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1話『統治国家の奇跡の子』

6 皇子の守りたい者

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****♡Side・β(カイル)

────妹は出国して、三か月後に亡くなった。
 自殺だった。

 カイルはレンと並んで街を歩きながら、交易の為にこの国に来ているαを見かけては、眉を顰める。彼らを見ると、最愛の妹のことを思い出してしまうからだ。

 妹はαの統治国家に行くことを拒んだが、国王である父はそれを受け入れなかった。何故なら、彼女が発情するたび、そのαを国に呼ばなくてはならなくなるから。αはいくらでも番を持つことができるが、そこに誠意はない。単なる孕ませる道具として、産む機械としてΩを番にするのがαだ。
 一人を大切に想い、慈しみ、愛を育むことが出来ない。彼らにとって性行為とは、繁殖ためでしかない。彼らより力の劣るΩにはそれを拒む力はなく、発情期には理性を失う。我を失うのだ。なんと呪われた運命なのか。

 しかも発情期にαと性交すれば、確実に受精する。好きでもない、望まない相手との子を腹に宿すことが、どれだけ辛いモノか。妹も例に違わず妊娠し、それを苦に相手のαを殺し、自らも命を絶った。
 遺書には彼女の恋人への想いが何枚にも渡り綴られており、”自分はβに産まれ、あなたと幸せになりたかった”という言葉で締めくくられていた。妹を守れなかったカイルは後悔し、αを憎むことでしか自分を保てなくなっていた。

『父さん、αは皆殺しにすべきだ!』
 やり場のない怒りを国王に向けたが、当然のごとく同意はされず。
 父は何も”αを庇ってカイルに同意しない”のではないことくらい分かっている。β同士からはαは産まれなくとも、Ωは産まれるのだ。そして我が国のΩには、αの体液が必要。Ωを守るためにαを生かさなければならず、生かしている限りαからΩを守らなければならない。
 何という、因果だろう。

 次期国王であった自分。自分がその地位に就いた時、父と同じ選択をしなければならないだろう。それはΩの為。苦渋の決断であった。

 せめて、αがまともな考え方の奴らならば、徹底した教育がなされたのに。
 彼らは個人主義。他人のことには、我関せず。自分がやったわけではないから、で済まされる。自己責任をはき違えた奴らだ。社会とは皆が支え合い尊重し合っていくものなのに。奴らときたら、協調性さえ持たない。頭がいい、顔がいいだけの、中身のない利己主義のくせに、”自分は偉い”とふんぞり返る。

 そんな奴を、誰が尊敬すると言うのか。
 己を客観視できない、ただの愚民ではないのか?

 カイルの中の正義、正当、怒りは、日に日に大きくなっている。
 それと同時にレンだけは、自分が守り抜くと改めて心に誓うのだった。
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