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2章──変化していく関係
4 奏斗の価値観
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****♡Side・白石 奏斗
「奏斗、大丈夫?」
着衣を整えるのを待って和馬の義姉、花穂が振り返る。
「大丈夫とは何に対して」
我ながら冷たい声音になってしまったなと思いながらもその質問が形式的なものなのか、それとも心からの心配なのか気になっていた。
「ごめんなさい。大丈夫なんかじゃないわよね、送るわ」
彼女は立ち上がると廊下に出る。
深く踏み込まない花穂。何故そのことにいら立ちを感じてしまうのか、わからない自分自身がいる。
──何が気に入らないのかわからない。
助けてくれなかったことなのか。
それとも、あんなところを見られてしまった羞恥によるものなのか。
荷物を持って立ち上がると和馬の部屋を出た。
花穂は自室からバッグを持って出たところだった。黙って先に階段を下りていく彼女。奏斗はゆっくりとそれに続く。
どうしてこうなったのかも聞かないのだなと思った。いや、もしかしたら知っていたのかもしれない。
車を表に回すと言って先に玄関を出た花穂。車の音がしてから受け取った鍵で家の施錠をし、表に出る。
奏斗が助手席に乗り込むと花穂はハンドルに突っ伏していた。
「どうかした?」
「ごめんなさいね」
「何が?」
大きなため息をつく彼女に問えば、
「岸倉から頼まれていたの。和馬の行動に注意するようにって」
そこで彼女があのタイミングで部屋に来た理由を察する。
「どうしていいか、わからなかったの」
「いいよ。余計なことして花穂が怪我しても困るし」
和馬だって男だ。女性の力で敵うわけがない。
コントではないのだ、その辺のもので殴ったところで都合よく気絶することもないだろう。
「あなたって、ほんと……」
顔を上げた彼女は切なげに奏斗を見つめる。
「ん?」
「なんでもないわ」
彼女はチラリと奏斗の方を確認するとアクセルを踏み込んだ。
奏斗はカーナビに手を伸ばし、音楽の再生に触れる。
「花穂ってこういうの好きなんだな」
後にジャンルを知るが、花穂はメタルロックを好んで聴いていた。
「何よ、女の好みじゃないとか言うわけ?」
「いや。俺も好きだよ、こういうの」
奏斗の言葉に黙る彼女。不思議そうにそちらに目を向けるとほんのり顔を赤らめている。
「そういうこと言う人今までにいなかったわ」
「そうなんだ」
「偏見には方向性があると思うの」
日本という国は特に意識的なジェンダーに対する偏見が多いと彼女は言う。
男はカッコイイものが好き、女は可愛いものが好きというもの。
その理論で言うなら、男性が可愛い女性を好きになるというのに違和感を覚える。しかしそれがまかり通り、ジェンダーが複雑化しているという。
「奏斗は自認について考えたりする?」
自認性別というのは肉体に対してどっちなのかを考えるものである。それは非常にシンプルなもの。
しかしこの偏見と押し付けのせいで本来ならそこまで深く自認について考える必要がないものも自認について考えさせられるという現象が起きている。
この性別的偏見がなければ、何を好もうが個性で片付けられるだろう。しかし、精神的性別違和に関しては本来の意味でのトランスは失われつつある。
「俺はないかな」
「わたしはあるの。わたしが好むものは”一般的に男が好む”とされているものだから」
”男が好む”ものを女性が好んでも問題はないはずだ。しかし、他人の偏見や押し付けによって『自分の精神は女ではないのでは?』と思う者が多いのが現実。
何を好もうがジェンダーには関係ない。
性的なタチやネコだって男だからタチ、女だからネコとは限らない。どっちになるかはその人の性格や思想、性的趣向によるもの。そこにジェンダーは関係ない。
「別にいいんじゃないか? 誰が何を好もうと」
奏斗の言葉に驚いた表情をする花穂。
「誰が何を好もうがその人の自由だし、自分には関係ないだろ? 日本人は他人のことにとやかく言いすぎなんだと思う」
「そうね……」
いつの間にか車は目的地に着いていたが、明らかにそこは奏斗の自宅ではなかった。
「奏斗、大丈夫?」
着衣を整えるのを待って和馬の義姉、花穂が振り返る。
「大丈夫とは何に対して」
我ながら冷たい声音になってしまったなと思いながらもその質問が形式的なものなのか、それとも心からの心配なのか気になっていた。
「ごめんなさい。大丈夫なんかじゃないわよね、送るわ」
彼女は立ち上がると廊下に出る。
深く踏み込まない花穂。何故そのことにいら立ちを感じてしまうのか、わからない自分自身がいる。
──何が気に入らないのかわからない。
助けてくれなかったことなのか。
それとも、あんなところを見られてしまった羞恥によるものなのか。
荷物を持って立ち上がると和馬の部屋を出た。
花穂は自室からバッグを持って出たところだった。黙って先に階段を下りていく彼女。奏斗はゆっくりとそれに続く。
どうしてこうなったのかも聞かないのだなと思った。いや、もしかしたら知っていたのかもしれない。
車を表に回すと言って先に玄関を出た花穂。車の音がしてから受け取った鍵で家の施錠をし、表に出る。
奏斗が助手席に乗り込むと花穂はハンドルに突っ伏していた。
「どうかした?」
「ごめんなさいね」
「何が?」
大きなため息をつく彼女に問えば、
「岸倉から頼まれていたの。和馬の行動に注意するようにって」
そこで彼女があのタイミングで部屋に来た理由を察する。
「どうしていいか、わからなかったの」
「いいよ。余計なことして花穂が怪我しても困るし」
和馬だって男だ。女性の力で敵うわけがない。
コントではないのだ、その辺のもので殴ったところで都合よく気絶することもないだろう。
「あなたって、ほんと……」
顔を上げた彼女は切なげに奏斗を見つめる。
「ん?」
「なんでもないわ」
彼女はチラリと奏斗の方を確認するとアクセルを踏み込んだ。
奏斗はカーナビに手を伸ばし、音楽の再生に触れる。
「花穂ってこういうの好きなんだな」
後にジャンルを知るが、花穂はメタルロックを好んで聴いていた。
「何よ、女の好みじゃないとか言うわけ?」
「いや。俺も好きだよ、こういうの」
奏斗の言葉に黙る彼女。不思議そうにそちらに目を向けるとほんのり顔を赤らめている。
「そういうこと言う人今までにいなかったわ」
「そうなんだ」
「偏見には方向性があると思うの」
日本という国は特に意識的なジェンダーに対する偏見が多いと彼女は言う。
男はカッコイイものが好き、女は可愛いものが好きというもの。
その理論で言うなら、男性が可愛い女性を好きになるというのに違和感を覚える。しかしそれがまかり通り、ジェンダーが複雑化しているという。
「奏斗は自認について考えたりする?」
自認性別というのは肉体に対してどっちなのかを考えるものである。それは非常にシンプルなもの。
しかしこの偏見と押し付けのせいで本来ならそこまで深く自認について考える必要がないものも自認について考えさせられるという現象が起きている。
この性別的偏見がなければ、何を好もうが個性で片付けられるだろう。しかし、精神的性別違和に関しては本来の意味でのトランスは失われつつある。
「俺はないかな」
「わたしはあるの。わたしが好むものは”一般的に男が好む”とされているものだから」
”男が好む”ものを女性が好んでも問題はないはずだ。しかし、他人の偏見や押し付けによって『自分の精神は女ではないのでは?』と思う者が多いのが現実。
何を好もうがジェンダーには関係ない。
性的なタチやネコだって男だからタチ、女だからネコとは限らない。どっちになるかはその人の性格や思想、性的趣向によるもの。そこにジェンダーは関係ない。
「別にいいんじゃないか? 誰が何を好もうと」
奏斗の言葉に驚いた表情をする花穂。
「誰が何を好もうがその人の自由だし、自分には関係ないだろ? 日本人は他人のことにとやかく言いすぎなんだと思う」
「そうね……」
いつの間にか車は目的地に着いていたが、明らかにそこは奏斗の自宅ではなかった。
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