R18【同性恋愛】『報われなくても、春は来る』

１章──本当のはじまり

５・誤解が生むもの

＊＊＊＊♡Side・楠　和馬

　仲が悪い二人をどうにかしようと思ったが、どうにもならなかった。しかし、仲が悪い程度ならどうという事もなかったことに、気づくこととなるのだ。それは、旅行が終わり数日たった頃、突然やって来る。
「何が必要なんだ？」
「ん、ノート」
　モバイルを利用した授業が主流になっても、紙媒体のものが必要な事には変わらない。パソコンで二窓も便利ではあるが、手元にあった方が見やすいこともある。それは自分でチョイスしながら、上手くやればいいだけのこと。
「俺も来年の手帳買おうかな」
と、奏斗。
　今日は珍しく彼の妹がいない。委員会で忙しいらしい。

「Ｋ学園の風紀委員会ってちょっと変わってるよな」
　雑貨屋のの入口を潜り抜けながら、和馬がそう言うと、
「大崎のせいだろ」
と彼は言う。
　”大崎　圭一”は昨年度は生徒会副会長をしており、今年度は風紀委員長を務めていた。初等部時代、弟への長期に渡るイジメに気づかず、その事を後悔した彼は、中等部、高等部と積極的に生徒会、風紀委員会に所属している。Ｋ学園を根底から変えようと尽力しており、セレブでも有名だがそちらでも有名だ。彼のファンは多く、人望も厚い。
「凄いな、彼」
　和馬には出来ないことだと思った。

　しかし、Ｋ学園にはもう一方ひとかたのセレブがいる。大里ファミリーだ。
　三人姉弟で、長女は既に大学部に所属しているが次女のミノリは和馬たちの同級生。末っ子は中等部三年だ。実はＫ学園の闇ルールを作ったのがこの末っ子。彼は圭一の弟のイジメにより、そのルールを作った。彼を守るために。圭一はＫ学園の光と闇のような存在で、昨年その彼が中等部の副会長をしていた頃は、Ｋ学園中等部暗黒時代などと言われていたらしい。
「どれが良いかな」
　奏斗は、和馬の話に同意しながらも、手帳のデザインについて和馬に意見を求めた。

「俺、センス良くないよ？」
「いいよ。和馬に選んで欲しいだけだから」
　こんな時、彼は良い恋人になるんだろうな、などと思ってしまう。人慣れしているというか、仲良くなる前の印象とは明らかに違う。
「じゃあ、この皮っぽいの」
　ダークブラウン色で、手触りが良くお洒落なロゴが刻まれており、閉じ方は差し込み式でボタンで留めるものではなかった。カスタマイズできるシステム手帳で長く使えそうである。
「あ、緑のもお洒落だね」
と、和馬が別の色に気づきそちらを指す。
　くすんだ深い緑、和配色だ。
「じゃあ、これにする。緑は頭良くなるとか、頭いい奴とかそんなこと以前何処かで見たことあるしな。ん？どうした……？」
　手帳を手にした彼が、和馬の変化に気づく。和馬は何げなく視線を移した向かい側の本屋に爽一がいるのを見つけてしまった。
「先生じゃん。声かけ…」
　そこで奏斗も黙る。爽一の隣に立っている人物に気づいたからだ。女性が彼の腕に自分の腕を絡めている。しかも、和馬の良く見知った人物が。

──なんで、義姉さんが……？