47 / 72
8話 その分岐点
5 心強い協力者
しおりを挟む
「だいぶ遅くなってしまったね」
時間が遅くなってしまったため、戀と陽菜はいつもの珈琲店にいた。夕飯がまだだったからである。
「そうね。でも分かったこともあったし」
戀は車のドアを開け彼女を外に促す。予定よりも時間が遅いので彼女の父が迎えに来てくれると言う話だった。どうやら先に珈琲店にいるらしい。
店の前まで行くと中からドアが開く。車のエンジン音に気づいたのだろう。
「寒かったでしょう? 早くお入りなさいな」
叔母はいつものように心配そうに出迎えてくれた。
礼を述べる陽菜に笑顔を向けた叔母は『お父さん、先にいらしてるわよ』と中へ促す。
「戀」
「うん?」
陽菜がカウンターの父のところへ向かうのを確認し、扉の外に立っていた戀に声をかける彼女。
「何か良くないことでもあったの?」
やはり彼女は察しが良い。つき合いが長いからわかるのかもしれないが、戀の様子から何かを読み取るのが上手いのはいつものこと。その度に戀は感心してしまうのだ。
「まだ、断言はできない。でも、避けていた結論を突きつけられている気はする」
「でも確定ではないのでしょう?」
「それは、まあ」
戀が彼女から視線を逸らし床に向けるとポンと肩に置かれた手。
「大丈夫よ。身元不明の遺体に関しては照会済みなんでしょう?」
「そう言ってたね」
言わば、それに期待を繋いでいる状況なのだ。
しかしもし陽菜の兄が事故に遭い、相手が心無い者だったなら。
身元不明のご遺体がないと言うのは、警察に届け出ていない可能性もある。何処かに埋めてしまったなら見つからないだろう。
女子高生グループの一人から来た情報は、救急搬送された誰かがいたと言う事実を提示してくれただけに過ぎない。その搬送された誰かが陽菜の兄とは限らないのである。
だがそこから戀が連想したのは、あの日陽菜の兄が事故に巻き込まれた可能性について。酷く酔っ払い、足元もおぼつかなかったと言う。あの通りの平日のあの時間の交通量は分からないが、年末に近づくにつれて事故件数は上がっているようにも感じる。
それは日が落ちるのが早くなるからとも言えるだろう。翌日は祝日というから、遅くまで出かけていた人がいても不思議ではない。
政府や地方自治体から自粛を促された期間は県などにもばらつきはあるものの、主に三つの期間。沖縄以外では解除されていたところもあるとのことだ。
20年4月7日から5月25日。
21年1月8日から3月21日。
同年の4月25日から9月30日。
そう、あの年の11月22日は自粛の期間から外れているのである。人の流動が戻り始めた時期。羽目を外していた者がいても不思議はないだろう。
「中、入りましょうか」
「うん」
頷く戀の背中を軽くさする叔母の手。”大丈夫よ”とでも言うように。
「戀が信じてあげなきゃ」
「そうだね」
まだ最悪の事態と決まったわけではない。今からお通夜のような気分になっていては駄目だと自分を奮い立たせる。
戀がカウンターに腰かけると、心配そうにこちらに視線を向ける陽菜。彼女の隣には父が座っていた。
「待たせてごめん。簡単に状況を説明してた」
無理に笑顔を作ると何かを察した彼女も笑顔を作る。
「今日はね、鍋を用意してあるのよ」
「へえ、それは楽しみ」
叔母の言葉に顔を見合わせた戀と陽菜。
「お父さんの分もあるわ」
陽菜の父は、帰りの遅い娘と捜索状況が気になって夕飯どころではなかったらしい。叔母の言葉にガッツポーズをきめる彼女の父。そんな様子を見ながら戀は、彼の息子が生きていることを心から願った。
叔母が準備をしてくれている間、当然話は捜索状況のことへと移る。
「図書館へ?」
今日までの状況と推理を述べたのち、次なる目的地を告げれば陽菜の父は不思議そうに聞き返す。
「ネットにその記事がないとは言えないけれど、やはり地域のことはその地域で発行している新聞の方が載っている確率は高いと思うのです」
「それなら私も手伝おう」
「お店の方はよろしいので?」
一日くらい弟子たちに任せても問題はないと言う彼。それならばと彼にお願いすることにした戀であった。
時間が遅くなってしまったため、戀と陽菜はいつもの珈琲店にいた。夕飯がまだだったからである。
「そうね。でも分かったこともあったし」
戀は車のドアを開け彼女を外に促す。予定よりも時間が遅いので彼女の父が迎えに来てくれると言う話だった。どうやら先に珈琲店にいるらしい。
店の前まで行くと中からドアが開く。車のエンジン音に気づいたのだろう。
「寒かったでしょう? 早くお入りなさいな」
叔母はいつものように心配そうに出迎えてくれた。
礼を述べる陽菜に笑顔を向けた叔母は『お父さん、先にいらしてるわよ』と中へ促す。
「戀」
「うん?」
陽菜がカウンターの父のところへ向かうのを確認し、扉の外に立っていた戀に声をかける彼女。
「何か良くないことでもあったの?」
やはり彼女は察しが良い。つき合いが長いからわかるのかもしれないが、戀の様子から何かを読み取るのが上手いのはいつものこと。その度に戀は感心してしまうのだ。
「まだ、断言はできない。でも、避けていた結論を突きつけられている気はする」
「でも確定ではないのでしょう?」
「それは、まあ」
戀が彼女から視線を逸らし床に向けるとポンと肩に置かれた手。
「大丈夫よ。身元不明の遺体に関しては照会済みなんでしょう?」
「そう言ってたね」
言わば、それに期待を繋いでいる状況なのだ。
しかしもし陽菜の兄が事故に遭い、相手が心無い者だったなら。
身元不明のご遺体がないと言うのは、警察に届け出ていない可能性もある。何処かに埋めてしまったなら見つからないだろう。
女子高生グループの一人から来た情報は、救急搬送された誰かがいたと言う事実を提示してくれただけに過ぎない。その搬送された誰かが陽菜の兄とは限らないのである。
だがそこから戀が連想したのは、あの日陽菜の兄が事故に巻き込まれた可能性について。酷く酔っ払い、足元もおぼつかなかったと言う。あの通りの平日のあの時間の交通量は分からないが、年末に近づくにつれて事故件数は上がっているようにも感じる。
それは日が落ちるのが早くなるからとも言えるだろう。翌日は祝日というから、遅くまで出かけていた人がいても不思議ではない。
政府や地方自治体から自粛を促された期間は県などにもばらつきはあるものの、主に三つの期間。沖縄以外では解除されていたところもあるとのことだ。
20年4月7日から5月25日。
21年1月8日から3月21日。
同年の4月25日から9月30日。
そう、あの年の11月22日は自粛の期間から外れているのである。人の流動が戻り始めた時期。羽目を外していた者がいても不思議はないだろう。
「中、入りましょうか」
「うん」
頷く戀の背中を軽くさする叔母の手。”大丈夫よ”とでも言うように。
「戀が信じてあげなきゃ」
「そうだね」
まだ最悪の事態と決まったわけではない。今からお通夜のような気分になっていては駄目だと自分を奮い立たせる。
戀がカウンターに腰かけると、心配そうにこちらに視線を向ける陽菜。彼女の隣には父が座っていた。
「待たせてごめん。簡単に状況を説明してた」
無理に笑顔を作ると何かを察した彼女も笑顔を作る。
「今日はね、鍋を用意してあるのよ」
「へえ、それは楽しみ」
叔母の言葉に顔を見合わせた戀と陽菜。
「お父さんの分もあるわ」
陽菜の父は、帰りの遅い娘と捜索状況が気になって夕飯どころではなかったらしい。叔母の言葉にガッツポーズをきめる彼女の父。そんな様子を見ながら戀は、彼の息子が生きていることを心から願った。
叔母が準備をしてくれている間、当然話は捜索状況のことへと移る。
「図書館へ?」
今日までの状況と推理を述べたのち、次なる目的地を告げれば陽菜の父は不思議そうに聞き返す。
「ネットにその記事がないとは言えないけれど、やはり地域のことはその地域で発行している新聞の方が載っている確率は高いと思うのです」
「それなら私も手伝おう」
「お店の方はよろしいので?」
一日くらい弟子たちに任せても問題はないと言う彼。それならばと彼にお願いすることにした戀であった。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【完結】maybe 恋の予感~イジワル上司の甘いご褒美~
蓮美ちま
恋愛
会社のなんでも屋さん。それが私の仕事。
なのに突然、企画部エースの補佐につくことになって……?!
アイドル顔負けのルックス
庶務課 蜂谷あすか(24)
×
社内人気NO.1のイケメンエリート
企画部エース 天野翔(31)
「会社のなんでも屋さんから、天野さん専属のなんでも屋さんってこと…?」
女子社員から妬まれるのは面倒。
イケメンには関わりたくないのに。
「お前は俺専属のなんでも屋だろ?」
イジワルで横柄な天野さんだけど、仕事は抜群に出来て人望もあって
人を思いやれる優しい人。
そんな彼に認められたいと思う反面、なかなか素直になれなくて…。
「私、…役に立ちました?」
それなら…もっと……。
「褒めて下さい」
もっともっと、彼に認められたい。
「もっと、褒めて下さ…っん!」
首の後ろを掬いあげられるように掴まれて
重ねた唇は煙草の匂いがした。
「なぁ。褒めて欲しい?」
それは甘いキスの誘惑…。
仮想空間に探偵は何人必要か?
崎田毅駿
ミステリー
eスポーツだのVRだのARだのが日本国内でもぼちぼち受け始め、お金になる目処が付いたとあってか、様々なジャンルのゲームが仮想空間でのそれに移植された。その一つ、推理系のゲームは爆発的ではないが一定の人気が見込める上に、激しい“操作”が必要でなく、代わりに探偵になりきっての“捜査”が受けて、大規模な大会が開かれるまでになった。
Rabbit foot
Suzuki_Aphro
ミステリー
見て見ぬふりは、罪ですか?
Q大学の同期男女5人の学生たちはある夜、死亡ひき逃げ事故の目撃者となってしまう。
事故の決定的な瞬間、うろたえる男女の声、救護せずに立ち去る車…。
偶然にも一部始終を記録してしまった、主人公・壱歩(いぶき)のカメラ。
警察に情報提供すべきはずが、保身のために見て見ぬフリをすることに―。
しかし、それから10年後、裏切り者の出現によって壱歩たちの生活は一変する。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
ミックスド★バス~家のお風呂なら誰にも迷惑をかけずにイチャイチャ?~
taki
恋愛
【R18】恋人同士となった入浴剤開発者の温子と営業部の水川。
お互いの部屋のお風呂で、人目も気にせず……♥
えっちめシーンの話には♥マークを付けています。
ミックスド★バスの第5弾です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる