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2話『独立国の第一皇子』

2 憧れる関係

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****♡Side・β(カイル)

 妹の元婚約者であるβは、妹からの遺書を受け取ったその日に自ら命を絶った。彼の気持ちは自分にも分かる。

 愛するものを守れなかった辛さ。
 二度と触れることさえできない苦しみ。
 それでも彼は、彼女が生きて幸せであればと願った。

 生きていれば触れ合うことはできなくとも、会うことはできるから。結ばれることはなくても、言葉を交わすことはできるから。

────しかし、それを永遠に失った。

 国王に逆らってでも遠い何処かで二人、生きていくことを選択するべきだったと彼は、額を固い地面に何度も打ち付け涙を流し続けた。彼は立ち直ることを望まず、彼女の死を受け入れることを拒んだ。

 この国のβにとって、Ωから選ばれることはとても光栄であり名誉なこと。確かに犠牲にするものも多いが、βはΩやαに比べると平凡である。個々に得意なこともあれば苦手もものもあるが、例え得意なことがあったとしても、αを超えることは並大抵の努力では無理だ。ベースが違う。これを何かで例えるならば”ガラケーとスマホは、同じく通話ができるものだが全く別物”というのが分かりやすいだろう。同じベースがあってこそ、初めて競い合うことができる。

 だがβもまた、αに無いものをもっていた。いや完璧でないからこそ、他者と協力し合おうという”心”を持っているといっても過言ではない。支え合う必要があるからこそ、三つの性の中でβは特に心が発達していき、逆に人に頼る必要のない能力の優れたαは、心が退化していったのだ。

 そんな平凡なβが、ある日突然希少であるΩから指名される。βにとってそれは、姫を守る騎士の役目に感じるはずだ。どんなに自分を犠牲にしても、その使命を全うするために努力を惜しまないだろう。

 しかし、使命を果たせなかったら?
 もし心無いものに、突然奪われてしまったら?

 Ωがαに奪われるというのは、永久に失うことに等しい。
 愛は支配にはかなわない。それが番というのもなのだ。
 Ωが望まずとも関係ない。強制的にαに支配される。
 そう、一方的に。


 カイルは隣に立つレンを見つめた。彼には絶対に、妹と同じ道を歩ませてはならないと思っている。不本意でしかないが、彼には外出時に首に番防止のためのチョーカーをしてもらっていた。カイルは、Ωが自分自身を守るためにするこの器具が嫌いだった。それはまるでペットの首輪のようで、非人道的に感じる。
 カイルにとってレンは恋人だが、道具扱いしているように感じ、つい目を逸らしてしまう。そしてこの器具は、単に番になるのを防止するだけであって、襲われることを阻止することはできない。どんなに発情を抑制する薬を使ったとしても……魂の番には効果はない。

 都市伝説級に出逢う確率の低い、魂の番。ロマンチックな内容で語られているが、要は強制支配に他ならない。

「カイル」
「うん?」
「どうしたの。さっきから怖い顔をして」
 普段から口数の少ない彼が、心配そうにカイルの顔を覗き込んだ。
「ううん、なんでもないよ。手を繋いでも?」
 彼は答えの代わりに手を差し出す。自分からカイルに触れようとしない彼だが、望めば叶えてくれる。それがカイルにとって唯一の希望、恋人になるための道の。

────いつか、レンとちゃんとした恋人になれるだろうか?
 ううん、そうなれたらいいのに。
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