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6話 亀裂と修正
3 彼からの助言
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翌日。夕方になっても陽菜からの連絡はなかった。
しばしスマホの画面を見つめ、ため息をつく。
2年前の11月22日に例のコンビニの駐車場にいたという女子高生グループに、どうしても話を聞きたかった戀。例え陽菜の都合がつかずとも就業後は、あのコンビニに行く予定でいた。
あの日、彼女たちがあの場にいたのは確定事項。
どんな小さなことでも良いから聞き出したい。もしかしたら陽菜の兄をつけていた人を見たという情報がでるかもしれないし、誰かに声をかけられていたという情報を得られるかも知れない。
もちろん何も得られない可能性もある。だがそれは、確かめない限りわからないのだ。
とは言うものの一人で数時間コンビニの駐車場で時間を潰すのは、苦行以外の何ものでもない。どうしたものかと悩んだ末、例のコンビニ店員に助けを求めた。
すると彼はとりあえずコンビニまで来いという。
「張り込みみたいでドキドキするね」
「いや、別に」
「潜入捜査って言うのかな」
「駐車場に?」
コンビニに呼ばれた戀は、コンビニ店員の家にいた。
彼の謎のテンションに戸惑いながらも、先日聞けなかったことを問うてみる。
「姫宮さんは夕方から夜の間にここへ来ていたんですよね」
「僕の家に?」
「え、密会?」
”じゃなくて!”と戀が殴るふりをすると、彼が笑いながら”冗談だよ”と返答した。一向に話が進まない。
「姫宮さんが図書館に行っていたのは恐らく午前から夕方の間だと思う」
時間が合わないという意味合いでそう口にすれば、彼はそんなことかという顔をする。
「これは推測の域を出ないけど。姫宮さんは前日に菓子を購入し、翌日持っていったんじゃないかと思うんだ」
「じゃあ、あの子たちが来るのを予め知っていた……いや、ほとんど毎日行っていたんだっけ」
今日はなんだか調子が狂いっぱなしだ。
コンビニ店員の彼は昨日と今日のシフトを変わったということで本日休み。もし例の女子高生グループが来店したら連絡が来る手はずになっていた。
初めて会った時は砕けた様子。
前回はそこそこ丁寧語。
今回はフランク。
彼は毎回話し方が違う。
そのことを指摘すると。
「そりゃあ、まあお客さんだし?」
彼から曖昧な返答が返ってくる。よくよく話を聞くと戀と同じ年だと言うので、もう互いにタメ口で良いでしょという結論に落ち着いた。
学生時代に彼のような友人がいたならきっと楽しかったろうと思う。
彼もどうやら例の小学生兄弟の父と同じで、感染症や自粛の影響を受け勤め先が倒産したらしい。確か最初の年、5000件倒産したというニュースを目にした。それ以降も旅館関係は倒産し、外国人が買収したなどという情報も目にしたものだ。
日本は確実に海外からの乗っ取りの危機にさらされている。それでも一般人の自分たちには出来ることはないと言えよう。
政府が動かなければ、この国を立て直すのは難しい。日本はもう30年も成長をしていないとも聞く。
若者に未来を感じさせない国。それは日本だけとも限らない。
日々ニュースを見ていると、まだこれでもマシなのではないかと思ってしまうほどに。
コンビニのアルバイトだけでは生計を立てるのが苦しく、昼間も週何回か掛け持ちでバイトをしているのだという。
「そんなに働いてばかりいると禿げるよ」
「え? 禿げんの?!」
適当なことを言う戀に頭を押さえる彼。以前は恋人もいたらしいが、会社が倒産した時に別れたという。婚約までしていたが、彼女の幸せを考えたら職のない自分といることは足かせにしかならないと感じたためだという。
以前は近くに住んでいて、幼馴染み。親が再婚したことをきっかけに家は離れたが、大学に入って再会。
「後悔してないの?」
戀は眉を寄せ、彼に問う。
「よく言うでしょ、縁があれば何度でも巡り合うって。自分の人生にその人が必要なら」
今は離れるのが正解だったんだよと彼は言った。
「だから、高坂さんも後悔しないようにね」
それが何を指しているのか、なんとなくだが理解はしたつもりだ。
きっと陽菜のことを言っているのだろうと思った。
しばしスマホの画面を見つめ、ため息をつく。
2年前の11月22日に例のコンビニの駐車場にいたという女子高生グループに、どうしても話を聞きたかった戀。例え陽菜の都合がつかずとも就業後は、あのコンビニに行く予定でいた。
あの日、彼女たちがあの場にいたのは確定事項。
どんな小さなことでも良いから聞き出したい。もしかしたら陽菜の兄をつけていた人を見たという情報がでるかもしれないし、誰かに声をかけられていたという情報を得られるかも知れない。
もちろん何も得られない可能性もある。だがそれは、確かめない限りわからないのだ。
とは言うものの一人で数時間コンビニの駐車場で時間を潰すのは、苦行以外の何ものでもない。どうしたものかと悩んだ末、例のコンビニ店員に助けを求めた。
すると彼はとりあえずコンビニまで来いという。
「張り込みみたいでドキドキするね」
「いや、別に」
「潜入捜査って言うのかな」
「駐車場に?」
コンビニに呼ばれた戀は、コンビニ店員の家にいた。
彼の謎のテンションに戸惑いながらも、先日聞けなかったことを問うてみる。
「姫宮さんは夕方から夜の間にここへ来ていたんですよね」
「僕の家に?」
「え、密会?」
”じゃなくて!”と戀が殴るふりをすると、彼が笑いながら”冗談だよ”と返答した。一向に話が進まない。
「姫宮さんが図書館に行っていたのは恐らく午前から夕方の間だと思う」
時間が合わないという意味合いでそう口にすれば、彼はそんなことかという顔をする。
「これは推測の域を出ないけど。姫宮さんは前日に菓子を購入し、翌日持っていったんじゃないかと思うんだ」
「じゃあ、あの子たちが来るのを予め知っていた……いや、ほとんど毎日行っていたんだっけ」
今日はなんだか調子が狂いっぱなしだ。
コンビニ店員の彼は昨日と今日のシフトを変わったということで本日休み。もし例の女子高生グループが来店したら連絡が来る手はずになっていた。
初めて会った時は砕けた様子。
前回はそこそこ丁寧語。
今回はフランク。
彼は毎回話し方が違う。
そのことを指摘すると。
「そりゃあ、まあお客さんだし?」
彼から曖昧な返答が返ってくる。よくよく話を聞くと戀と同じ年だと言うので、もう互いにタメ口で良いでしょという結論に落ち着いた。
学生時代に彼のような友人がいたならきっと楽しかったろうと思う。
彼もどうやら例の小学生兄弟の父と同じで、感染症や自粛の影響を受け勤め先が倒産したらしい。確か最初の年、5000件倒産したというニュースを目にした。それ以降も旅館関係は倒産し、外国人が買収したなどという情報も目にしたものだ。
日本は確実に海外からの乗っ取りの危機にさらされている。それでも一般人の自分たちには出来ることはないと言えよう。
政府が動かなければ、この国を立て直すのは難しい。日本はもう30年も成長をしていないとも聞く。
若者に未来を感じさせない国。それは日本だけとも限らない。
日々ニュースを見ていると、まだこれでもマシなのではないかと思ってしまうほどに。
コンビニのアルバイトだけでは生計を立てるのが苦しく、昼間も週何回か掛け持ちでバイトをしているのだという。
「そんなに働いてばかりいると禿げるよ」
「え? 禿げんの?!」
適当なことを言う戀に頭を押さえる彼。以前は恋人もいたらしいが、会社が倒産した時に別れたという。婚約までしていたが、彼女の幸せを考えたら職のない自分といることは足かせにしかならないと感じたためだという。
以前は近くに住んでいて、幼馴染み。親が再婚したことをきっかけに家は離れたが、大学に入って再会。
「後悔してないの?」
戀は眉を寄せ、彼に問う。
「よく言うでしょ、縁があれば何度でも巡り合うって。自分の人生にその人が必要なら」
今は離れるのが正解だったんだよと彼は言った。
「だから、高坂さんも後悔しないようにね」
それが何を指しているのか、なんとなくだが理解はしたつもりだ。
きっと陽菜のことを言っているのだろうと思った。
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