50 / 72
9話 過去と対峙して
2 小さな気づき
しおりを挟む
考えたくないからと逃げているわけにもいかないだろうと思った。
もしここで何も見つからなければ、救急指定病院に問い合わせる他ないから。そこで門前払いされてしまったら……いよいよ最後の手段にでるしかない。そのカードはこの手の中にある。
だが、協力してくれるだろうか。
何だか胃が痛くなってきたなと戀は胃の辺りをさする。
一緒に乗っていた三人は陽菜の父の車に乗っていた二人と合流すると意気揚々と図書館の中へ向かって行った。陽菜の父と共に。
「いつの間に仲良くなったの?」
近づいてきた陽菜に問えば彼女は肩を竦める。
「一緒に乗っていた方がね、父のお店の常連さんだったのよ」
陽菜たちの車には先生と呼ばれていた女性と男性が乗っていたはずだ。その男性はてっきり先生と特別な関係なのかと思っていたが、そうではないらしい。
「戀くんの車に乗っていた方の義弟さんなんだって。お父さんと話がしたくてこちらに乗ったみたい」
「そうなんだ」
先生の方はアクセサリーを気に入ってくれた陽菜と話がしたいから、あちら側に同席したいと言うのを事前に聞いていた。だからか、てっきり先生と特別な繋がりがあるように感じたのである。
「そっか、先入観って怖いね」
戀《れん》は自分の思い込みについて呟くように言葉を零す。
元カノは最近ある男性と父が院長を務める病院近くの公園で散歩をしているという。よく一緒にいることから先ほどの彼女たちは恋人同士だと思っているようだが、確認は取っていないと言っていた。
例えばそれが恋人ではなかったとして。友人だったとしても、だから何だと言う話だ。
「戀くん、どうかしたの?」
「あ、いや。世間は狭いなと思ってさ」
それは嘘ではないだろう。
しかし濁したところでなんの解決にもなりはしない。いづれは救急指定病院に問い合わせをせねばならないのだから。
つまりここで話さなくても、時が来たら話さなくてはならないと言うことでもある。後になれば再度説明から始めなければならないだろう。面倒なだけ。
戀は覚悟を決めるべきだと思った。冷静に話せる自信がなくても。
「先ほど車内で訊いたことがあるんだけど」
戀は思い切って陽菜に切り出してみる。
「うん。何かな?」
戀は珈琲店で彼女たちが言っていた『院長のお嬢さん』に心当たりがなく、詳しく聞いてみたと言う説明をした。すると察しが良いのか彼女からは聡明な答えが返ってきたのである。
「そのお嬢さんってもしかしてあの雑誌に載っていた、戀くんの元カノさん?」
どうしてわかったんだろうと思いつつ、戀は頷く。
「以前はその人とよく一緒にいて、最近はわたしといるという言い方だったから。そうかなとは思ったんだ」
彼女は”院長のお嬢さん”というワードには引っ張られずに、状況で判断したようだ。
「その人が誰なのかを説明しなければいけないと言うことは、その人と目的の病院が関係あるということなのね」
「ご名答。名探偵だね、陽菜さん」
「戀くんは極力関係のないことを話さないようにしているように感じたから、話すことには意味があるのかなって思っただけよ」
名探偵と言われ照れているのだろうか、少し頬を赤らめて。
「凄く論理的」
ふふっと笑う彼女に惚れなおした戀。やっぱり彼女のことがとても好きだなと感じてた。
「つまり戀くんは最悪の場合、その人の協力を仰がないといけないと思っているのよね?」
「そうだね」
確たる証拠があって問い合わせをする分には教えてもらえることもあるとは思う。しかも関係者であるなら。
だが何も出てこなかった場合はあてずっぽうと言うことになる。そう簡単には教えて貰えないだろう。
「でも当てがあるという言う考え方もできるわ」
”前向きに考えましょうよ”と言われ、戀の気持ちは少し軽くなった。
「そうだね」
「さて、わたしたちも父に合流して目的の記事を探しましょう」
戀は行こうというように手を掴まれ、腕を引く彼女に続く。まるで心配いらないと言われているように感じ、そっと微笑んだのだった。
もしここで何も見つからなければ、救急指定病院に問い合わせる他ないから。そこで門前払いされてしまったら……いよいよ最後の手段にでるしかない。そのカードはこの手の中にある。
だが、協力してくれるだろうか。
何だか胃が痛くなってきたなと戀は胃の辺りをさする。
一緒に乗っていた三人は陽菜の父の車に乗っていた二人と合流すると意気揚々と図書館の中へ向かって行った。陽菜の父と共に。
「いつの間に仲良くなったの?」
近づいてきた陽菜に問えば彼女は肩を竦める。
「一緒に乗っていた方がね、父のお店の常連さんだったのよ」
陽菜たちの車には先生と呼ばれていた女性と男性が乗っていたはずだ。その男性はてっきり先生と特別な関係なのかと思っていたが、そうではないらしい。
「戀くんの車に乗っていた方の義弟さんなんだって。お父さんと話がしたくてこちらに乗ったみたい」
「そうなんだ」
先生の方はアクセサリーを気に入ってくれた陽菜と話がしたいから、あちら側に同席したいと言うのを事前に聞いていた。だからか、てっきり先生と特別な繋がりがあるように感じたのである。
「そっか、先入観って怖いね」
戀《れん》は自分の思い込みについて呟くように言葉を零す。
元カノは最近ある男性と父が院長を務める病院近くの公園で散歩をしているという。よく一緒にいることから先ほどの彼女たちは恋人同士だと思っているようだが、確認は取っていないと言っていた。
例えばそれが恋人ではなかったとして。友人だったとしても、だから何だと言う話だ。
「戀くん、どうかしたの?」
「あ、いや。世間は狭いなと思ってさ」
それは嘘ではないだろう。
しかし濁したところでなんの解決にもなりはしない。いづれは救急指定病院に問い合わせをせねばならないのだから。
つまりここで話さなくても、時が来たら話さなくてはならないと言うことでもある。後になれば再度説明から始めなければならないだろう。面倒なだけ。
戀は覚悟を決めるべきだと思った。冷静に話せる自信がなくても。
「先ほど車内で訊いたことがあるんだけど」
戀は思い切って陽菜に切り出してみる。
「うん。何かな?」
戀は珈琲店で彼女たちが言っていた『院長のお嬢さん』に心当たりがなく、詳しく聞いてみたと言う説明をした。すると察しが良いのか彼女からは聡明な答えが返ってきたのである。
「そのお嬢さんってもしかしてあの雑誌に載っていた、戀くんの元カノさん?」
どうしてわかったんだろうと思いつつ、戀は頷く。
「以前はその人とよく一緒にいて、最近はわたしといるという言い方だったから。そうかなとは思ったんだ」
彼女は”院長のお嬢さん”というワードには引っ張られずに、状況で判断したようだ。
「その人が誰なのかを説明しなければいけないと言うことは、その人と目的の病院が関係あるということなのね」
「ご名答。名探偵だね、陽菜さん」
「戀くんは極力関係のないことを話さないようにしているように感じたから、話すことには意味があるのかなって思っただけよ」
名探偵と言われ照れているのだろうか、少し頬を赤らめて。
「凄く論理的」
ふふっと笑う彼女に惚れなおした戀。やっぱり彼女のことがとても好きだなと感じてた。
「つまり戀くんは最悪の場合、その人の協力を仰がないといけないと思っているのよね?」
「そうだね」
確たる証拠があって問い合わせをする分には教えてもらえることもあるとは思う。しかも関係者であるなら。
だが何も出てこなかった場合はあてずっぽうと言うことになる。そう簡単には教えて貰えないだろう。
「でも当てがあるという言う考え方もできるわ」
”前向きに考えましょうよ”と言われ、戀の気持ちは少し軽くなった。
「そうだね」
「さて、わたしたちも父に合流して目的の記事を探しましょう」
戀は行こうというように手を掴まれ、腕を引く彼女に続く。まるで心配いらないと言われているように感じ、そっと微笑んだのだった。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
Rabbit foot
Suzuki_Aphro
ミステリー
見て見ぬふりは、罪ですか?
Q大学の同期男女5人の学生たちはある夜、死亡ひき逃げ事故の目撃者となってしまう。
事故の決定的な瞬間、うろたえる男女の声、救護せずに立ち去る車…。
偶然にも一部始終を記録してしまった、主人公・壱歩(いぶき)のカメラ。
警察に情報提供すべきはずが、保身のために見て見ぬフリをすることに―。
しかし、それから10年後、裏切り者の出現によって壱歩たちの生活は一変する。
仮想空間に探偵は何人必要か?
崎田毅駿
ミステリー
eスポーツだのVRだのARだのが日本国内でもぼちぼち受け始め、お金になる目処が付いたとあってか、様々なジャンルのゲームが仮想空間でのそれに移植された。その一つ、推理系のゲームは爆発的ではないが一定の人気が見込める上に、激しい“操作”が必要でなく、代わりに探偵になりきっての“捜査”が受けて、大規模な大会が開かれるまでになった。
【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜
雪井しい
恋愛
「こはる、俺の妻になれ」その日、大女優を母に持つ2世女優の花宮こはるは自分の所属していた劇団の解散に絶望していた。そんなこはるに救いの手を差し伸べたのは年上の幼馴染で大企業の御曹司、月ノ島玲二だった。けれど代わりに妻になることを強要してきて──。花嫁となったこはるに対し、俺様な玲二は独占欲を露わにし始める。
【幼馴染の俺様御曹司×大物女優を母に持つ2世女優】
☆☆☆ベリーズカフェで日間4位いただきました☆☆☆
※ベリーズカフェでも掲載中
※推敲、校正前のものです。ご注意下さい
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
【本編完結】若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!
はづも
恋愛
本編完結済み。番外編がたまに投稿されたりされなかったりします。
伯爵家に生まれたカレン・アーネストは、20歳のとき、幼馴染でもある若き公爵、ジョンズワート・デュライトの妻となった。
しかし、ジョンズワートはカレンを愛しているわけではない。
当時12歳だったカレンの額に傷を負わせた彼は、その責任を取るためにカレンと結婚したのである。
……本当に好きな人を、諦めてまで。
幼い頃からずっと好きだった彼のために、早く身を引かなければ。
そう思っていたのに、初夜の一度でカレンは懐妊。
このままでは、ジョンズワートが一生自分に縛られてしまう。
夫を想うが故に、カレンは妊娠したことを隠して姿を消した。
愛する人を縛りたくないヒロインと、死亡説が流れても好きな人を諦めることができないヒーローの、両片想い・幼馴染・すれ違い・ハッピーエンドなお話です。
【R18】豹変年下オオカミ君の恋愛包囲網〜策士な後輩から逃げられません!〜
湊未来
恋愛
「ねぇ、本当に陰キャの童貞だって信じてたの?経験豊富なお姉さん………」
30歳の誕生日当日、彼氏に呼び出された先は高級ホテルのレストラン。胸を高鳴らせ向かった先で見たものは、可愛らしいワンピースを着た女と腕を組み、こちらを見据える彼の姿だった。
一方的に別れを告げられ、ヤケ酒目的で向かったBAR。
「ねぇ。酔っちゃったの………
………ふふふ…貴方に酔っちゃったみたい」
一夜のアバンチュールの筈だった。
運命とは時に残酷で甘い………
羊の皮を被った年下オオカミ君×三十路崖っぷち女の恋愛攻防戦。
覗いて行きませんか?
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
・R18の話には※をつけます。
・女性が男性を襲うシーンが初回にあります。苦手な方はご注意を。
・裏テーマは『クズ男愛に目覚める』です。年上の女性に振り回されながら、愛を自覚し、更生するクズ男をゆるっく書けたらいいなぁ〜と。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる