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1章──本当のはじまり
11・奏斗からの印象
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****♡Side・奏斗
「これ凄く観たかったの」
「へえ」
週末、奏斗は花穂と共にいた、和馬の誘いを断って。
奏斗は両手をパーカーのポケットに突っ込み、看板を見上げる。
偏見を持つ、持たないは時代とは関係ない。どんな育ち方をし、どんな性格をし、どんな考え方をしているのかによるものだと思う。
それにしても、女性がアクションを好まないなどという価値観を押し付ける人がまだいるのかと思うとため息が出る。
──まあ個人的には、”好き”といえば詳しく知っていて当たり前という偏見も嫌だけれど。
デジタル化が進み、紙の前売り券もとんと見かけなくなった。前売り券にはポスターと同じ画か印刷されていたものだ。
便利を手に入れた人間は、代わりに何を失ったのだろう。
「何か購入していくのか?」
パンプレットなどグッズが売っているコーナーに立った花穂に声をかける奏斗。
「使用曲が良かったらサントラ買いたいわね」
”ジャケットが素敵じゃない?”と嬉しそうに笑う彼女。
「そうだな」
小さく笑う奏斗を花穂は驚いた表情で見ている。
「ん?」
「ううん。素敵ねって思って」
なんのことだろうと思いつつも、そのことには触れずに飲み物などを販売している列に視線を向けた。
デジタル化が進んでも、CDジャケットをアートとして飾る人はそれなりにいる。
グッズで買った袋を手に嬉しそうに列に並ぶ人たち。
人の幸せとは小さいな出来事の積み重ねなのかもしれない。
「そういえば、和馬が奏斗に誘いを断られたって言っていたけど、いいの?」
「いつ」
「今朝。リビングで会った時に」
「そっか。でも、花穂が先約だから」
”なにかいる?”と列の方を指せば、”一緒に並ぶわ”と彼女。
「そんなんじゃ、恋人にフラれるわよ」
花穂は奏斗の腕に手をかけると一緒に列へと並んだ。
それは”買ってこようか?”と言ったことに対してではなく、花穂を優先していることを指していると理解するのに少し間があった。
「先約を尊重するとフラれるの?」
「男でも女でも、プライベートなら自分を優先して欲しいものでしょう?」
”仕事なら仕方ないけれど”と続けて。
「ふうん。そんな理由で続かないなら、別にいいかな」
「え?」
「どっちが大切とか、そういうのは感情の問題でしょ? もし花穂がこんな風にレジに並んでいてさ、順番がまわってきたのに突然総理がやってきて”忖度”されて順番後回しにされてもいい?」
「それは……嫌。でも恋人とは違うでしょ」
「同じだよ。順番を待てないなら、いいよ別に」
”緊急”の場合は別と加えて。
花穂は奏斗の話を受けて何かを考え込んでいるようだった。
その後、飲み物とポップコーンを購入し、楽しく映画を鑑賞し終える。
映画の後は食事に行こうと誘われていた。
映画の感想を述べ合うことが彼女にとって凄く楽しみのようだ。
「なあ、岸倉とはどんな話するの」
レストランへ向かう車の中で気になっていたことを彼女に問う。
「そんなことに興味があるの?」
「興味っていうか……まあ、そうだな」
彼女といると想像とは全く違う印象を受ける。
もっと男を手玉に取るようなプライドの高い悪女だと思っていた。しかし彼女から感じるのは『男性からの偏見により生きづらさを感じている女性』という印象。正直、好感を持った。
「大した話はしてないわね。話は聞く方が多かったし、大抵和馬の話よ」
「ふうん」
「ふうんって……」
苦笑いする彼女に、
「そりゃさぞかし退屈だろうなと思って」
と素直な感想を述べる。
「どうしてそう思うの? 彼、結構イカれてて面白いわよ」
「面白いと楽しいはイコールじゃないだろ」
花穂はどちらかというと、ニコニコ話を聞くのが好きというタイプではない。それは接していて思ったことだ。
彼女は会話のキャッチボールを楽しみたい人。
自分なりの分析を述べると、
「あなた、人を良く観察しているのね」
と感心されたのだった。
「これ凄く観たかったの」
「へえ」
週末、奏斗は花穂と共にいた、和馬の誘いを断って。
奏斗は両手をパーカーのポケットに突っ込み、看板を見上げる。
偏見を持つ、持たないは時代とは関係ない。どんな育ち方をし、どんな性格をし、どんな考え方をしているのかによるものだと思う。
それにしても、女性がアクションを好まないなどという価値観を押し付ける人がまだいるのかと思うとため息が出る。
──まあ個人的には、”好き”といえば詳しく知っていて当たり前という偏見も嫌だけれど。
デジタル化が進み、紙の前売り券もとんと見かけなくなった。前売り券にはポスターと同じ画か印刷されていたものだ。
便利を手に入れた人間は、代わりに何を失ったのだろう。
「何か購入していくのか?」
パンプレットなどグッズが売っているコーナーに立った花穂に声をかける奏斗。
「使用曲が良かったらサントラ買いたいわね」
”ジャケットが素敵じゃない?”と嬉しそうに笑う彼女。
「そうだな」
小さく笑う奏斗を花穂は驚いた表情で見ている。
「ん?」
「ううん。素敵ねって思って」
なんのことだろうと思いつつも、そのことには触れずに飲み物などを販売している列に視線を向けた。
デジタル化が進んでも、CDジャケットをアートとして飾る人はそれなりにいる。
グッズで買った袋を手に嬉しそうに列に並ぶ人たち。
人の幸せとは小さいな出来事の積み重ねなのかもしれない。
「そういえば、和馬が奏斗に誘いを断られたって言っていたけど、いいの?」
「いつ」
「今朝。リビングで会った時に」
「そっか。でも、花穂が先約だから」
”なにかいる?”と列の方を指せば、”一緒に並ぶわ”と彼女。
「そんなんじゃ、恋人にフラれるわよ」
花穂は奏斗の腕に手をかけると一緒に列へと並んだ。
それは”買ってこようか?”と言ったことに対してではなく、花穂を優先していることを指していると理解するのに少し間があった。
「先約を尊重するとフラれるの?」
「男でも女でも、プライベートなら自分を優先して欲しいものでしょう?」
”仕事なら仕方ないけれど”と続けて。
「ふうん。そんな理由で続かないなら、別にいいかな」
「え?」
「どっちが大切とか、そういうのは感情の問題でしょ? もし花穂がこんな風にレジに並んでいてさ、順番がまわってきたのに突然総理がやってきて”忖度”されて順番後回しにされてもいい?」
「それは……嫌。でも恋人とは違うでしょ」
「同じだよ。順番を待てないなら、いいよ別に」
”緊急”の場合は別と加えて。
花穂は奏斗の話を受けて何かを考え込んでいるようだった。
その後、飲み物とポップコーンを購入し、楽しく映画を鑑賞し終える。
映画の後は食事に行こうと誘われていた。
映画の感想を述べ合うことが彼女にとって凄く楽しみのようだ。
「なあ、岸倉とはどんな話するの」
レストランへ向かう車の中で気になっていたことを彼女に問う。
「そんなことに興味があるの?」
「興味っていうか……まあ、そうだな」
彼女といると想像とは全く違う印象を受ける。
もっと男を手玉に取るようなプライドの高い悪女だと思っていた。しかし彼女から感じるのは『男性からの偏見により生きづらさを感じている女性』という印象。正直、好感を持った。
「大した話はしてないわね。話は聞く方が多かったし、大抵和馬の話よ」
「ふうん」
「ふうんって……」
苦笑いする彼女に、
「そりゃさぞかし退屈だろうなと思って」
と素直な感想を述べる。
「どうしてそう思うの? 彼、結構イカれてて面白いわよ」
「面白いと楽しいはイコールじゃないだろ」
花穂はどちらかというと、ニコニコ話を聞くのが好きというタイプではない。それは接していて思ったことだ。
彼女は会話のキャッチボールを楽しみたい人。
自分なりの分析を述べると、
「あなた、人を良く観察しているのね」
と感心されたのだった。
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