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6話 亀裂と修正

4 新たな証言者たち

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 金曜日は結局、お目当ての女子高生グループに会えず仕舞い。
 れんにそのチャンスが訪れたのは土曜日の夜であった。

 例のコンビニ店員の言う通りK学園高等部の制服を身に着けている。K学園は幼稚園から大学院まであるマンモス学園。
 陽菜はるなが捜索から離脱してしまった今、自分はこの件に関しては部外者となる。さてどうしたもんかと思っていると、コンビニ店員が再び協力をもし出てくれた。そのお陰で現在、彼女たちと言葉を交わしている。

「名前は知ってましたよ。名刺を貰ったことがあるので」
「最近見ないなとは思っていたんですよ」
「引っ越したわけじゃないんですね」
 三人の女子高生は口々にそう言った。
 所持しているという名刺を見せてもらい、何か新たな情報はないかと確認するも大したことは書かれていないようだ。フリーライターというだけあって何処かに所属している風でもない。

「2年前の11月22日ですか。すぐには思い出せないかも」
 彼女たちはネット内でブログを書いているという。気づいたことについて書いてあるとは限らないが、その辺りのブログなどを読めば当時のことが思い出されるかもしれないと。
 後日、思い出したことがあったら連絡をくれることになり某SNSのIDを交換した。そこのDMで連絡をとることに。
 彼女たちはすでに18歳となっており成人とみなされはするが、直接連絡を取ることを躊躇った戀からの提案であった。

 時間が遅いこともあり、連絡手段を確保し一安心。しかし戀には一点気になることがある。
「どうしてこんな時間にここに?」
 彼女たちがK学園の学生であり寮生であることが判明したが、女性が21時ごろに外にいるのはやはり危険だと感じてしまう。
「わたしたち、バイト帰りなんです。寮に戻ってしまうと買い物とかできないので友人に頼まれたものとか買って帰ったり」
 やはり夜道の一人歩きは危険と判断している彼女たちは揃って同じバイト先に行っているのだと言う。事情を理解しているバイト先の店長はあえて三人を同じシフトにし、一緒に帰れるようにしているのだとか。

 K学園はバイト禁止ではない。それは寮生も同じなのだが、寮生のバイトに関してはある規約があるらしい。戀もK学出身者ではあったが寮生ではなく男子学生でもあったのでその規約については知らなかった。
 こと女子学生については二人以上ので行動するというものであった。これはある時間を超えた場合の帰宅時のルールである。
 日本は武器の所持を認めてはいない。とは言え犯罪がないわけではなく、特に力の弱い子供や女性がその被害者となる場合が多い。寮生というとは、学園側が大事なお子さんを預かるということだ。だが、日本は貧困家庭が多く、貧乏学生も多い。そんな事情も汲んでバイトは禁止されていないのである。

「何か思い出したら、その都度連絡しますね」
 彼女たちはK学園の学生というだけあって品もあり、礼儀正しかった。
「気を付けて帰って」
 戀はお礼を述べたのち、そう言葉をかけ片手を軽く上げる。車で送っても良かったが寮はすぐそこだと言う。不審者だと思われても困るので、戀は無理強いをしなかった。

「良かったですね、逢えて」
「うん」
 彼女たちを見送った後、タイミングを見計らったかのように例のコンビニ店員が話しかけてくる。その手には塵取りと清掃用のトングが握られていた。
「とりあえず一安心かな。何か新たな情報が出てくると良いけれど」
「そうですね。俺たちは姫宮さんを見送って、すぐにコンビニの中に入ってしまったから」
 ”それよりも”と彼は続ける。
「陽菜さんからは連絡あったんですか?」
「それがまだ」
「話し合いが難航しているんですかね」
「どうかな」
 戀はこのまま連絡がなかったらどうしようという気持ちもあったが、どの道調査報告は必要。それに彼女を信じようと決めたのだ。任せておけば大丈夫と自分に言い聞かせる。
 そんな陽菜との再会は意外な形で訪れたのだった。
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