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1章──本当のはじまり

9・彼女の目的

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****♡Side・奏斗

「男なんて結局、ヤルことしか考えてないのよ」
 奏斗は楠和馬の姉、花穂と深夜のレストランにいた。
「愛の言葉だって、良いように自分に持っていくための演出でしかない。やることやったからって、愛が深まるわけでもない。それが無責任な性行為ってやつだわ」
 花穂は頬杖をつき、アイスティーをストローでくるくるとかき混ぜながら。
 奏斗は向かい側の席で足を組み、腕を組んで、それを面白そうに眺めていた。

 あの後メッセージを花穂に送ると、直ぐに呼び出されたのである。
 明日は休みなんだし、おしゃべりでもしましょうと。

「奏斗くんは……」
「呼び捨てで良いよ」
「じゃあ、わたしも花穂で結構よ」
 彼女が和馬にしていたことを考えると好感を持ち辛い相手だと感じていたが、話してみるとイメージは違った。
 岸倉爽一から聞いたイメージとも違っている。彼の話しでは、男をとっかえひっかえしているとのことだったが。
 目の前の美女はどちらかというと、男嫌いという印象を持つ。

「お付き合いというと、男はヤルことに直結するのは何故なのかしらね」
「まあ、種まきは男の本能だからな」
 奏斗はじゃっかん吹きだしそうになりながら返事をする。
 男の俺にそれを言うのか? と思いながら。
「女は種付けなんてされたくないのよ。分かるでしょ?」
「それはな」
 思った以上に興味深い相手であった。一体爽一とはどんな会話をしていたのか気になるところだ。

「で。奏斗は女性とはお付き合いしたことはあるの?」
「一応」
「ふうん」
 花穂がじっと奏斗を見つめる。それは嘘をついているのか見抜こうともしているようにも見えて奏斗はドキリとした。
「ま、モテそうだしね」
 観察をするのを止めた彼女はフッと笑って。
「その髪って地毛なの?」
「俺はハーフじゃない」
 もっとも、妹も金髪だが。K学園では染髪は禁止されていない。
 デザイン科やアート系の科もあるため、ピンクの頭をした者や緑の頭をした者も珍しくなかった。むしろアッシュなどを入れたお洒落な生徒が多い。

「K学だもんね、それくらい普通か。でも、それのせいで結構えげつない噂も流されているって聞いたわよ?」
「和馬?」
「ううん」
「岸倉か」
 その話をした相手が誰かなんてことは、特定する必要はないのだが。
「ううん。愛花先輩」
「え?」
 大里愛花。奏斗の同級生で大崎圭一の幼馴染みである『大里ミノリ』の姉の名である。
「『見かけで人を判断するなんてK学園の学生にあるまじき行為でしてよ』ってプンスカしてらしたわ」
「世間は狭いな」

 圭一は大里姉妹と行動することが多く、奏斗も何度か一緒に食事に行ったことがある。その経緯で知れた話もあるのだろう。
 大里家と大崎家はK学園では有名な二大セレブ。
 奏斗たちの暮らす街ではそこかしこに大崎グループ、大里グループ系列店を見かけるほどに有名だ。

「実のところ、奏斗のことは愛花先輩の話しで知ったのが最初よ。和馬の友人だったのは偶然」
「へえ」
「噂の彼ってのがどんな人なのか気になっていたのよね」
 ”どんな噂を流されても飄々としてるっていうじゃない?”と続けて。
「そりゃ光栄だな」
「見た目もタイプよ」
 ニコッと微笑む彼女。奏斗はテーブルに手を伸ばすとホットティーを口に含んだ。

「岸倉みたいなのがタイプなんじゃないのか?」
 カップをテーブルの上に置くと奏斗は再び腕を組んで。
「うーん。彼は当時モテていたのよね。でも誰とも付き合わないし、なら形だけでもって思って交際を申し込んだのに……アイツ、雑に断ったのよ」
「ああ……」
 想像がつくなと奏斗は思っていた。
「悔しいじゃない? 半ば意地よ、意地。女には興味ないって言ってくれたらここまで意地にもならなかったわよ」
 彼女はオーバーに肩を竦めて。
「で。俺には何を望んでんの?」
 恐らく、ここからが本題となるだろう。覚悟は決めているつもりだが、奏斗は彼女の返答を待つのに緊張したのだった。
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