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2章──変化していく関係
12 涙の図書館
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****♡Side・楠 和馬
後悔しなかったことはない。
けれど、何度時をやり直そうとも同じことを繰り返してしまうのだろうなと感じていた。
和馬はメッセージアプリの画面を眺め、ため息をつく。こちらからメッセージを送信しないのは彼を追い詰めたくないから。
最後のメッセージを受信したのは一年くらい前。大学に入学してから、噂を聞くことはあっても本人に出くわすことはなかった。
──相変わらず有名人だよね、奏斗は。
恋人である岸倉爽一を待つ間、K学園大学部の構内をぶらりとしてみる。
あの時間違った選択をしなければ、彼は今でも自分の横にいたのだろうか?
恋人でなかったとしても。
そんなことを思っても、時間は元には戻らない。変えることができるのは未来だけ。
──俺は、義姉さんに奏斗を渡したくなかった。
取られたくなかったんだ。
あんな方法が間違っていることは百も承知。
だが、離れてよかったと思っている自分もいる。
あの時はっきりと自覚したのだ、いづれは奏斗に自分自身の欲望をぶつけてしまうだろうことを。
「和馬」
呼ばれて振り返れば、待ち人がいた。いつもはスーツ姿だが、今日は私服。
「ここで良かったの? 待ち合わせ」
こことはK学園大学部の構内のことである。基本的には関係者以外立ち入りを禁じられてはいるが、彼はK学園高等部の教師。K学園の関係者ということで立ち入りを許可されていた。
「ああ。ここの図書館に用があってね」
「そうなんだ」
大学部には大きな図書館がある。その為、夏休みなどの長期休みに入ると中等部や高等部の学生が出入りすることもあった。
「先日借りた書籍を返しにさ」
「へえ」
和馬は歩き出した爽一に倣って踵を返す。
「そう言えば、冬季休みの事考えてくれた?」
「ああ、うん」
言われて、爽一から冬季休みは旅行へ行こうと言われていたことを思い出す和馬。
いまいち乗り気で話せないのは、旅行が嫌なわけでもなければ爽一といるのが楽しくないわけでもない。単に奏斗のことが気になっているからだ。
こんな時、場の雰囲気に合わせて笑顔で居られたならどんなに良いかと思う。しかし自分はそんなに器用ではない。残念なことに。
図書館にたどり着くと爽一は書籍を返却して次の書籍を借りると言う。
『そんなに時間はかからないがどうする?』
と問われ、和馬は入り口付近のソファーに腰けて待っているという選択をした。
恐らく気を遣ってくれたに違いない。爽一は和馬に完璧など求めていない。それは高等部を卒業し、一緒に暮らしはじめて理解した。
ソファーに深く腰掛けバッグを膝の上に置くとぼんやりと図書館の中に視線を向ける。奏斗の噂は何度か耳にしたことがあった。どうやら面倒ごとに巻き込まれているように感じるが、それはあの頃もきっと変わらなかったと思う。
──俺が奏斗を巻き込んだんだ。
奏斗を知ったばかりの頃、和馬は”こんな世渡り下手な男が何でモテるんだ?”と言う感想を持ったことがあった。
だが一緒にいるうちに彼の良さを知る。
今更後悔しても遅い。もっとちゃんと向き合っていればよかったと思った。恋愛とは一対一でするものだと思っている。それは今でも変わらない。
恋愛経験もない癖に、彼を嵌めようとした自分。あの頃の自分は、居場所が欲しかったのだと思う。誰かに愛されたかった。
──なんでアイツばかりって思っていた。
俺と何が違うんだよ、お前だってこっち側の人間の癖にって。
勝手に僻んで意地悪して。気づいたら好きになってた。自分は爽一のことが好きなはずのに。ホントは二股なんて望んでなかった。
今の奏斗のことを思う。きっと彼だってそうなのだろうと。
もう一度会ってちゃんと話がしたいと思う。けれどもその行動はきっと奏斗を追い詰める。わかっているから何もできない。動けない。
「あの……」
声をかけられて見上げれば一人の女子学生が立っていた。和馬の方にハンカチを差し出しながら。そこで初めて和馬は自分が泣いていたことに気づいたのだった。
後悔しなかったことはない。
けれど、何度時をやり直そうとも同じことを繰り返してしまうのだろうなと感じていた。
和馬はメッセージアプリの画面を眺め、ため息をつく。こちらからメッセージを送信しないのは彼を追い詰めたくないから。
最後のメッセージを受信したのは一年くらい前。大学に入学してから、噂を聞くことはあっても本人に出くわすことはなかった。
──相変わらず有名人だよね、奏斗は。
恋人である岸倉爽一を待つ間、K学園大学部の構内をぶらりとしてみる。
あの時間違った選択をしなければ、彼は今でも自分の横にいたのだろうか?
恋人でなかったとしても。
そんなことを思っても、時間は元には戻らない。変えることができるのは未来だけ。
──俺は、義姉さんに奏斗を渡したくなかった。
取られたくなかったんだ。
あんな方法が間違っていることは百も承知。
だが、離れてよかったと思っている自分もいる。
あの時はっきりと自覚したのだ、いづれは奏斗に自分自身の欲望をぶつけてしまうだろうことを。
「和馬」
呼ばれて振り返れば、待ち人がいた。いつもはスーツ姿だが、今日は私服。
「ここで良かったの? 待ち合わせ」
こことはK学園大学部の構内のことである。基本的には関係者以外立ち入りを禁じられてはいるが、彼はK学園高等部の教師。K学園の関係者ということで立ち入りを許可されていた。
「ああ。ここの図書館に用があってね」
「そうなんだ」
大学部には大きな図書館がある。その為、夏休みなどの長期休みに入ると中等部や高等部の学生が出入りすることもあった。
「先日借りた書籍を返しにさ」
「へえ」
和馬は歩き出した爽一に倣って踵を返す。
「そう言えば、冬季休みの事考えてくれた?」
「ああ、うん」
言われて、爽一から冬季休みは旅行へ行こうと言われていたことを思い出す和馬。
いまいち乗り気で話せないのは、旅行が嫌なわけでもなければ爽一といるのが楽しくないわけでもない。単に奏斗のことが気になっているからだ。
こんな時、場の雰囲気に合わせて笑顔で居られたならどんなに良いかと思う。しかし自分はそんなに器用ではない。残念なことに。
図書館にたどり着くと爽一は書籍を返却して次の書籍を借りると言う。
『そんなに時間はかからないがどうする?』
と問われ、和馬は入り口付近のソファーに腰けて待っているという選択をした。
恐らく気を遣ってくれたに違いない。爽一は和馬に完璧など求めていない。それは高等部を卒業し、一緒に暮らしはじめて理解した。
ソファーに深く腰掛けバッグを膝の上に置くとぼんやりと図書館の中に視線を向ける。奏斗の噂は何度か耳にしたことがあった。どうやら面倒ごとに巻き込まれているように感じるが、それはあの頃もきっと変わらなかったと思う。
──俺が奏斗を巻き込んだんだ。
奏斗を知ったばかりの頃、和馬は”こんな世渡り下手な男が何でモテるんだ?”と言う感想を持ったことがあった。
だが一緒にいるうちに彼の良さを知る。
今更後悔しても遅い。もっとちゃんと向き合っていればよかったと思った。恋愛とは一対一でするものだと思っている。それは今でも変わらない。
恋愛経験もない癖に、彼を嵌めようとした自分。あの頃の自分は、居場所が欲しかったのだと思う。誰かに愛されたかった。
──なんでアイツばかりって思っていた。
俺と何が違うんだよ、お前だってこっち側の人間の癖にって。
勝手に僻んで意地悪して。気づいたら好きになってた。自分は爽一のことが好きなはずのに。ホントは二股なんて望んでなかった。
今の奏斗のことを思う。きっと彼だってそうなのだろうと。
もう一度会ってちゃんと話がしたいと思う。けれどもその行動はきっと奏斗を追い詰める。わかっているから何もできない。動けない。
「あの……」
声をかけられて見上げれば一人の女子学生が立っていた。和馬の方にハンカチを差し出しながら。そこで初めて和馬は自分が泣いていたことに気づいたのだった。
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