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9話 過去と対峙して

4 合わない相手と好きな人

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「良く言えば素直。悪く言えば、なんでもずけずけとモノを言うタイプの子ね」
 れんは叔母が陽菜はるなに元カノの人となりを話すのを黙って聞いていた。自分から説明するよりも第三者に冷静に伝えて貰った方が良いだろうと思う。
「本人は言葉を選んで話していたつもりだったみたいだけれど、話題選びってそういう問題ではないでしょう?」
 人間関係を円滑にしようと思ったら気づいていても知らないふりをすることもあるし、さりげなくフォローをしようとすることもあるだろう。
 そして触れない方がいいと、見てみぬふりすることも多い。
 合う合わないとは許容できるかも関係はしてくるが、スルーできるかまたは気にならないかも重要だと思うのである。

 戀からすると元カノと言うのは、世間知らずで子供のような人だと思っていた。自分は言われるのは嫌だが、平気で相手を責めるような人。思ったことは言うべきか否か判断せずに言ってしまうような人だった。その為の言葉選びをしているとは言うが、そこはあまり問題ではないのだ。
 確かに言い方次第で人間関係は円滑にもなるし、ギスギスしたりもするだろうが話題選びの方がずっと大切。相手が気にしているだろうことをずけずけと言う彼女は、確かに人から好かれるタイプとは言い難かった。

「いやなことを嫌と言うのは悪いことではないと思うんだけど、いかんせん我がままなのよね。自分の想い通りにしたいと言う部分がある子なのよ」
 その我がままにつき合っていれば、終わることはないのだろうと思っていたが、そうではなかったようだ。
 その我がままを許容し、穏やかであることを求められた。
「土台無理な話なのよ。生活環境が違うし、互いにやるべきこともあるわけでしょう? それをほったらかして恋人の相手ばかりしていられる人なんてそうそういないわ」
 陽菜が気の毒そうにこちらに視線を投げたのに気付いたが、戀はうつむいて話を聞いていた。自分の努力とはなんだったのだろうと思いながら。

「彼女はそれを望んだと言うことなのですか?」
「どうなのかしらね。迷惑を迷惑と感じない状況になっていたのかもしれないわね。相手のことを考えてあげる余裕がなかったと言うか」
 彼女が言っていたことは、確かに正しいこともあったとは思う。しかしながら、相手の性格を変えてしまうほどに相手に変われと言うのは人格の否定以外の何もでもないのではないだろうか?
 人は互いに欠点を理解し、それを補えるようになっていくものなのだと思うのだ。やがてその欠点さえも愛しいと感じる。そうやって恋愛関係は続いていくものである。

 終わるべくして終わったとしか言いようのない過去の恋人関係。
 彼女は確かに悪い人ではないと思う。
 悪気がないから相手が傷つかないわけではないと言うことを理解していないだけ。優しい一面もあったから、たぶん陽菜の事情を話せば心から協力してくれるに違いない。
 しかし叔母が言っているように戀は彼女のことが苦手なのである。
 胃が痛くなってきたなと思いつつ紅茶のカップに手を伸ばす。

「特にあの子、戀には何でも言うのよ。まあ、反論しないからそうさせるのかもしれないわね」
 確かに反論はしなかったと思う。
 けれどもそれは意見がなかったわけではない。揉めるのが嫌だったから。
 何を求めているのかいまいち分からない相手だったとも思う。それでも縛られているのは、自分の欠点を的確に指摘してきた相手だったからとも言えた。
 人には分かっていてもできないことがある。

 内気な人に積極的にならねばいけないと言うのは確かに正しいこととも思えるが、内気な人にそれができるのかと言う話。
 もっと極端で分かりやすい例を出せば、異性愛者に同性愛者になれと言ったところでなれるわけもないだろう。
 人には努力だけではどうにもならない部分がある。だからこそ助け合い、協力し合って生きていく。それが人間だと思うのだ。
「大丈夫?」
 ため息を漏らした戀にたまりかねたのだろうか、陽菜が声をかけてくれる。
 その優しさに、戀は嬉しくなって思わず笑ってしまったのだった。
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