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1話『統治国家の奇跡の子』

7 価値観の違い

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****♡Side・α(クライス)

 初めての国、初めての街並み、多くのβ達。

 クライスにとって、見るもの全てが新鮮であった。そして彼らの反応は、予想より遥かにかけ離れている。
 Ω、β、αという三つの性の中で最も容姿が優れているとされるαは、彼らの中でも高身長で筋肉がつきやすく、整った顔の持ち主が多い。
 βは平均的な体格をしており、筋肉のつきやすさなどは血筋の遺伝によるものや個人差がある。
 Ωは三種のなかでも小柄な者が多く、他の性に比べると華奢だ。

 この国に足を踏み入れるまでクライスは、”αとは他性の者の憧れである”と認識していた。頭の回転も速く論理的である自分たちは、他の性の者たちが足元にも及ばないほど、優れていると思っていたのである。実際そのように学校でも教育されていた。しかしそれは自分たちが、おごり高ぶったナルシストに過ぎないと痛感。

────誰も、振り返らない。

 街中をモデルさながらカッコつけて歩くクライスだったが、誰も見向きをしなかったのである。
 街中ですれ違うβたちは、連れたちと楽し気に話し合い、露天に集まる人々もまた、楽し気だ。クライスは途端に、自分が本当に存在しているのかすら怪しく思えた。
 三種の性にそれぞれ特徴があるということは、すなわち見た目ですぐに、どの性かわかると言う事。クライスはβ達が何故αと断絶し、独立国を建立したのかを思い出し、β達がどれほどαを忌み嫌っているのかを実感した。そこで初めて自分が場違いだと気づく。
 クライスは壁際に置いてある樽に腰かけると、彼らを観察し始めた。

────自分が奇跡の子だとしても、他人には分からない。

 きっかけを作ったのはきっと、αだったに違いない。
 β達は民主主義だ。そして互いの意見を聞き入れ、一緒に協力をしあって生きていくことのできる者たち。確かに、一人一人の力はαには劣るかもしれない。だが、助け合って生きていくことが出来るから、あんな風に笑顔でいられる。
 αの統治国家に露天というものはない。近代的なコンクリートジャングルという言葉がお似合いの国。無機質で灰色の世界。
 それに比べβ達の作り上げた独立国は、緑や花が溢れ、たくさんの人々の笑顔が咲き乱れている。彼らにとっては、人と人との繋がりこそが宝なのだ。

────地位や名誉や家柄を重視する、俺たちとは違う。

 どっちがいいとか、そういう事じゃない。何も知らずに、他人の決めた価値観が全てだと思い込んでいることが問題なんだ。ちゃんと知っていれば、自分の生きたい道を見つけることだってできるのに。

 クライスは立ち上がると、入国管理局で教わった地図と住所を頼りに歩きだす。
 その顔は入国前の表情とは明らかに違っていたのだった。
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