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1話『統治国家の奇跡の子』
5 皇子の憎むα
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****♡Side・Ω(レン)
────カイルはαを憎んでいる。
カイルの妹姫は、Ωだった。きっとあの事さえなければ、カイルはαを忌み嫌っていたとしても、心に深く傷を残すことはなかったと思われる。いつでも穏やかで、優しい彼。街中で交易のために訪れていたαを見て、舌打ちをしたのがその話を聞くきっかけであった。
「カイル?」
「ごめん」
彼はαの居る路地から離れようと、レンの腕を掴み横道に入る。そこで彼はαを憎んでいる理由について、ポツポツと語り始めた。
Ωと言えば、自分の人生に諦めを感じている者が多く、物静かで感情を露わにする者が少ないこの国で、彼女はとても明るく利発だったと言う。もちろん、彼女も例に漏れることなく恋人がいた。
形的なものが一般的なこの国で、ほんとに互いを思いやる様な素敵な関係の二人だったようだ。彼女の容姿は愛らしく、兄であるカイルにもよく懐いていたという。そんな二人を見て、カイルはΩにも愛は存在するのだと、考えを改めたほど。環境で人は変わるのだと、思い始めていた。そんな折、彼女は恋人と婚約をし、家族の誰もが二人は幸せな未来を歩むのだと疑わなかった。
しかしΩという運命は、彼らの期待を裏切ったのだ。
『ジーザス!』
Ωにとって安全だとされていたβの独立国。しかも彼女は王族の子。守られているはずだった。Ωのフェロモンを感じることのできないβにとって、どの程度なら真に安全なのか測り切れなかったのかもしれない。
────彼女は、αの餌食となった。
『いやああああああああああ!』
Ωの発情期のフェロモンに充てられたαに襲われ凌辱された上に項を噛まれ、正気に返った彼女は発狂寸前だった。相手は交易で来ていた者でラット抑制剤は服用しているはずだったし、検問でその検査も受けている。
だが何故かその効能は、切れていたのだ。通常βの独立国に滞在する際は、切らさないことが義務づけられているが痛みや痒みなどとは違って、効き目が有効かどうかは分かり辛いものである。
この国ではラット状態になる事=死刑が確定されているため、正規ルートで入国してくる者がこうした事態に陥るのは極めて稀だ。
結論から言えば、彼は死刑にはならなかった。Ωが発情期の性交中に項を噛まれれば番が成立してしまい、その相手にしか発情しなくなり他の者に対しては拒否反応が起こる。
『嫌よ、行きたくない。わたしは彼と結婚するのよ!』
彼女は父である王の決断にあくまで抵抗したが、王の提示した内容はこういうものであった。”そのαと結婚し、αの統治国で暮らす”というもの。
王は彼女が発情期に苦しまない方法を選んだのだ。
最後まで嫌がる彼女に、数名の侍女を宛がうと、αの統治国家に送り出した。
「アイツさえいなければ、妹は幸せになれたのに!」
カイルは当時を思い出し、何度もレンガの壁を殴った、血が滲むのも構わずに。
────Ωもαもカイルにとっては、不幸の元凶なのかもしれない。
そう思うとレンは、自分の彼に対する気持ちが”好意かも知れない”とは思うものの、距離を置いてしまうのだった。
────カイルはαを憎んでいる。
カイルの妹姫は、Ωだった。きっとあの事さえなければ、カイルはαを忌み嫌っていたとしても、心に深く傷を残すことはなかったと思われる。いつでも穏やかで、優しい彼。街中で交易のために訪れていたαを見て、舌打ちをしたのがその話を聞くきっかけであった。
「カイル?」
「ごめん」
彼はαの居る路地から離れようと、レンの腕を掴み横道に入る。そこで彼はαを憎んでいる理由について、ポツポツと語り始めた。
Ωと言えば、自分の人生に諦めを感じている者が多く、物静かで感情を露わにする者が少ないこの国で、彼女はとても明るく利発だったと言う。もちろん、彼女も例に漏れることなく恋人がいた。
形的なものが一般的なこの国で、ほんとに互いを思いやる様な素敵な関係の二人だったようだ。彼女の容姿は愛らしく、兄であるカイルにもよく懐いていたという。そんな二人を見て、カイルはΩにも愛は存在するのだと、考えを改めたほど。環境で人は変わるのだと、思い始めていた。そんな折、彼女は恋人と婚約をし、家族の誰もが二人は幸せな未来を歩むのだと疑わなかった。
しかしΩという運命は、彼らの期待を裏切ったのだ。
『ジーザス!』
Ωにとって安全だとされていたβの独立国。しかも彼女は王族の子。守られているはずだった。Ωのフェロモンを感じることのできないβにとって、どの程度なら真に安全なのか測り切れなかったのかもしれない。
────彼女は、αの餌食となった。
『いやああああああああああ!』
Ωの発情期のフェロモンに充てられたαに襲われ凌辱された上に項を噛まれ、正気に返った彼女は発狂寸前だった。相手は交易で来ていた者でラット抑制剤は服用しているはずだったし、検問でその検査も受けている。
だが何故かその効能は、切れていたのだ。通常βの独立国に滞在する際は、切らさないことが義務づけられているが痛みや痒みなどとは違って、効き目が有効かどうかは分かり辛いものである。
この国ではラット状態になる事=死刑が確定されているため、正規ルートで入国してくる者がこうした事態に陥るのは極めて稀だ。
結論から言えば、彼は死刑にはならなかった。Ωが発情期の性交中に項を噛まれれば番が成立してしまい、その相手にしか発情しなくなり他の者に対しては拒否反応が起こる。
『嫌よ、行きたくない。わたしは彼と結婚するのよ!』
彼女は父である王の決断にあくまで抵抗したが、王の提示した内容はこういうものであった。”そのαと結婚し、αの統治国で暮らす”というもの。
王は彼女が発情期に苦しまない方法を選んだのだ。
最後まで嫌がる彼女に、数名の侍女を宛がうと、αの統治国家に送り出した。
「アイツさえいなければ、妹は幸せになれたのに!」
カイルは当時を思い出し、何度もレンガの壁を殴った、血が滲むのも構わずに。
────Ωもαもカイルにとっては、不幸の元凶なのかもしれない。
そう思うとレンは、自分の彼に対する気持ちが”好意かも知れない”とは思うものの、距離を置いてしまうのだった。
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