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2話『独立国の第一皇子』
5 彼の抱えていたもの
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****♡Side・β(カイル)
半ば強引に連れてきた映画鑑賞であったが、カイルにはどうしてもこの映画をレンと見たい理由があった。
「これ……」
どんな内容かも知らずに観ていた彼が、思わず声を漏らす。驚くのも無理はない。今回はあまり混んでいない、こじんまりとした場所が好きだと言う以外の理由があった。βはこういうモノを観ないからだ。
そう、βとΩの恋愛を扱っている内容のものは。自分にはどうしても、彼に伝えたいことがあった。それを言葉だけで伝えるのはとても難しい。そんな時、この映画の存在を知ったのだった。映画館から出た彼は、なんと言って良いのかわからないというような表情をして立ち尽くしていた。
「レン、あのさ」
「うん」
カイルにはレンが、”Ωである事で引け目を感じているのではないか”と思う言動に感じることが良くある。しかもそれは、自分のせいなのかもしれないと。
「レンにとって、この国の法律は重荷?」
Ωはβとは違う。βは発情期に苦しめられたり、望まない番など成立することはなく恋をし確かに上手くいかないこともあるが、相手との信頼関係などを築きながら恋人関係となる。そういう積み重ねを行わず、相手の気持ちを無視した始まり方は彼にとって、負担なのではないかとカイルは考えていた。だから彼は、自分になにも求めないのではないかと。そしてΩには、”幸せになる権利がない”と考えているのではないかと感じていたのである。
「それは……」
もしそうなら、そんな気持ちを変えてあげたいとカイルは思っていた。
「俺を選んだこと後悔してる?」
知りたくないことではあるが一番の原因はそこにあるのではと、推測している。彼はハッとしたようにカイルのほうを見た。やはりそうなのかとショックを受けるが、選んでくれたのだから嫌われてはいないはずだと思いなおす。
「カイルが悪いんじゃない。僕、実はカイルに恋人がいたことを知らなくて……」
彼は最近そのことを知り、ずっと後悔していたと言う。その話を聞き、カイルはいろんなことが腑に落ちた。この国に産まれて来た以上、Ωに選ばれたならば婚姻して子供がいるなどの理由がない限り、断るという考えすら思い浮かばないものなのだ。それほどにこの特殊な法律について、この国の国民であるβには当然の義務なのである。しかしそれはβだからそう思うのであって、Ωにとっては違う。自分のせいで幸せを奪ってしまったと思ったはずだ。
「ねえ、レン」
カイルは極めて優しい声で彼の名を呼び、彼の両手を掴む。
「レンが俺を選んだことを、そんな理由で後悔してほしくない」
「カイル……」
「俺はね。レンには世界で一番幸せになって欲しい。いや、幸せにしてあげたいんだ。いつか俺のことを選んで良かったって、感じて欲しいと思ってるよ」
今日観た映画は、自然と惹かれ合ったβとΩが幸せになる物語であった。これを観て少しでも、彼の気持ちを変えてあげられることができたらいいのにと、カイルが思って選んだ映画だ。
「カイル、僕ほんとは……」
半ば強引に連れてきた映画鑑賞であったが、カイルにはどうしてもこの映画をレンと見たい理由があった。
「これ……」
どんな内容かも知らずに観ていた彼が、思わず声を漏らす。驚くのも無理はない。今回はあまり混んでいない、こじんまりとした場所が好きだと言う以外の理由があった。βはこういうモノを観ないからだ。
そう、βとΩの恋愛を扱っている内容のものは。自分にはどうしても、彼に伝えたいことがあった。それを言葉だけで伝えるのはとても難しい。そんな時、この映画の存在を知ったのだった。映画館から出た彼は、なんと言って良いのかわからないというような表情をして立ち尽くしていた。
「レン、あのさ」
「うん」
カイルにはレンが、”Ωである事で引け目を感じているのではないか”と思う言動に感じることが良くある。しかもそれは、自分のせいなのかもしれないと。
「レンにとって、この国の法律は重荷?」
Ωはβとは違う。βは発情期に苦しめられたり、望まない番など成立することはなく恋をし確かに上手くいかないこともあるが、相手との信頼関係などを築きながら恋人関係となる。そういう積み重ねを行わず、相手の気持ちを無視した始まり方は彼にとって、負担なのではないかとカイルは考えていた。だから彼は、自分になにも求めないのではないかと。そしてΩには、”幸せになる権利がない”と考えているのではないかと感じていたのである。
「それは……」
もしそうなら、そんな気持ちを変えてあげたいとカイルは思っていた。
「俺を選んだこと後悔してる?」
知りたくないことではあるが一番の原因はそこにあるのではと、推測している。彼はハッとしたようにカイルのほうを見た。やはりそうなのかとショックを受けるが、選んでくれたのだから嫌われてはいないはずだと思いなおす。
「カイルが悪いんじゃない。僕、実はカイルに恋人がいたことを知らなくて……」
彼は最近そのことを知り、ずっと後悔していたと言う。その話を聞き、カイルはいろんなことが腑に落ちた。この国に産まれて来た以上、Ωに選ばれたならば婚姻して子供がいるなどの理由がない限り、断るという考えすら思い浮かばないものなのだ。それほどにこの特殊な法律について、この国の国民であるβには当然の義務なのである。しかしそれはβだからそう思うのであって、Ωにとっては違う。自分のせいで幸せを奪ってしまったと思ったはずだ。
「ねえ、レン」
カイルは極めて優しい声で彼の名を呼び、彼の両手を掴む。
「レンが俺を選んだことを、そんな理由で後悔してほしくない」
「カイル……」
「俺はね。レンには世界で一番幸せになって欲しい。いや、幸せにしてあげたいんだ。いつか俺のことを選んで良かったって、感じて欲しいと思ってるよ」
今日観た映画は、自然と惹かれ合ったβとΩが幸せになる物語であった。これを観て少しでも、彼の気持ちを変えてあげられることができたらいいのにと、カイルが思って選んだ映画だ。
「カイル、僕ほんとは……」
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