出来ない。何故ならカイルの仕事は、αの統治国家に出向くことがあるためだ。
「恋人っぽく見えるかなって」
レンがショーウインドウに映った自分たちを指さすと、彼は再びそちらに目を向けた。
「恋人以外のなんだって言うの?」
とクスクス笑う彼は、レンに向き直ると視線を落とし、
「お似合いでしょ」
と言いながら、レンの手を見つめる。
「カイル?」
視線の意味が分からず彼を見上げると、カイルはレンの手を掴み店に入っていく。
「どうしたの?」
「指輪……買おうか」
突然の彼からの提案。βたちは恋人になると、ペアリングをする習慣があることをレンは知ってはいたが、形ばかりの自分たちには不要なものなのだと思っていた。その習慣がどんなに羨ましくあっても。
「あ、あれはβの習慣でしょ?」
がっかりしたくなくて、レンがそう告げると、
「違うよ。恋人の証だ」
と彼は微笑んだ。
「じゃあ、僕がしてもいいの?」
レンが躊躇いがちに質問すれば彼は立ち止まり、
「君にこそ、相応しい」
とレンの髪を撫でたのだった。
レンはカイルの手をぎゅっと握り、表通りを歩いていた。隣の彼は、ニコニコしながら”What Lovers Do”を口ずさんでいる。彼がこんなに機嫌がいいのは初めてだった。部屋ではいつも、寂し気にこちらを見つめていることの方が多く、レンは彼を笑顔に出来ない自分自身に嫌気が差していたものだ。
背の低いレンに合わせ、ゆっくり歩く彼。ふとショーウインドウに目をやると、自分たちが光の反射で映し出されている。
「何か欲しいものでもあった?」
レンの視線に気づいた彼が立ち止まり、ショーウインドウを覗き込む。レンは首を横に振った。
「欲しいものがあるなら、何でも買ってあげるよ」
ショーウインドウから視線を外し、優しい瞳をこちらに向ける彼。彼は皇子であることを剥奪された時、それなりの財産を受け取っている。それに加えてΩには毎月、生活費が支給されていた。
フェロモン対策が施された住宅も宛がわれており、二人はそこそこ裕福な暮らしをしている。それでもカイルは仕事を持っていた。レンが発情期になると傍を離れることが出来なくなるため、不定期な仕事ではあったが。
「ううん。違うの」
レンは仕事をしていない。彼に負担をかけたくなくて、モノを強請ったことはなかった。レンは決して、怠慢なわけではない。仕事に出て心配をかけるくらいならば、家にこもって彼を安心させたいと思っている。それ以前にこの国では、Ωが一人で出歩くことは禁止されていた。
そうなると職場まで、誰かに送り迎えをしてもらわなければならない。Ωの中には、職を持っているものもいる。だが大半は、恋人の職場で庇護されながら職務をこなしているのだ。
残念ながらレンは、彼の仕事にはついて行くことが出来ない。何故ならカイルの仕事は、αの統治国家に出向くことがあるためだ。
「恋人っぽく見えるかなって」
レンがショーウインドウに映った自分たちを指さすと、彼は再びそちらに目を向けた。
「恋人以外のなんだって言うの?」
とクスクス笑う彼は、レンに向き直ると視線を落とし、
「お似合いでしょ」
と言いながら、レンの手を見つめる。
「カイル?」
視線の意味が分からず彼を見上げると、カイルはレンの手を掴み店に入っていく。
「どうしたの?」
「指輪……買おうか」
突然の彼からの提案。βたちは恋人になると、ペアリングをする習慣があることをレンは知ってはいたが、形ばかりの自分たちには不要なものなのだと思っていた。その習慣がどんなに羨ましくあっても。
「あ、あれはβの習慣でしょ?」
がっかりしたくなくて、レンがそう告げると、
「違うよ。恋人の証だ」
と彼は微笑んだ。
「じゃあ、僕がしてもいいの?」
レンが躊躇いがちに質問すれば彼は立ち止まり、
「君にこそ、相応しい」
とレンの髪を撫でたのだった。
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