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2章──変化していく関係
1 その違和感
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****♡Side・爽一(教師)
「最近白石の様子がオカシイって和馬が心配しているぞ」
爽一は放課後、奏斗を呼び出した。
「そう」
現国の準備室で。
「そうって……お前」
奏斗はポケットに両手を突っ込み棚に寄りかかって床を見つめている。
「花穂と何かあったのか?」
「別に。なんでそう思うの」
別にという感じはしない。むしろあったとしか思えなかった。
「なんでって、理由か。明らかにおかしいだろ」
”和馬を避けているようにしか見えない”と続ければ、彼は眉を寄せる。
「別に避けてなんかないよ」
ため息をつきながら。
それならば避けているつもりはないということだと結論付ける爽一。
「花穂と寝たのか?」
爽一の言葉に顔を上げる奏斗。
一瞬険しい表情をしたものの、すぐに自嘲的な笑みを浮かべる。
「ずいぶんと直接的な質問だな」
「避けてるつもりがないなら、罪悪感で無意識にそんな行動をとっているとしか思えん」
”そう感じるなら、そうなんでしょ”と彼。
何をしてくれたんだ、花穂はと思った。
再び床に視線を落とした奏斗。
「先生は自分の価値観が変わっていくことに恐怖を感じたことはある?」
彼は大人たちの欲望に汚されつつあった。
”白石奏斗”は少なくとも、婚前の肉体関係を望むような人間ではない。それは彼が元カノと別れ、遊び歩くようになったことから悪い噂を流され参っていた時、ここで本人かた話を聞いていたから感じる印象だ。
初めにこちら側に引き込んだのは他でもない自分。
「残念ながら、そういう経験はないな」
「そっか」
自分はマイペースな方だと思う。人の意見で曲がることもない。自分が正しいと思った道をひた歩くタイプだと思う。
真面目な彼にはきっと自分自身に抱く理想というものが存在する。それが他人の手によって踏みにじられていくことに耐えているのだろう。
汚したいとは思ったものの、こんな彼を見てしまうと後悔の念に駆られる。しかし同時に興奮もしていた。
──どこまでも自分は腐っている。
我ながら飛んでもない教師だと思う。
だが教師もただの人間。ましてや自分は潔癖でもなければ聖人君主を目指しているわけでもなかった。
とは言え、大人としてこうなってしまった責任は感じている。
──花穂と話をする必要があるな。
「先生は和馬とうまくいってる?」
自分が爽一の身代わりになったのだから、和馬を幸せにしてくれなければ困るとでも言うように。
「まあ、それなりに」
「それならいい。もう行くけど」
奏斗は今日、和馬と一緒に勉強会をする約束をしているらしい。
「珍しいな」
家に誘われているという奏斗に違和感を覚えた。
「最近約束を断ってばかりだったし」
どう見ても気乗りしているようには見えない彼。気にはなるが、引きとめることはできなかった。
奏斗が部屋を出ていくとデスクの上に置かれていたスマホに手を伸ばす爽一。
和馬はどちらも好きだと言っているのだ、奏斗を家に呼ぶのはおかしなことではない。だが、どうしても違和感が残る。
どうしたらいいのかわからないまま、花穂に電話をかける爽一。数コールで彼女に繋がる。話があるから会いたいという旨を伝えると、今日はレポートがあって無理だという。
「自宅か?」
『ええ。そうよ』
”どうかしたの?”と彼女。
言いたいことはたくさんあるが、今気になるのは奏斗のことだ。
「今日、白石が和馬に自宅に呼ばれているらしいんだが」
『そうなの』
「悪いが気にかけてやってくれないか? なんとなく嫌な予感がするんだ」
それはただの予感に過ぎない。
『わかったわ』
花穂は理由を聞くことはなかった。
もっとも、聞かれたところでうまく説明ができるとも思えなかったが。
──和馬には、目的のためなら手段を択ばないという一面がある。
何事もなければいい。
「最近白石の様子がオカシイって和馬が心配しているぞ」
爽一は放課後、奏斗を呼び出した。
「そう」
現国の準備室で。
「そうって……お前」
奏斗はポケットに両手を突っ込み棚に寄りかかって床を見つめている。
「花穂と何かあったのか?」
「別に。なんでそう思うの」
別にという感じはしない。むしろあったとしか思えなかった。
「なんでって、理由か。明らかにおかしいだろ」
”和馬を避けているようにしか見えない”と続ければ、彼は眉を寄せる。
「別に避けてなんかないよ」
ため息をつきながら。
それならば避けているつもりはないということだと結論付ける爽一。
「花穂と寝たのか?」
爽一の言葉に顔を上げる奏斗。
一瞬険しい表情をしたものの、すぐに自嘲的な笑みを浮かべる。
「ずいぶんと直接的な質問だな」
「避けてるつもりがないなら、罪悪感で無意識にそんな行動をとっているとしか思えん」
”そう感じるなら、そうなんでしょ”と彼。
何をしてくれたんだ、花穂はと思った。
再び床に視線を落とした奏斗。
「先生は自分の価値観が変わっていくことに恐怖を感じたことはある?」
彼は大人たちの欲望に汚されつつあった。
”白石奏斗”は少なくとも、婚前の肉体関係を望むような人間ではない。それは彼が元カノと別れ、遊び歩くようになったことから悪い噂を流され参っていた時、ここで本人かた話を聞いていたから感じる印象だ。
初めにこちら側に引き込んだのは他でもない自分。
「残念ながら、そういう経験はないな」
「そっか」
自分はマイペースな方だと思う。人の意見で曲がることもない。自分が正しいと思った道をひた歩くタイプだと思う。
真面目な彼にはきっと自分自身に抱く理想というものが存在する。それが他人の手によって踏みにじられていくことに耐えているのだろう。
汚したいとは思ったものの、こんな彼を見てしまうと後悔の念に駆られる。しかし同時に興奮もしていた。
──どこまでも自分は腐っている。
我ながら飛んでもない教師だと思う。
だが教師もただの人間。ましてや自分は潔癖でもなければ聖人君主を目指しているわけでもなかった。
とは言え、大人としてこうなってしまった責任は感じている。
──花穂と話をする必要があるな。
「先生は和馬とうまくいってる?」
自分が爽一の身代わりになったのだから、和馬を幸せにしてくれなければ困るとでも言うように。
「まあ、それなりに」
「それならいい。もう行くけど」
奏斗は今日、和馬と一緒に勉強会をする約束をしているらしい。
「珍しいな」
家に誘われているという奏斗に違和感を覚えた。
「最近約束を断ってばかりだったし」
どう見ても気乗りしているようには見えない彼。気にはなるが、引きとめることはできなかった。
奏斗が部屋を出ていくとデスクの上に置かれていたスマホに手を伸ばす爽一。
和馬はどちらも好きだと言っているのだ、奏斗を家に呼ぶのはおかしなことではない。だが、どうしても違和感が残る。
どうしたらいいのかわからないまま、花穂に電話をかける爽一。数コールで彼女に繋がる。話があるから会いたいという旨を伝えると、今日はレポートがあって無理だという。
「自宅か?」
『ええ。そうよ』
”どうかしたの?”と彼女。
言いたいことはたくさんあるが、今気になるのは奏斗のことだ。
「今日、白石が和馬に自宅に呼ばれているらしいんだが」
『そうなの』
「悪いが気にかけてやってくれないか? なんとなく嫌な予感がするんだ」
それはただの予感に過ぎない。
『わかったわ』
花穂は理由を聞くことはなかった。
もっとも、聞かれたところでうまく説明ができるとも思えなかったが。
──和馬には、目的のためなら手段を択ばないという一面がある。
何事もなければいい。
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