上 下
19 / 145
3話『運命を背負いし者』

2 魂の番

しおりを挟む
****♡Side・α(クライス)

 クライスは宿泊先であるホテルの最上階レストランで、頬杖をつきぼんやりと街並みを眺めていた。今回の滞在期間は三日間。今回会うことが出来なくとも、無事に滞在期間をやり過ごせば、次は入国しやすくなると聞いていた。もちろん、最低限の審査について厳しいのは変わらないが。

 αの観光目的での入国が禁止されているこの国は、散歩すら許されない。国の特産品が欲しければ、フロントで受付し購入してきてもらうしかない。自分は一時的な滞在者であり不便を感じるのも数日だが、毎日がそんな生活だったならどんなに気が塞ぐであろうかと思った。

────我が国のΩが、まさにこんな生活を強いられているのだ。俺はなんと自由気ままに生きてこられたことか。

 特にΩの男性体はその性が確定すると、親から引き離され国家に管理される。食事は十分に与えられるとは言うが、一度入れば卵巣が使い物にならなくなるまで、そこから出ることは出来ない。その上Ωはβやαよりも短命とされてきた。

────αにとってΩは家畜同然。自分にとっての母体…いや、遺伝子の半分を持つ者は確かに親でありながら人として扱われていない。

 クライスは、βの間に産まれたΩ性の母に想いを馳せる。彼女はこのβの独立国の出身であり、Ωでありながら一般とは違う育てられ方をした。βの独立国では、Ωと診断されると国に保護される。フェロモン対策のとれるような設備を備える財力のある裕福な家庭ならば、自分で育てるという選択もできる。だが、それでも発情期が来れば我が子を守るために国に預ける家庭が占めた。
 国に預ける家庭が多い中、母の家庭ではギリギリまで彼女を手元に置いたのだ。そう、クライスの父と結婚に至るその日まで。母の家族は彼女をとても溺愛していた。だからこそ、発情期に苦しむ娘を見ているのは辛かったであろう。

────母は、国の制度を受け入れることができなかった。心から愛した者と繋がりたいと望んだ。それはきっと、実の父母からたくさんの愛情を注がれて育ったからに違いない。

 そして母は、たまたまこの国に職務で訪れていた父と出逢った。母の話であるが、彼女は父に一目ぼれしたらしい。父はα女性体であるが、α女性体は子を宿さないため女性機能が不要となったからか、どちらかと言うと中性的な容姿でスラリとした体形をしている。α男性体ほどの身長はないが、β男性体よりは遥かに高く、母にとっては理想の王子様に見えたようだ。しかしこの国のΩがαに惹かれることはほぼない。クライスには確かめようはないが、魂の番というものなのかもしれないと疑ったことすらあるほど、二人は惹かれ合い求めあっていた。

────魂の番に出逢える確率は、無いに等しいくらいだ。そして、互いにしか分からない。

 だが仲の良い二人を見ていると、そうであれば良いなとクライスは思ってしまう。ただβの認識する魂の番の概念は、自分の日和見主義な考え方とはまったく異なることを、この時は知る由もなかったのである。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

処理中です...