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2章──変化していく関係
9 すれ違う二人とお節介な自分
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****♡Side・岸倉 爽一(教師)
「珍しく、お節介しているの」
「そういうわけでもないけど」
岸倉爽一は土曜の午後、楠花穂と喫茶店にいた。
「それに珍しいことでもないだろ」
思い当たることがあったのか、
「そうね」
と彼女。
「お節介を妬きたくなるお前らが悪いという統計もある」
「いつ取ったの、そんな統計」
アイスティーのストローに口をつけようとしていた彼女がむせる。
「冗談だ」
「いつからそんな愉快な人になったのよ。いや……以前からあなたは愉快だったわ」
失礼な奴だなと思いつつメニューに目を通す爽一。
「ケーキでも食うか?」
「何よ、わたしを太らせようってわけ」
「え?」
顔を上げ、花穂を眺める。
非の打ち所がないすっきりとしたボディに”何言ってんだこの女”と眉を潜めれば、
「冗談よ」
と彼女。
「そっちも十分、愉快な奴になったと思うよ」
「あら、ありがとう」
「褒めてない」
”そうなの”と言いながらメニューを覗き込む花穂は、なんら気にしていなさそうだ。
「朝ご飯まだなのよね」
「悪かったな、早くから呼び出して」
「そんなこと言ってないわ。モーニングを頼んでも?」
嫌味に取ってしまうのは性格だ。いや、彼女との関係がそうさせるのかもしれない。
「ああ、もちろん」
彼女が手を上げ店員を呼ぶ。
花穂は美人だと思う。恋愛対象外だが。
「あなたも召し上がる?」
「ああ」
「じゃあ、二セットお願いするわ」
互いに店内で名前を呼ばないのは用心のためでもある。
のんびりとしたR&Bが流れる店内。K学生御用達の場所だ。高等部から離れているとはいえ、卒業生が多くK学園大学部へ通っている。こんなところで出くわしては面倒だ。
もっとも、そんな面倒な場所を選んでしまう自分にも問題があるとは思うが。
「義弟は元気にしてる?」
こちらに用があって呼び出したことは彼女も分かっているだろう。
「構内で会わないのか?」
「学部が違うとなかなか会わないものよ。サークルでも同じでない限り」
「そういうものか」
自分が学生だった時のことを思い出そうとするが、これといって会いたい相手もいなかった為ピンとこなかった。
「先日、白石奏斗と話したよ」
「え?」
”奏斗”という言葉にびくりと肩を揺らす彼女。
自分は女性に恋心を抱くことはないが、恋愛とは男女間だろうが同性間だろうが基本は変わらないと思う。
花穂が奏斗を好きなのは言わなくても分かる。
”あっさり別れたみたいだけれど、それで良かったのか?”
そう問おうとして一旦口を噤む。言い方を間違えては拗れそうな気がする。
とは言え、こんな結末になるのは想定外だった。奏斗が花穂に連絡をすると言っていた時点では。
ライバルがいなくなったと手放しで喜べないのは、三人の関係がおかしくなったから。三人の間に何があったのかはわからない。
少なくとも以前は和馬と奏斗が連絡を絶つようなことはなかったはずだ。どう考えてもその要因が花穂にあるように思えてならない。
「なんで別れたの」
二人が期間限定で付き合っていたことは知っている。だからこの質問は愚問だと言われてしまっても仕方ない。
「期限付きの恋人だったのはあなたも知っているじゃない」
案の定、想定内の返答。だが聞きたいのはそんな返事ではなかった。
「本当にそれでよかったわけ?」
爽一の質問に対し、彼女の瞳はどうしてそんなことを問うんだと言っているように見える。
だったら言い方を変えるだけだ。
「そんな風に白石を突き放していいのか?」
他人の色事に首を突っ込むのは愚かな行為。
ましてや求められているわけでもないのにこんなことをするのは有難迷惑に違いない。
──それでも、白石には幸せになって欲しいと思ってしまう。
だが彼女は、この時点では明確な答えを持ち合わせていなかった。恋愛とはどうしてこんなにも面倒なのだろうか。
花穂と別れ店を出た時、ちょうど和馬からの着信を受けた爽一は思わず振り返ったのだった。
「珍しく、お節介しているの」
「そういうわけでもないけど」
岸倉爽一は土曜の午後、楠花穂と喫茶店にいた。
「それに珍しいことでもないだろ」
思い当たることがあったのか、
「そうね」
と彼女。
「お節介を妬きたくなるお前らが悪いという統計もある」
「いつ取ったの、そんな統計」
アイスティーのストローに口をつけようとしていた彼女がむせる。
「冗談だ」
「いつからそんな愉快な人になったのよ。いや……以前からあなたは愉快だったわ」
失礼な奴だなと思いつつメニューに目を通す爽一。
「ケーキでも食うか?」
「何よ、わたしを太らせようってわけ」
「え?」
顔を上げ、花穂を眺める。
非の打ち所がないすっきりとしたボディに”何言ってんだこの女”と眉を潜めれば、
「冗談よ」
と彼女。
「そっちも十分、愉快な奴になったと思うよ」
「あら、ありがとう」
「褒めてない」
”そうなの”と言いながらメニューを覗き込む花穂は、なんら気にしていなさそうだ。
「朝ご飯まだなのよね」
「悪かったな、早くから呼び出して」
「そんなこと言ってないわ。モーニングを頼んでも?」
嫌味に取ってしまうのは性格だ。いや、彼女との関係がそうさせるのかもしれない。
「ああ、もちろん」
彼女が手を上げ店員を呼ぶ。
花穂は美人だと思う。恋愛対象外だが。
「あなたも召し上がる?」
「ああ」
「じゃあ、二セットお願いするわ」
互いに店内で名前を呼ばないのは用心のためでもある。
のんびりとしたR&Bが流れる店内。K学生御用達の場所だ。高等部から離れているとはいえ、卒業生が多くK学園大学部へ通っている。こんなところで出くわしては面倒だ。
もっとも、そんな面倒な場所を選んでしまう自分にも問題があるとは思うが。
「義弟は元気にしてる?」
こちらに用があって呼び出したことは彼女も分かっているだろう。
「構内で会わないのか?」
「学部が違うとなかなか会わないものよ。サークルでも同じでない限り」
「そういうものか」
自分が学生だった時のことを思い出そうとするが、これといって会いたい相手もいなかった為ピンとこなかった。
「先日、白石奏斗と話したよ」
「え?」
”奏斗”という言葉にびくりと肩を揺らす彼女。
自分は女性に恋心を抱くことはないが、恋愛とは男女間だろうが同性間だろうが基本は変わらないと思う。
花穂が奏斗を好きなのは言わなくても分かる。
”あっさり別れたみたいだけれど、それで良かったのか?”
そう問おうとして一旦口を噤む。言い方を間違えては拗れそうな気がする。
とは言え、こんな結末になるのは想定外だった。奏斗が花穂に連絡をすると言っていた時点では。
ライバルがいなくなったと手放しで喜べないのは、三人の関係がおかしくなったから。三人の間に何があったのかはわからない。
少なくとも以前は和馬と奏斗が連絡を絶つようなことはなかったはずだ。どう考えてもその要因が花穂にあるように思えてならない。
「なんで別れたの」
二人が期間限定で付き合っていたことは知っている。だからこの質問は愚問だと言われてしまっても仕方ない。
「期限付きの恋人だったのはあなたも知っているじゃない」
案の定、想定内の返答。だが聞きたいのはそんな返事ではなかった。
「本当にそれでよかったわけ?」
爽一の質問に対し、彼女の瞳はどうしてそんなことを問うんだと言っているように見える。
だったら言い方を変えるだけだ。
「そんな風に白石を突き放していいのか?」
他人の色事に首を突っ込むのは愚かな行為。
ましてや求められているわけでもないのにこんなことをするのは有難迷惑に違いない。
──それでも、白石には幸せになって欲しいと思ってしまう。
だが彼女は、この時点では明確な答えを持ち合わせていなかった。恋愛とはどうしてこんなにも面倒なのだろうか。
花穂と別れ店を出た時、ちょうど和馬からの着信を受けた爽一は思わず振り返ったのだった。
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