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3章──取り戻したいもの
3 噂の真相と和馬の本心
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****♡Side・岸倉 爽一(教師)
「確かに花穂には恋人がいた。俺もその候補にあげられたことはあるから。断ったが、な」
今、自分はこの件に関してどちらの味方でもないと思う。
爽一は和馬に対し、冷静に事実を伝えようと思った。
「候補?」
「彼女が恋人を作るのは恋愛したいからじゃない。自衛のためだ」
無論、自分も花穂から真実を聞くまで知らなかった事実だ。彼女は社長令嬢。利用しようと近づいてくる者は多かったに違いない。
男とはそんなに恋愛に重きを置いていない。むしろ自分に利になるかどうかで他人との付き合い決める場合もあるだろう。それは女性とて同じ場合もある。
「ただ、利害の一致とは言えなかったのかもしれないな。向こうにしてみれば、将来が安泰と言う意味合いを持って恋人関係になったかもしれないし」
花穂がつき合う時に出す条件は一つ。
『身体の関係にならないこと。求められたら即別れる』
これだった。もし知っていたなら、偽りの恋人関係にくらいなっても良かったと思ったくらいだ。
「だから、その噂は当たっているが中身は違う」
そんな彼女にはたった一人本気の相手がいた。
それが”白石奏斗”である。
「花穂は、和馬にはもう何もしないということを約束し、その条件として”期間限定でおつき合いをする”という要求を白石にした」
奏斗にとってそれは辛い条件だったはず。しかし和馬に好意を持っていた彼は、あっさりその条件を呑んだのだ。
「俺がきっかけを作ったということなの?」
「そこはなんとも言えないな。花穂は両親が再婚する前から白石のことは知っていたみたいだし」
「奏斗は、K学園では有名人だしね」
「そうだな」
渡りに船だったのかもしれないとは思う。
「だからって、許されることではないと思うが」
すると爽一の言葉に和馬は意外な反応を見せる。
「いいんだよ、俺だって似たようなことしたし」
和馬はある時期を境にあまり笑わなくなった。それは奏斗と会わなくなったからだと思っていた。
だがそうではなく、別れ方に問題があったのだ。それは先日話してもらった内容からも理解できる。話して楽になったかと思ったがそうではなかった。
彼にはまだ話してないことがあるに違いない。
そのことが和馬の心を蝕んでいる。できれば解放してやりたい。そう思う。
「今度は俺が話す番だね」
和馬が何を抱え苦しんでいるのか。正直、分かっていないと思う。
彼らが高校生だった頃に比べたら、自分も少しは成長したと思いたい。はじまりは自分が『大崎圭一』に想いを寄せていたことに気づかれたからではあったが、今は心から和馬を愛していると言えた。
──まあ、いい男をついつい目で追ってしまうのは癖ってやつだな。
「俺は、奏斗が羨ましかった。それが全てのはじまりだと思う」
和馬はゆっくりと自分のしたことの全て。そしてその時の想いを話してくれた。彼が罪悪感にかられ、同棲をはじめてもあまり元気がなかったのだということを理解する。
「ごめんな、和馬」
だが元はと言えば悪いのは自分のほうなのだ。
煩悩に支配され、和馬にあんなことをしてしまっていたのだから。ちゃんと想いを伝えることなく『わかるだろう』と高を括って行動していた。
彼に自分の好意が全く伝わっていなかったとも知らずに。
「白石にしてしまったことは、白石に謝るしかない。でも、俺は大丈夫だから」
不安げにこちらを見つめる和馬をぎゅっと抱きしめる。
教師でありながら、人の道を踏み外した。恥ずべきなのは自分。
「一人で辛いこと抱えさせてごめんな」
”何を知っても気持ちは変わらない”と告げれば、『本当に?』と涙声で聞かれる。
「当たり前だろ」
人を愛することには覚悟が必要だ。
人には誰しもいろんな面がある。その全てを知ってもなお、好きでいる覚悟。良い面だけを見て好きと言うのは、何も見えていないのと同等。それは自己愛であって愛ではない。
「せんせ。好きだよ」
「いい加減、名前で呼んで欲しいものだな」
ちゅっと口づけて、ふふっと笑う彼。
──こりゃ、当分は呼んでもらえそうにないな。
「確かに花穂には恋人がいた。俺もその候補にあげられたことはあるから。断ったが、な」
今、自分はこの件に関してどちらの味方でもないと思う。
爽一は和馬に対し、冷静に事実を伝えようと思った。
「候補?」
「彼女が恋人を作るのは恋愛したいからじゃない。自衛のためだ」
無論、自分も花穂から真実を聞くまで知らなかった事実だ。彼女は社長令嬢。利用しようと近づいてくる者は多かったに違いない。
男とはそんなに恋愛に重きを置いていない。むしろ自分に利になるかどうかで他人との付き合い決める場合もあるだろう。それは女性とて同じ場合もある。
「ただ、利害の一致とは言えなかったのかもしれないな。向こうにしてみれば、将来が安泰と言う意味合いを持って恋人関係になったかもしれないし」
花穂がつき合う時に出す条件は一つ。
『身体の関係にならないこと。求められたら即別れる』
これだった。もし知っていたなら、偽りの恋人関係にくらいなっても良かったと思ったくらいだ。
「だから、その噂は当たっているが中身は違う」
そんな彼女にはたった一人本気の相手がいた。
それが”白石奏斗”である。
「花穂は、和馬にはもう何もしないということを約束し、その条件として”期間限定でおつき合いをする”という要求を白石にした」
奏斗にとってそれは辛い条件だったはず。しかし和馬に好意を持っていた彼は、あっさりその条件を呑んだのだ。
「俺がきっかけを作ったということなの?」
「そこはなんとも言えないな。花穂は両親が再婚する前から白石のことは知っていたみたいだし」
「奏斗は、K学園では有名人だしね」
「そうだな」
渡りに船だったのかもしれないとは思う。
「だからって、許されることではないと思うが」
すると爽一の言葉に和馬は意外な反応を見せる。
「いいんだよ、俺だって似たようなことしたし」
和馬はある時期を境にあまり笑わなくなった。それは奏斗と会わなくなったからだと思っていた。
だがそうではなく、別れ方に問題があったのだ。それは先日話してもらった内容からも理解できる。話して楽になったかと思ったがそうではなかった。
彼にはまだ話してないことがあるに違いない。
そのことが和馬の心を蝕んでいる。できれば解放してやりたい。そう思う。
「今度は俺が話す番だね」
和馬が何を抱え苦しんでいるのか。正直、分かっていないと思う。
彼らが高校生だった頃に比べたら、自分も少しは成長したと思いたい。はじまりは自分が『大崎圭一』に想いを寄せていたことに気づかれたからではあったが、今は心から和馬を愛していると言えた。
──まあ、いい男をついつい目で追ってしまうのは癖ってやつだな。
「俺は、奏斗が羨ましかった。それが全てのはじまりだと思う」
和馬はゆっくりと自分のしたことの全て。そしてその時の想いを話してくれた。彼が罪悪感にかられ、同棲をはじめてもあまり元気がなかったのだということを理解する。
「ごめんな、和馬」
だが元はと言えば悪いのは自分のほうなのだ。
煩悩に支配され、和馬にあんなことをしてしまっていたのだから。ちゃんと想いを伝えることなく『わかるだろう』と高を括って行動していた。
彼に自分の好意が全く伝わっていなかったとも知らずに。
「白石にしてしまったことは、白石に謝るしかない。でも、俺は大丈夫だから」
不安げにこちらを見つめる和馬をぎゅっと抱きしめる。
教師でありながら、人の道を踏み外した。恥ずべきなのは自分。
「一人で辛いこと抱えさせてごめんな」
”何を知っても気持ちは変わらない”と告げれば、『本当に?』と涙声で聞かれる。
「当たり前だろ」
人を愛することには覚悟が必要だ。
人には誰しもいろんな面がある。その全てを知ってもなお、好きでいる覚悟。良い面だけを見て好きと言うのは、何も見えていないのと同等。それは自己愛であって愛ではない。
「せんせ。好きだよ」
「いい加減、名前で呼んで欲しいものだな」
ちゅっと口づけて、ふふっと笑う彼。
──こりゃ、当分は呼んでもらえそうにないな。
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