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最終話 新たなる一歩
4 触れてはいけないもの
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「だからあの時、あんなに渋い顔してたのね」
何のことだろうと思いながら正面に視線を戻すと、アトリエからよく見知った人が出てくるところを目撃してしまった。
そのことを陽菜に伝えるか迷ったが、相手はどうやらこちらに向かってくるようだ。
「よう、お二人さん」
コンビニ店員の彼である。
「姫宮さん見つかったんだってね」
「ええ、そうなの。お陰様で」
嬉しそうに笑う陽菜。良かったねと笑顔になるコンビニ店員。
戀は誰かの視線を感じアトリエに視線を向けると、こちらを見ていた女性と目が合う。すると彼女はスッとアトリエ内に姿を消した。
「どうかした?」
コンビニ店員に問われ、戀は首を軽く横に振る。なんとなく、触れてはいけないことのように感じた。
「でも、ここで会うなんて珍しいですね」
「ん。ああ、そうだね。図書館に用があって」
陽菜の言葉にそう返した彼。戀は違和感を覚えたが黙っていた。彼らには何か知られたくないことがあるのだろう。追及すべきではない。
これからバイトがあるから長居はできないと言う彼と別れ、再び歩き出した戀と陽菜だったが。
「戀くん、何か変じゃない?」
「変とは?」
陽菜は勘が良い。だが何か確証があるわけでもなく、小さな違和感なのだ。その正体を突き止めることが良いこととは限らない。
「口数少なかったし。あの店員さんと仲いいのに」
「それは」
”陽菜の話の続きが気になっていたから”と告げれば、それ以上詮索されなかった。
「渋い顔の話」
「そう、渋いやつね」
”渋さマシマシ”と言って顎に手をやると、彼女がくすりと笑う。
「戀くんが渋かったということではなく、ちょっと険しい顔をして雑誌を見ていたから」
”てっきり未練でもあるのかと思った”と彼女は続ける。
「未練がないことは、もう分かっているとは思うけど……なんでブロックしなかったんだろうって思ってさ」
「そこだけブロックされなかったわけですか」
「そうだね」
先日元カノに再会するまでは、評価を消してやろうかと思っていたくらいなのだ。
「利用されたのかなって思ってさ」
確かに好きだと思っていた。そうであるべきなのだと思っていたのだ。だから再会した時、そのことについて聞いてみようと思ったのだが。
「なんかさ。陽菜さ……陽菜のお兄さんが叔母とつき合ったのを見て」
”またさん付けで呼ぶ”という抗議の視線を向けられ、戀は言い直す。
「つまりアイツは恋愛対象外だったわけで。それがなんか、いい気味って思っちゃったんだよね」
陽菜の兄にとっては恋愛対象外。
その事実が戀にとってスカッとした出来事だった。
自分も十分性格が悪いなと思い、自嘲気味に笑う。
「まあ、元カノさんより百倍可愛い妹がいるんだから仕方ないよ。うん」
バンバンと背中を叩く陽菜が冗談で言っているのはわかる。
「それは」
「美の基準の問題」
陽菜の言葉を聞きながら、”叔母の時にも言っていたよな”と戀は思った。
「自分の周りに容姿の優れた人ばかりいると面食いでなくても、基準が上がっちゃうと思うんだ」
本人が整っている時も然りなのかもしれない。
とは言っても、必ずしもそうとは限らないが。
「陽菜もそうなの?」
彼女の兄は整った容姿をしている。あの叔母が簡単に交際をOKするくらいだ。そして陽菜自身もとても可愛らしい。
「ふふっ。どうでしょう?」
こちらを覗き込むようにして彼女が笑う。
「でも、見た目で選んだのとか言われたら嫌でしょ」
「それは、まあ」
一昔前までは恋人はアクセサリーやステータスだなんていう人もいたが。
恋愛をしない世の中になって、価値観は変わったのだろうか?
恋人よりも推し文化の方が上位に感じる現在の世の中で。芸能人よりもユーチューバーの方が人気を感じる、こんな世の中で。
「何を心配しているのか分からないけれど、わたしは戀くんの人柄に惹かれたの。もっと素敵な人が現れたからって心変わりしたりしないから、大丈夫」
”だから戀くんも浮気しないでね?”と言われ、戀は盛大に咽たのだった。
何のことだろうと思いながら正面に視線を戻すと、アトリエからよく見知った人が出てくるところを目撃してしまった。
そのことを陽菜に伝えるか迷ったが、相手はどうやらこちらに向かってくるようだ。
「よう、お二人さん」
コンビニ店員の彼である。
「姫宮さん見つかったんだってね」
「ええ、そうなの。お陰様で」
嬉しそうに笑う陽菜。良かったねと笑顔になるコンビニ店員。
戀は誰かの視線を感じアトリエに視線を向けると、こちらを見ていた女性と目が合う。すると彼女はスッとアトリエ内に姿を消した。
「どうかした?」
コンビニ店員に問われ、戀は首を軽く横に振る。なんとなく、触れてはいけないことのように感じた。
「でも、ここで会うなんて珍しいですね」
「ん。ああ、そうだね。図書館に用があって」
陽菜の言葉にそう返した彼。戀は違和感を覚えたが黙っていた。彼らには何か知られたくないことがあるのだろう。追及すべきではない。
これからバイトがあるから長居はできないと言う彼と別れ、再び歩き出した戀と陽菜だったが。
「戀くん、何か変じゃない?」
「変とは?」
陽菜は勘が良い。だが何か確証があるわけでもなく、小さな違和感なのだ。その正体を突き止めることが良いこととは限らない。
「口数少なかったし。あの店員さんと仲いいのに」
「それは」
”陽菜の話の続きが気になっていたから”と告げれば、それ以上詮索されなかった。
「渋い顔の話」
「そう、渋いやつね」
”渋さマシマシ”と言って顎に手をやると、彼女がくすりと笑う。
「戀くんが渋かったということではなく、ちょっと険しい顔をして雑誌を見ていたから」
”てっきり未練でもあるのかと思った”と彼女は続ける。
「未練がないことは、もう分かっているとは思うけど……なんでブロックしなかったんだろうって思ってさ」
「そこだけブロックされなかったわけですか」
「そうだね」
先日元カノに再会するまでは、評価を消してやろうかと思っていたくらいなのだ。
「利用されたのかなって思ってさ」
確かに好きだと思っていた。そうであるべきなのだと思っていたのだ。だから再会した時、そのことについて聞いてみようと思ったのだが。
「なんかさ。陽菜さ……陽菜のお兄さんが叔母とつき合ったのを見て」
”またさん付けで呼ぶ”という抗議の視線を向けられ、戀は言い直す。
「つまりアイツは恋愛対象外だったわけで。それがなんか、いい気味って思っちゃったんだよね」
陽菜の兄にとっては恋愛対象外。
その事実が戀にとってスカッとした出来事だった。
自分も十分性格が悪いなと思い、自嘲気味に笑う。
「まあ、元カノさんより百倍可愛い妹がいるんだから仕方ないよ。うん」
バンバンと背中を叩く陽菜が冗談で言っているのはわかる。
「それは」
「美の基準の問題」
陽菜の言葉を聞きながら、”叔母の時にも言っていたよな”と戀は思った。
「自分の周りに容姿の優れた人ばかりいると面食いでなくても、基準が上がっちゃうと思うんだ」
本人が整っている時も然りなのかもしれない。
とは言っても、必ずしもそうとは限らないが。
「陽菜もそうなの?」
彼女の兄は整った容姿をしている。あの叔母が簡単に交際をOKするくらいだ。そして陽菜自身もとても可愛らしい。
「ふふっ。どうでしょう?」
こちらを覗き込むようにして彼女が笑う。
「でも、見た目で選んだのとか言われたら嫌でしょ」
「それは、まあ」
一昔前までは恋人はアクセサリーやステータスだなんていう人もいたが。
恋愛をしない世の中になって、価値観は変わったのだろうか?
恋人よりも推し文化の方が上位に感じる現在の世の中で。芸能人よりもユーチューバーの方が人気を感じる、こんな世の中で。
「何を心配しているのか分からないけれど、わたしは戀くんの人柄に惹かれたの。もっと素敵な人が現れたからって心変わりしたりしないから、大丈夫」
”だから戀くんも浮気しないでね?”と言われ、戀は盛大に咽たのだった。
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