上 下
33 / 72
6話 亀裂と修正

3 彼からの助言

しおりを挟む
 翌日。夕方になっても陽菜はるなからの連絡はなかった。
 しばしスマホの画面を見つめ、ため息をつく。
 2年前の11月22日に例のコンビニの駐車場にいたという女子高生グループに、どうしても話を聞きたかったれん。例え陽菜の都合がつかずとも就業後は、あのコンビニに行く予定でいた。
 あの日、彼女たちがあの場にいたのは確定事項。
 どんな小さなことでも良いから聞き出したい。もしかしたら陽菜の兄をつけていた人を見たという情報がでるかもしれないし、誰かに声をかけられていたという情報を得られるかも知れない。
 もちろん何も得られない可能性もある。だがそれは、確かめない限りわからないのだ。

 とは言うものの一人で数時間コンビニの駐車場で時間を潰すのは、苦行以外の何ものでもない。どうしたものかと悩んだ末、例のコンビニ店員に助けを求めた。
 すると彼はとりあえずコンビニまで来いという。

「張り込みみたいでドキドキするね」
「いや、別に」
「潜入捜査って言うのかな」
「駐車場に?」
 コンビニに呼ばれた戀は、コンビニ店員の家にいた。
 彼の謎のテンションに戸惑いながらも、先日聞けなかったことを問うてみる。
「姫宮さんは夕方から夜の間にここへ来ていたんですよね」
「僕の家に?」
「え、密会?」
 ”じゃなくて!”と戀が殴るふりをすると、彼が笑いながら”冗談だよ”と返答した。一向に話が進まない。

「姫宮さんが図書館に行っていたのは恐らく午前から夕方の間だと思う」
 時間が合わないという意味合いでそう口にすれば、彼はそんなことかという顔をする。
「これは推測の域を出ないけど。姫宮さんは前日に菓子を購入し、翌日持っていったんじゃないかと思うんだ」
「じゃあ、あの子たちが来るのを予め知っていた……いや、ほとんど毎日行っていたんだっけ」
 今日はなんだか調子が狂いっぱなしだ。
 コンビニ店員の彼は昨日と今日のシフトを変わったということで本日休み。もし例の女子高生グループが来店したら連絡が来る手はずになっていた。
 
 初めて会った時は砕けた様子。
 前回はそこそこ丁寧語。
 今回はフランク。
 彼は毎回話し方が違う。

 そのことを指摘すると。
「そりゃあ、まあお客さんだし?」
 彼から曖昧な返答が返ってくる。よくよく話を聞くと戀と同じ年だと言うので、もう互いにタメ口で良いでしょという結論に落ち着いた。

 学生時代に彼のような友人がいたならきっと楽しかったろうと思う。
 彼もどうやら例の小学生兄弟の父と同じで、感染症や自粛の影響を受け勤め先が倒産したらしい。確か最初の年、5000件倒産したというニュースを目にした。それ以降も旅館関係は倒産し、外国人が買収したなどという情報も目にしたものだ。
 日本は確実に海外からの乗っ取りの危機にさらされている。それでも一般人の自分たちには出来ることはないと言えよう。
 政府が動かなければ、この国を立て直すのは難しい。日本はもう30年も成長をしていないとも聞く。
 若者に未来を感じさせない国。それは日本だけとも限らない。
 日々ニュースを見ていると、まだこれでもマシなのではないかと思ってしまうほどに。

 コンビニのアルバイトだけでは生計を立てるのが苦しく、昼間も週何回か掛け持ちでバイトをしているのだという。
「そんなに働いてばかりいると禿げるよ」
「え? 禿げんの?!」
 適当なことを言う戀に頭を押さえる彼。以前は恋人もいたらしいが、会社が倒産した時に別れたという。婚約までしていたが、彼女の幸せを考えたら職のない自分といることは足かせにしかならないと感じたためだという。
 以前は近くに住んでいて、幼馴染み。親が再婚したことをきっかけに家は離れたが、大学に入って再会。
「後悔してないの?」
 戀は眉を寄せ、彼に問う。

「よく言うでしょ、縁があれば何度でも巡り合うって。自分の人生にその人が必要なら」
 今は離れるのが正解だったんだよと彼は言った。
「だから、高坂さんも後悔しないようにね」
 それが何を指しているのか、なんとなくだが理解はしたつもりだ。
 きっと陽菜のことを言っているのだろうと思った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】少女探偵・小林声と13の物理トリック

暗闇坂九死郞
ミステリー
私立探偵の鏑木俊はある事件をきっかけに、小学生男児のような外見の女子高生・小林声を助手に迎える。二人が遭遇する13の謎とトリック。 鏑木 俊 【かぶらき しゅん】……殺人事件が嫌いな私立探偵。 小林 声 【こばやし こえ】……探偵助手にして名探偵の少女。事件解決の為なら手段は選ばない。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

美少女幼馴染が火照って喘いでいる

サドラ
恋愛
高校生の主人公。ある日、風でも引いてそうな幼馴染の姿を見るがその後、彼女の家から変な喘ぎ声が聞こえてくるー

R18【同性恋愛】リーマン物語if7『look at me』

crazy’s7@体調不良不定期更新中
BL
【あらすじ】   株原本社の営業部に勤める【黒岩 櫂】は人生で初めての恋をしていた。そのお相手は同僚の【唯野 修二】。ある飲み会の日、我知らず会長の策略を阻止したことをきっかけに、唯野と仲が良くなっていく。  とは言え、黒岩は以前は『誘われたら誰とでも寝る』ような倫理道徳観の崩壊した男だった。もちろん唯野の周知も事実。  一方唯野はある噂を聞いてから黒岩のことが気になり始め……。 *通常ルートの場合、唯野は入社一年目にてある人物に嵌められ婚姻を決意するがそれを回避した場合のifルート。

日常探偵団

髙橋朔也
ミステリー
 八坂中学校に伝わる七不思議。その七番目を解決したことをきっかけに、七不思議全ての解明に躍動することになった文芸部の三人。人体爆発や事故が多発、ポルターガイスト現象が起こったり、唐突に窓が割れ、プールの水がどこからか漏れる。そんな七不思議の発生する要因には八坂中学校の秘密が隠されていた。文芸部部員の新島真は嫌々ながらも、日々解決を手伝う。そんな彼の出自には、驚愕の理由があった。  ※本作の続編も連載中です。  一話一話は短く(2000字程度。多くて3000字)、読みやすくなっています。  ※この作品は小説家になろう、エブリスタでも掲載しています。

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

甘い失恋

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
私は今日、2年間務めた派遣先の会社の契約を終えた。 重い荷物を抱えエレベーターを待っていたら、上司の梅原課長が持ってくれた。 ふたりっきりのエレベター、彼の後ろ姿を見ながらふと思う。 ああ、私は――。

壁の薄いアパートで、隣の部屋から喘ぎ声がする

サドラ
恋愛
最近付き合い始めた彼女とアパートにいる主人公。しかし、隣の部屋からの喘ぎ声が壁が薄いせいで聞こえてくる。そのせいで欲情が刺激された両者はー

処理中です...