2 / 28
一章:佳奈編
1・結ばれてはならない彼
しおりを挟む────彼と出逢った日のことは今でも忘れない。
月並みだけれど、理想がそこに立っていた。
ただ、その時は恋ではなくて。
とっきにくい彼と表面上でも、仲良くできたらそれで良いと思っていたんだ。
佳奈《かな》は、窓辺に腰かけ月を見上げる。
綺麗とはいいがたい空に雲の切れ間から時々顔を出す月を。
それはまるで、彼と自分の関係のように感じた。彼はぶっきらぼうで強引な人だった。
同じグループに所属したのはただの偶然。当時自分には恋人がいて、彼との付き合いに疲れを感じていた。
その彼とは運命的な再会を果たしたが、すでに彼に対する熱は冷めていたのだった。付き合いたがる彼を上手くかわすことが出来ず、仕方なく交際をOKした形となったのである。
────互いの友人に相談するも、解決はせず。
別れさせてやると言われたこともあったが、ややこしいことになるので自分で解決するしかなかった。
ダラダラと好きでもない彼と一緒に居る日々。それは地獄でしかなかった。
どうすれば抜け出せるのだろうか?
考えても考えても答えは見つからない。
冷たくすればするほど、相手は熱を上げ別れ辛くなっていった。
そんなうんざりする日々の中で出逢った、理想の人。
────見ているだけで良かったのに。
想いを隠し、ただ見ているだけでよかった。
仲の良い友人の一人で良かったのに。
どうして私達は惹かれ合ってしまったのだろう?
もし、あなたの気持ちが変わらなければ、友達のままでいられたのに。
酷い言葉で傷つけることもなかった。
『たまにで良いから、二人きりで逢いたい』
それは言ってはいけない言葉だよ。
佳奈は当時のことを思い出し頭を抱えた。
それが分岐点だったのだ。
好きでいることは心にさえ留めておけば、許されるだろう。けれどどんなに好きでなくても、恋人を裏切る行為はしてはいけない。
────あの日、二人きりで逢ったのは間違いだった。
たった一度の思い出を作って、終わりにするつもりだったのに。
あの日、あなたがくれた手紙には解り辛い詩が書いてあった。何度も何度も読み返し、様々な解釈の中から導き出した答えから返事を書いたのだ。
あの日の返歌を正確に思い出すことは出来ないが、
『あなたから手紙が届くたび、わたしの心はかき乱され、想いを口にしてしまいそうです』
という意味合いのものだった。
────どうしてあなたは、読み解いてしまったのだろう。
あなたからの返歌を見て、愕然とした。
叶ってはいけない想い。
あなたはわたし同様何度も読み返し、きっとこういう意味合いなのだろうという気持ちで返事をくれたのだ。
『自分も同じ想いです』
と。
そこで終わってしまえたなら、互いの心に残るのは綺麗で儚い思い出だったに違いない。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
【完結】王太子妃の初恋
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
カテリーナは王太子妃。しかし、政略のための結婚でアレクサンドル王太子からは嫌われている。
王太子が側妃を娶ったため、カテリーナはお役御免とばかりに王宮の外れにある森の中の宮殿に追いやられてしまう。
しかし、カテリーナはちょうど良かったと思っていた。婚約者時代からの激務で目が悪くなっていて、これ以上は公務も社交も難しいと考えていたからだ。
そんなカテリーナが湖畔で一人の男に出会い、恋をするまでとその後。
★ざまぁはありません。
全話予約投稿済。
携帯投稿のため誤字脱字多くて申し訳ありません。
報告ありがとうございます。
妻を蔑ろにしていた結果。
下菊みこと
恋愛
愚かな夫が自業自得で後悔するだけ。妻は結果に満足しています。
主人公は愛人を囲っていた。愛人曰く妻は彼女に嫌がらせをしているらしい。そんな性悪な妻が、屋敷の最上階から身投げしようとしていると報告されて急いで妻のもとへ行く。
小説家になろう様でも投稿しています。
王命を忘れた恋
須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』
そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。
強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?
そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。
明るい家族計画
塚本正巳
大衆娯楽
彼氏と夜景を楽しんでいた美月は、一本の電話によってせっかくの夜を台無しにされてしまった。電話をかけてきたのは、疎遠になっている彼女の母だ。
電話に出た彼女は、母が事故に遭って入院中だと知る。しばらく入院することになった母の荷物を用意するため、彼女は久しぶりに実家に赴く。
母の荷物をまとめるため実家のタンスを開けると、そこには見慣れない携帯電話が大事にしまわれていた。折りたたみ式のフィーチャーフォンで、かなり古いもののようだ。その携帯電話の中を覗き、母の意外な過去を知ってしまった美月は……。
【完結】捨ててください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと貴方の側にいた。
でも、あの人と再会してから貴方は私ではなく、あの人を見つめるようになった。
分かっている。
貴方は私の事を愛していない。
私は貴方の側にいるだけで良かったのに。
貴方が、あの人の側へ行きたいと悩んでいる事が私に伝わってくる。
もういいの。
ありがとう貴方。
もう私の事は、、、
捨ててください。
続編投稿しました。
初回完結6月25日
第2回目完結7月18日
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる