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4話 新たな情報
4 過去の傷跡
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「僕、実は作家を目指していてさ」
聞くところによると彼は仕事をしながらwebで小説を書いているらしい。
しかし彼の書くものはどちらかというとwebには向いておらず、諦めようかと思っていた最中に彼女の作品に出逢ったと言う。
「web小説にも流行というものがあるじゃない? 某サイト発の異世界転生や悪役令嬢ものとか」
有名なアニメのジャンルは現代ファンタジーが多いイメージ。だが昨今では異世界転生ものもアニメ化され始めた印象を持つ。そしてドラマはどちらかというと現代を舞台にした恋愛ものや事件もの。
いくら得意分野に特化していたとしても、求められているものを書けなければ土俵にあがるのは困難なのが現状なのだろうか。
一般スタイルでハイファンタジーを書いていた彼は、webという場所に諦めを感じていたようだ。webで求められているのはライトノベルなことが多いから。
「でも彼女はハイファンタジーで賞を取ったんだ。僕に希望を与えてくれた人なんだよ」
長いタイトルが流行っている中、シンプルなタイトルで。その上コミカライズもされた。そして、その作品はライトな作風でもなかったのに。
「それから彼女はずっと僕の推し」
彼と同じ方向性で頑張ってきた人たちはきっと、彼女が賞を取ったごとで勇気づけられたに違いない。彼のキラキラした瞳を見てそんなことを思う。
日本の推し文化。どんな経緯で『推し』となるのかは当然ながら、人それぞれ。たが、推しがいることで活力を得られる人々がいることは分かっているし、素敵な文化だと感じてもいる。
そして、推しの誕生日を祝うのも推し活の中の一つだということくらいは、戀《れん》も知っていた。
『彼女ってやっぱり、このイラストみたいな雰囲気なのかな』と陽菜《ひな》に話かける彼。
戀は、『全然違う』と言うこともできずに彼女の誕生日を思い出そうとした。
「あ、つい自分の推し活の話に夢中になっちゃったよ。そうそう、姫宮さんに遭遇したのは11月22日の夜」
彼の言葉を聞いた戀は顔を上げ、ゆっくりとそちらを見やる。決して思い出せなかったことが悔しかったからではない。
「彼女の誕生日だから覚えているんだ」
彼の言葉に、戀は複雑な心境で立ち尽くす。日付が分かったのは良いが、それだけではまだ情報が足りない。
「でも姫宮さんのことを覚えているのは、そのせいというわけじゃないんだ」
長い前置きを聞いただけのことはあったと思わせる証言が彼の口から飛び出したのは、次の瞬間であった。
「あの日、姫宮さんはコンビニに来た時したたかに酔っていた。入り口でぶつかりそうになって謝られたから」
「呑んでからここに来たということ?」
「そうみたい。なのにお酒をたくさん買っていったんだ」
それから更に呑んだということだろうか。
「何があったのか分からないけれど、千鳥足でね。彼がコンビニから出ていく時、店員さんも心配そうに外に出て姫宮さんを見送ってた」
その時、その店員と『危ないね』と顔を見合せたという。
11月22日。
きっと陽菜の兄には吞みたくなる理由が存在した。大量に呑んだのはやけ酒か、それとも祝い酒なのか。それが運命の分かれ道かも知れないと思った。
どんな理由があったにせよ、非常に危ない状況で彼は帰宅したのである。
もしかしたらその帰り道で拉致された可能性も。
「そのコンビニってどこにあるんです?」
戀はコンビニの場所を知って置く方が良いと思われた。
もし拉致されたとしたら、その道を利用する住民の誰かが目撃している可能性もでてくる。そしてコンビニの店員に確認すれば失踪した日が分かるかもしれない。
「案内するよ。すぐそこだから」
彼は言うが早いか、目的地に向かって歩き出す。
戀と陽菜は慌て彼の後を追ったのだった。
聞くところによると彼は仕事をしながらwebで小説を書いているらしい。
しかし彼の書くものはどちらかというとwebには向いておらず、諦めようかと思っていた最中に彼女の作品に出逢ったと言う。
「web小説にも流行というものがあるじゃない? 某サイト発の異世界転生や悪役令嬢ものとか」
有名なアニメのジャンルは現代ファンタジーが多いイメージ。だが昨今では異世界転生ものもアニメ化され始めた印象を持つ。そしてドラマはどちらかというと現代を舞台にした恋愛ものや事件もの。
いくら得意分野に特化していたとしても、求められているものを書けなければ土俵にあがるのは困難なのが現状なのだろうか。
一般スタイルでハイファンタジーを書いていた彼は、webという場所に諦めを感じていたようだ。webで求められているのはライトノベルなことが多いから。
「でも彼女はハイファンタジーで賞を取ったんだ。僕に希望を与えてくれた人なんだよ」
長いタイトルが流行っている中、シンプルなタイトルで。その上コミカライズもされた。そして、その作品はライトな作風でもなかったのに。
「それから彼女はずっと僕の推し」
彼と同じ方向性で頑張ってきた人たちはきっと、彼女が賞を取ったごとで勇気づけられたに違いない。彼のキラキラした瞳を見てそんなことを思う。
日本の推し文化。どんな経緯で『推し』となるのかは当然ながら、人それぞれ。たが、推しがいることで活力を得られる人々がいることは分かっているし、素敵な文化だと感じてもいる。
そして、推しの誕生日を祝うのも推し活の中の一つだということくらいは、戀《れん》も知っていた。
『彼女ってやっぱり、このイラストみたいな雰囲気なのかな』と陽菜《ひな》に話かける彼。
戀は、『全然違う』と言うこともできずに彼女の誕生日を思い出そうとした。
「あ、つい自分の推し活の話に夢中になっちゃったよ。そうそう、姫宮さんに遭遇したのは11月22日の夜」
彼の言葉を聞いた戀は顔を上げ、ゆっくりとそちらを見やる。決して思い出せなかったことが悔しかったからではない。
「彼女の誕生日だから覚えているんだ」
彼の言葉に、戀は複雑な心境で立ち尽くす。日付が分かったのは良いが、それだけではまだ情報が足りない。
「でも姫宮さんのことを覚えているのは、そのせいというわけじゃないんだ」
長い前置きを聞いただけのことはあったと思わせる証言が彼の口から飛び出したのは、次の瞬間であった。
「あの日、姫宮さんはコンビニに来た時したたかに酔っていた。入り口でぶつかりそうになって謝られたから」
「呑んでからここに来たということ?」
「そうみたい。なのにお酒をたくさん買っていったんだ」
それから更に呑んだということだろうか。
「何があったのか分からないけれど、千鳥足でね。彼がコンビニから出ていく時、店員さんも心配そうに外に出て姫宮さんを見送ってた」
その時、その店員と『危ないね』と顔を見合せたという。
11月22日。
きっと陽菜の兄には吞みたくなる理由が存在した。大量に呑んだのはやけ酒か、それとも祝い酒なのか。それが運命の分かれ道かも知れないと思った。
どんな理由があったにせよ、非常に危ない状況で彼は帰宅したのである。
もしかしたらその帰り道で拉致された可能性も。
「そのコンビニってどこにあるんです?」
戀はコンビニの場所を知って置く方が良いと思われた。
もし拉致されたとしたら、その道を利用する住民の誰かが目撃している可能性もでてくる。そしてコンビニの店員に確認すれば失踪した日が分かるかもしれない。
「案内するよ。すぐそこだから」
彼は言うが早いか、目的地に向かって歩き出す。
戀と陽菜は慌て彼の後を追ったのだった。
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