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3【世界で一番愛しい君に】過去編2

5 『許せないもの、譲れないもの』

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 人の気持ちは人のもの。
 まさかそんなことを実感する日が来るとは思わなかった。
「俺、後三十分だから先に帰って良いよ」
 その判断は、間違っていなかったように思う。
「三十分なら、結愛待ってる」

 いつも一緒に居たがることが可愛いと思っていた。
 待っていてくれることが、いじらしいと思っていたのだ。
 いつだって優しい関係でいたい。
 それが望みだったし、いつも仲が良い恋人同士という関係が優人にとっては憧れでもあった。

 結愛が異性にモテることは知っている。
 でも、好意を受け取るのは不誠実なのではないかと思う。

「結愛もだいす……」
 バイトを終え、結愛の元へ行って愕然とした。
 他のバイト仲間とイチャイチャしていたから。
 モテると豪語していても、自分以外の人に好きだなんて言わないと思っていたから。

 ──俺だってストレートに言われたことないのに。

 どす黒い何かが自分の中を駆け抜け、何も考えられなくなった。
 わざと結愛たちの横を無言で通り過ぎる。
「あ、優人!」
 彼女が慌てて自分の後を追いかけるのが分かった。
「ねえ、待ってよ」

 ちやほやされたいから、異性に媚びを売るのだろうか?
 自分は彼女の何なんだろう?
 いつだって優先してきたはずなのに。

 自分ばかりが好きで、結愛の気持ちがわからない。
 結愛が自分に対しモテると評するのであれば、単にモテると自慢できる男をアクセサリーとして傍に置きたいだけなのかもしれない。
 そう思うと、悔しかった。

 元カノのことが頭をよぎる。
 あの子ならこんなことしないのにと思った。
 比べてはいけないのに、比べてしまう自分。
 どうして自分だけを一途に愛してくれた人の手を放してしまったのだろう?

「優人!」
「煩いな」
 優人は振り返ると結愛の手首を捉え、自分に引き寄せた。 
「痛いよ、優人」
「浮気者が」
 その言葉に、彼女の顔色が変わる。
 どうせ無自覚なのだろうと思った。

「俺は、お前のなんなの?」
「おまえじゃない。名前あるもん」
「そんなことは聞いてない」
 醜い独占欲。
 自分だけを見ていて欲しいと思うことは、そんなに許されないことなのだろうか? こんなつもりじゃないのに。

 しかも一度や二度じゃない。
 こんなことは日常茶飯事。
 それでも相手に好きだなんて言わないから耐えられた。

「さっきのあれは何? 他の男に平気で大好きって言うのか?」
「途中で止めたもん。嘘でも言えないよ!」
「俺には冗談でも言わないくせに」
 そこで彼女の腕を離す。
 こんなこと言っても無駄なのだ。
 何も伝わりはしない。

「別れよう。結愛。もう、付き合いきれない」
 嫌だと言う彼女を無視し、優人は歩き出す。

 ──俺はただ、君に好きだと一言言って欲しいだけなのに。
 こんな時でも、君は好きとは言わないんだね。
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