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1章──本当のはじまり

1・手に入れられないもの

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****♡Side・岸倉 爽一【教師】

「先生」
 楠 和馬は、爽一と奏斗の手によって確かに、欲望を吐き出したものの、その行為は想像とはかけ離れていた。
 和馬は今、隣の部屋の布団に横になっている。付き添っていたはずの奏斗がゆっくりと、板の間に立ちぼんやりと外を眺める爽一の元へ歩いてくる。
「こんなことして、意味ありました?」
 奏斗は明らかに後悔の色を浮かべていた。
 自分だって何も、正しいとは思っていない。和馬は自分のことが好きだから、言いなりになるだろうと奢った考えをし、それを実行したに過ぎない。
「俺を責めるのか? 白石は」
 奏斗を巻き込んだのは自分だ。

──それでも俺は、和馬に気持ちいいことしてあげたかった。
 気持ちよさそうにする顔をみて見たかった。

 だが、実際は泣かせただけに過ぎない。どうしてこうなってしまうのか、全く分からない。
 男なら、好きなら、性欲くらいあるはずだろ、と。

「別に、責める権利なんてありませんし」
 彼は、和馬のことが好き。そんなことは、言われなくたって気づいた。彼も隠してはいない。
 だから悪魔の言葉を囁いたのだ。
「和馬、良かった?」
 和馬の中でった彼に、わざわざそんなことを聞いてどうするんだとも思ったが、何故か聞いてしまっていた。案の定、彼は深いため息を落とす。

 気づいたことがある。大人びて見える和馬の中身はとても純粋で、年相応に見える奏斗は実は大人びていることに。二人のバランスはとても良く、付き合ったら巧くいくのだろうなとは思うが和馬を誰にも渡したくない。
 和馬を義姉から守るために、その本人と交際をしているくらいだ。和馬のためなら、なんだってするという気持ちではいるものの、すれ違ってばかりいる。
「俺、ちょっと自販機いってきます」
 答えをくれることがないまま、奏斗は爽一にそう告げると部屋を出て行った。

──俺、ダメだな。
 大人なのに。

 爽一は浅く息を吐くと隣の部屋へ静かに歩いて行き、和馬の傍らに膝をつく。
「先生……?」
 気配で起きたのか、和馬の心細そうな声。
「ごめんな、和馬」
 その頬を優しく撫で、彼をじっと見つめる。
「何もしないって約束したのに。俺、我慢無理だ」
 全く大人ではないなと思いながら、彼に口づけた。
 すると彼は、
「先生、嘘でもいいから」
「うん?」
「今だけでいいから」
 瞳を揺らし、言い淀む、彼。
「どうした、和馬」
「好きって言ってよ。先生」

──和馬は、ずっと言葉を欲しがってる。
 行動だけじゃ、伝わってないのかな。

 伝わると思うのがそもそも間違いだという事には気づかない爽一であったが、非日常が爽一の背中を押す。
 爽一は和馬に覆いかぶさると、耳元で、
「愛してるよ、和馬」
と囁いたのだった。

**

「嘘でも、嬉しい」
 可憐に微笑む和馬に、爽一は堪らなくなり覆いかぶさる。
「嘘なんかじゃない。愛してるんだ、和馬」
「え……?」
 驚くのも、無理はない。今まで、ずっと決定的な言葉を継げなかったのは、立場を重んじてのこと。やっていることが非常識なのはわかっている。ぎゅううっと抱きしめると、彼がおずおずと背中に腕を回してくれた。伝わる体温。幸せとは、こういう事をいうのだろうか。
「俺は、お前が卒業したら一緒に暮らしたい」
「ほんとに?」
 旅が心に解放感を与えている。自分の状況も忘れ、和馬の姉は自分たちの関係を暴露しないと勝手に思い込んでいるせいもあった。
「ああ」
 彼がとても嬉しそうに笑う。

──可愛いなあ。

「せんせ……」
 和馬の髪を撫で、その肩に顔を埋める。先ほどあんなにしたのに、身体は熱を帯び始めていた。
 理由なんてわかっている。満たされないからだ。
「なんで、硬く……?」
「和馬、抱かせて」
彼の耳元で、熱の籠った声で懇願する。

──和馬が欲しい。心ごと全部。

「さっき、あんなにしたのに。まだするの?」
 爽一は困った表情をする彼に、ちゅっと口づけて、
「和馬がよがるところ見たことない。見たいよ、俺に見せて」
「奏斗が戻ってきちゃうよ」
「いいだろ」
 むしろ見せつけてやりたいとすら思っていた。
 大人げないのは重々承知だ。和馬がどんなに自分を好きだとしても、やはり自分にとって奏斗はライバルに違いない。特に自分は、奏斗がどんな恋愛をしてきたのか知っている。

 彼は喧嘩別れしてしまった彼女のことを、心から愛していた。他校生の彼女を誠意で口説き落とし、”何もしないから”という自分自身の言葉を守り通した男だ。
 愛しい彼女の将来を大切にし、キスすらしなかったというから驚きだ。

 二人が別れたのは、彼女の家庭の事情が原因。高校二年後半と言えば、色々と忙しい時期。
 K学園がいくらエスカレーターだとは言っても忙しい時期に家庭の事情を持ち込まれ、温厚な奏斗であっても嫌になったのだろう。自分のことで一杯だった奏斗に、少しでも安心できる言葉を貰いたかったのだろう。
 だが、それは連日だったため、限界だったという。

──白石は、我を通したりしない男だ。
 そんな白石が、唯一執着する相手が、和馬だ。

 自分が奏斗を誘い込んだりしなければ、彼は和馬にあんなことはしなかっただろう。
 さっきだって、質問に答えなかったのは自分自身に嫌気が差したからに違いない。しかし爽一は、奏斗までも汚したいと思っていた。
 和馬を奪われたくはないが、クールに振舞う奏斗の自尊心をズタズタにし、性に溺れさせたいと思っていたのだ。
 とてつもなく、トチ狂った教師である。
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