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8話 その分岐点
6 常連客からの有難い申し出
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翌週の土曜の朝。
戀たちは再び珈琲店に集まっていた。
「全国向けのニュースはどこも同じかもしれないけれど、小さなニュースは地域向けだと思うんだよね」
図書館の新聞コーナーでこれから探すべき記事の内容について話す。
「大まかな住所は調べてあるし、一応例のコンビニ店員さんにもあの時期にひき逃げ事件の看板がなかったか確認はしてある」
「事件の目撃情報求むという、あれね」
戀の言葉に陽菜が反応した。
とは言え、逃げていたらの話だ。
引いて連れ去ったなら、ひき逃げ事件にはならない。
生きていることを信じたい戀は、その可能性について二人には話さずにいる。すべての可能性が打ち消された時、それについて考えなければならないとは思っているが。
「時刻は21時以降。だから朝刊にもなっていないと思うんだ。よっぽどの大きな事件でもない限りは。もしくは有名人が絡んでいるとかではない限り」
「そんな大きな事件なら、連日TVのニュースでやっていただろうし人の記憶にも残っているはずだな」
今度は陽菜の父が反応する。
「まだ事件か事故かも分からないし、単に近くの家で急患が出たという可能性もある」
調べる時期について話し合い、方針が決まったところで陽菜が一つの疑問を口にした。
「もし、記事が見つからなかった場合はどうするの?」
「救急指定病院に問い合わせをしてみようと思う。その時期に患者が運ばれてこなかったか」
詳しい話は守秘義務があるだろうから教えてはもらえないかも知れない。だから遠回りでも、まずは証拠を探すべきだと思った。
何も見つからなかった時、どうすべきか。その場合は質問の仕方にかかってくるだろう。
「何誌あるのかしら」
戀が考え事をしていると、隣で陽菜と彼女の父が話し始めた。
「6誌くらいかな」
「お父さん、詳しいのね」
「あいつがよく家で新聞を広げていたからな」
きっと陽菜の兄のことを言っているのだろう。それにしても6誌とは。1週間分を確認しようとしたら、1日に3人で探せる量ではない。
「そんなにあるのね。すぐに見つかると良いのだけれど」
陽菜と彼女の父は顔を見合わせため息をつく。
その時だった。
「あの……私たちにも何かお手伝いはできないでしょうか? いいですよね、先生。困っているみたいですし」
おずおずとこちらに声をかけてくれたのは、5人グループの男女。先生と呼ばれた女性は戀たちと同年代に見えたが、他の4人はミドル世代のようだ。となると関係性は生徒の保護者と学校の先生なのだろうか。
しかしながら、ミドル世代の4人はよくこの珈琲店で見かける常連客でもあった。中には長期に渡り通ってくれている客も混ざっていた。
「もちろんですよ」
先生と呼ばれた女性はニッコリと微笑む。なかなかの美人だ。しかし戀は彼女をどこかで見かけたことがあるような気がした。その謎はすぐに解ける。
「私《わたくし》、図書館の近くのアトリエの店主をしております。彼らは近くの商店街からうちの教室に通ってくださっている生徒さんなんです」
”今日は皆さんがおすすめの珈琲店に連れてきてくださったの”と続けて。
陽菜も彼女には見覚えがあると思っていたのか、合点がいったという表情をしている。先日そのアトリエで買い物をしたと言う話をすると、彼女は驚いた表情をした。
彼女がレジをしてくれたわけではないので、二人のことを覚えていなくとも無理はない。
戀は協力を申し出てくれた5人に事件の概要とこれからしようとしていることを話すことにした。もちろん姫宮親子の許しを得て。
「そんなことになってたの」
常連客の一人が眉を寄せて気の毒そうな表情をした。
「院長のお嬢さんが来なくなって随分経つでしょう?」
”院長のお嬢さん”というフレーズに戀は何のことかと首を傾げる。
「最近は可愛い女の子と一緒にいるし、良かったわねって話していたのよ」
「でもマスター、聞いても全然教えてくれないし」
常連客達は口々に言い合い勝手に納得していた。
戀は自分のことを言われているのだろうことは理解したが、”院長のお嬢さん”には心当たりがない。
どういうことだと叔母の方に視線を向けると、こちらの話は聞こえていないようで手元にある何かを一心に見つめていたのだった。
戀たちは再び珈琲店に集まっていた。
「全国向けのニュースはどこも同じかもしれないけれど、小さなニュースは地域向けだと思うんだよね」
図書館の新聞コーナーでこれから探すべき記事の内容について話す。
「大まかな住所は調べてあるし、一応例のコンビニ店員さんにもあの時期にひき逃げ事件の看板がなかったか確認はしてある」
「事件の目撃情報求むという、あれね」
戀の言葉に陽菜が反応した。
とは言え、逃げていたらの話だ。
引いて連れ去ったなら、ひき逃げ事件にはならない。
生きていることを信じたい戀は、その可能性について二人には話さずにいる。すべての可能性が打ち消された時、それについて考えなければならないとは思っているが。
「時刻は21時以降。だから朝刊にもなっていないと思うんだ。よっぽどの大きな事件でもない限りは。もしくは有名人が絡んでいるとかではない限り」
「そんな大きな事件なら、連日TVのニュースでやっていただろうし人の記憶にも残っているはずだな」
今度は陽菜の父が反応する。
「まだ事件か事故かも分からないし、単に近くの家で急患が出たという可能性もある」
調べる時期について話し合い、方針が決まったところで陽菜が一つの疑問を口にした。
「もし、記事が見つからなかった場合はどうするの?」
「救急指定病院に問い合わせをしてみようと思う。その時期に患者が運ばれてこなかったか」
詳しい話は守秘義務があるだろうから教えてはもらえないかも知れない。だから遠回りでも、まずは証拠を探すべきだと思った。
何も見つからなかった時、どうすべきか。その場合は質問の仕方にかかってくるだろう。
「何誌あるのかしら」
戀が考え事をしていると、隣で陽菜と彼女の父が話し始めた。
「6誌くらいかな」
「お父さん、詳しいのね」
「あいつがよく家で新聞を広げていたからな」
きっと陽菜の兄のことを言っているのだろう。それにしても6誌とは。1週間分を確認しようとしたら、1日に3人で探せる量ではない。
「そんなにあるのね。すぐに見つかると良いのだけれど」
陽菜と彼女の父は顔を見合わせため息をつく。
その時だった。
「あの……私たちにも何かお手伝いはできないでしょうか? いいですよね、先生。困っているみたいですし」
おずおずとこちらに声をかけてくれたのは、5人グループの男女。先生と呼ばれた女性は戀たちと同年代に見えたが、他の4人はミドル世代のようだ。となると関係性は生徒の保護者と学校の先生なのだろうか。
しかしながら、ミドル世代の4人はよくこの珈琲店で見かける常連客でもあった。中には長期に渡り通ってくれている客も混ざっていた。
「もちろんですよ」
先生と呼ばれた女性はニッコリと微笑む。なかなかの美人だ。しかし戀は彼女をどこかで見かけたことがあるような気がした。その謎はすぐに解ける。
「私《わたくし》、図書館の近くのアトリエの店主をしております。彼らは近くの商店街からうちの教室に通ってくださっている生徒さんなんです」
”今日は皆さんがおすすめの珈琲店に連れてきてくださったの”と続けて。
陽菜も彼女には見覚えがあると思っていたのか、合点がいったという表情をしている。先日そのアトリエで買い物をしたと言う話をすると、彼女は驚いた表情をした。
彼女がレジをしてくれたわけではないので、二人のことを覚えていなくとも無理はない。
戀は協力を申し出てくれた5人に事件の概要とこれからしようとしていることを話すことにした。もちろん姫宮親子の許しを得て。
「そんなことになってたの」
常連客の一人が眉を寄せて気の毒そうな表情をした。
「院長のお嬢さんが来なくなって随分経つでしょう?」
”院長のお嬢さん”というフレーズに戀は何のことかと首を傾げる。
「最近は可愛い女の子と一緒にいるし、良かったわねって話していたのよ」
「でもマスター、聞いても全然教えてくれないし」
常連客達は口々に言い合い勝手に納得していた。
戀は自分のことを言われているのだろうことは理解したが、”院長のお嬢さん”には心当たりがない。
どういうことだと叔母の方に視線を向けると、こちらの話は聞こえていないようで手元にある何かを一心に見つめていたのだった。
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