R18【同性恋愛】『報われなくても、春は来る』

crazy’s7@体調不良不定期更新中

文字の大きさ
上 下
35 / 51
1章──本当のはじまり

11・奏斗からの印象

しおりを挟む
****♡Side・奏斗

「これ凄く観たかったの」
「へえ」
 週末、奏斗は花穂と共にいた、和馬の誘いを断って。
 奏斗は両手をパーカーのポケットに突っ込み、看板を見上げる。

 偏見を持つ、持たないは時代とは関係ない。どんな育ち方をし、どんな性格をし、どんな考え方をしているのかによるものだと思う。
 それにしても、女性がアクションを好まないなどという価値観を押し付ける人がまだいるのかと思うとため息が出る。

──まあ個人的には、”好き”といえば詳しく知っていて当たり前という偏見も嫌だけれど。
 
 デジタル化が進み、紙の前売り券もとんと見かけなくなった。前売り券にはポスターと同じ画か印刷されていたものだ。
 便利を手に入れた人間は、代わりに何を失ったのだろう。

「何か購入していくのか?」
 パンプレットなどグッズが売っているコーナーに立った花穂に声をかける奏斗。
「使用曲が良かったらサントラ買いたいわね」
 ”ジャケットが素敵じゃない?”と嬉しそうに笑う彼女。
「そうだな」
 小さく笑う奏斗を花穂は驚いた表情で見ている。
「ん?」
「ううん。素敵ねって思って」
 なんのことだろうと思いつつも、そのことには触れずに飲み物などを販売している列に視線を向けた。

 デジタル化が進んでも、CDジャケットをアートとして飾る人はそれなりにいる。
 グッズで買った袋を手に嬉しそうに列に並ぶ人たち。
 人の幸せとは小さいな出来事の積み重ねなのかもしれない。

「そういえば、和馬が奏斗に誘いを断られたって言っていたけど、いいの?」
「いつ」
「今朝。リビングで会った時に」
「そっか。でも、花穂が先約だから」
 ”なにかいる?”と列の方を指せば、”一緒に並ぶわ”と彼女。
「そんなんじゃ、恋人にフラれるわよ」
 花穂は奏斗の腕に手をかけると一緒に列へと並んだ。
 それは”買ってこようか?”と言ったことに対してではなく、花穂を優先していることを指していると理解するのに少し間があった。

「先約を尊重するとフラれるの?」
「男でも女でも、プライベートなら自分を優先して欲しいものでしょう?」
 ”仕事なら仕方ないけれど”と続けて。
「ふうん。そんな理由で続かないなら、別にいいかな」
「え?」
「どっちが大切とか、そういうのは感情の問題でしょ? もし花穂がこんな風にレジに並んでいてさ、順番がまわってきたのに突然総理がやってきて”忖度”されて順番後回しにされてもいい?」
「それは……嫌。でも恋人とは違うでしょ」
「同じだよ。順番を待てないなら、いいよ別に」
 ”緊急”の場合は別と加えて。
 花穂は奏斗の話を受けて何かを考え込んでいるようだった。

 その後、飲み物とポップコーンを購入し、楽しく映画を鑑賞し終える。
 映画の後は食事に行こうと誘われていた。
 映画の感想を述べ合うことが彼女にとって凄く楽しみのようだ。
「なあ、岸倉とはどんな話するの」
 レストランへ向かう車の中で気になっていたことを彼女に問う。
「そんなことに興味があるの?」
「興味っていうか……まあ、そうだな」

 彼女といると想像とは全く違う印象を受ける。
 もっと男を手玉に取るようなプライドの高い悪女だと思っていた。しかし彼女から感じるのは『男性からの偏見により生きづらさを感じている女性』という印象。正直、好感を持った。

「大した話はしてないわね。話は聞く方が多かったし、大抵和馬の話よ」
「ふうん」
「ふうんって……」
 苦笑いする彼女に、
「そりゃさぞかし退屈だろうなと思って」
と素直な感想を述べる。
「どうしてそう思うの? 彼、結構イカれてて面白いわよ」
「面白いと楽しいはイコールじゃないだろ」
 花穂はどちらかというと、ニコニコ話を聞くのが好きというタイプではない。それは接していて思ったことだ。
 彼女は会話のキャッチボールを楽しみたい人。
 自分なりの分析を述べると、
「あなた、人を良く観察しているのね」
と感心されたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

年越しチン玉蕎麦!!

ミクリ21
BL
チン玉……もちろん、ナニのことです。

BL短編まとめ(甘い話多め)

白井由貴
BL
BLの短編詰め合わせです。 主に10000文字前後のお話が多いです。 性的描写がないものもあればがっつりあるものもあります。 性的描写のある話につきましては、各話「あらすじ」をご覧ください。 (※性的描写のないものは各話上部に書いています) もしかすると続きを書くお話もあるかもしれません。 その場合、あまりにも長くなってしまいそうな時は別作品として分離する可能性がありますので、その点ご留意いただければと思います。 【不定期更新】 ※性的描写を含む話には「※」がついています。 ※投稿日時が前後する場合もあります。 ※一部の話のみムーンライトノベルズ様にも掲載しています。 ■追記 R6.02.22 話が多くなってきたので、タイトル別にしました。タイトル横に「※」があるものは性的描写が含まれるお話です。(性的描写が含まれる話にもこれまで通り「※」がつきます) 誤字脱字がありましたらご報告頂けると助かります。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

処理中です...