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7話 協力者たち

6 寝室と兄の性格

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「どの部屋もゴミ出しくらいしかしていないし、なるべく現状維持してきたの」
 陽菜はるなに続き寝室へ入るととてもシンプルで片付いた部屋という印象であった。表に出ているのはベッドなどの寝具類とサイドテーブルにライト。
 壁面クローゼットの折れ戸を開くと一人暮らしにしては面積が広いなと感じた。二人分の収納くらいはできそうなスペースに左右で季節を分けた収納をしているようである。
 それでもスペースが十分に空いているのは、元々着回しが上手かったからだろう。

「人にはいろんな癖があると思う。でもこれを見ると、兄は同じくらいの間隔で服をかけて置いたように見えるのよね」
 クローゼットの下の方に設置されているのは、ダークブラウンのカラーボックス。そこにワイシャツなどが畳んで収納されている。その上に数個の籠がおいてあり、靴下や下着が丸められ綺麗に収納されていた。
「なんだかお店のような収納の仕方だね」
 れんはそれを眺めながら率直な感想を漏らす。家庭で言うなら見せる収納というスタイルだろうか。

「兄は合理主義でもあったの。衣料品店の置き方って綺麗に見せていたり、わかりやすかったりお洒落だったりするでしょう?」
「そうだね」
「それは選びやすさだったり、取りやすさにも関係してくる。だから兄はそれを真似たんじゃないかなと思うの」
 確かにこの収納の仕方ならクローゼットを開けただけで何が何処に収納されているのか分かりやすいし、色なども視やすい。箪笥のように中身が隠れているよりも短時間で物の出し入れができただろう。
 なるほど合理主義かと思いつつクローゼットから離れた。同性とは言え、他人の下着などをそんなにジロジロと見るものではないと思ったためだ。

「これだけ片付いていると、何を持ち出したのか逆に気づき辛くはない?」
「そうね。わたしもそう思ったのだけれど、さっき戀くんがヒントをくれたじゃない?」
 そのヒントが何だったのかわからない戀は曖昧に頷く。
「まだ話していなかったことを話しておくわね」
 彼女はそう前置きをしてから兄からどれくらいの頻度で連絡が来ていたのかを話してくれた。用があれば毎日でも連絡を取り合うこともあったが、特に何もない時は2週間に1度くらいは連絡が来たという。
「兄は仕事の関係で不規則だったから、心配させないように定期的に連絡をくれていたと思うの」
 それは生存確認のようなものだったのかもしれない。
 陽菜からは2年前にいなくなったという大まかな情報しか知らされておらず、戀はここまでなんとか情報を集めてぼんやりとでも失踪した時期を特定した。

「初めはね、いつもよりも連絡が来るのが遅いなくらいの気持ちだったの。けれども兄は何かの事件を追って夢中になっているだけかも知れないと思った」
 寝室を出て彼女と共にリビングに移動する。座ってと言われカウンターに腰かけると、彼女はケトルに水を入れ始めた。
「その時、一応メッセージは送ったの。戀くんには見せたよね」
 そこに表示されていた日付も今回の捜索には役立っている。だが彼女も言ったように失踪したと思われる日からズレがあるはずだ。
 いつまで経っても既読がつかないことを不審に思った陽菜は合鍵を持ってここに来たという。

「合鍵は以前から?」
「うん。若くたって何があるか分からないでしょう? 冬になればインフルが猛威を奮ったりするし」
 その言葉に戀は目を細める。インフルエンザは予防接種を受けるからなるという記事を先日見たためだ。自分は一度も予防接種を受けたことがなく、かかったこともなかった。日本は医者が儲かるシステムを作ったとも言われている。そう考えると、なんとなく納得はできた。
「風邪を引くことだってあるしね」
「そうだね」
 兄に何かあった時はすぐに駆け付けられるようにと渡されたのだろう。そう受け取り、同時におやっと思う。
「ホントに兄妹仲が良かったんだね」
 そんな風にしか表現できなかったが、彼女は何かを察したように苦笑いを浮かべたのだった。
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