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0章──それが恋に変わる時
15・君のためにできること
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****♡Side・爽一
「なあんだ。気づかなかったんだ」
彼女はテーブルに頬杖をつき、ふふふっと笑った。
彼女こと、和馬の義姉”花穂”は大学の後輩にあたる。しかも爽一が振った相手であった。
しかし爽一は、彼女に直接会うまで、そのことに気づかず仕舞い。
「ならこれは、仕返しか?」
美人でお金持ち、周りから羨望の眼差しで見られる彼女は、自分自身に相当な自信を持っていた。
もちろん、爽一に振られるはずはないと思っていたに違いない。
「仕返しぃー?」
甘えた声で不思議そうに言うと、クスクスと笑う。展望レストランの個室。
”Closure”が流れており、お洒落な雰囲気が漂っている。
「何故仕返しで、和馬に手を出すわけ? あなたが和馬を好きだと知っているならまだしも」
「それは……そうだな」
”でも、良いわ”と彼女は言う。
「相手、してくれるんでしょ?」
楠の代わりに付き合うと言ったのは、自分だ。
爽一はため息をつくと、
「ああ」
と短く答えた。
「あの時、ちゃんと言ってくれていれば、こうはならなかったのよ」
全ての発端は、彼女のプライドを傷つけたこと。
爽一がちゃんと女性は恋愛対象外と言ってくれていれば、プライドが傷つくことはなかったと、彼女は言っているのだ。
「和馬の待ち受けを見て、相手があなただとすぐにわかったわ」
彼女は指先で爽一の頬を撫でる。
長い爪が食い込みそうで怖い。
「そりゃどうも」
──和馬は俺を待ち受けにしているのか?
可愛すぎる。
「俺と付き合うんだから、和馬にこれ以上手を出すなよ」
「それは約束するわ。わたし、この顔が好きだから」
頬を撫でていた指先はいつの間にか、爪先を爽一の喉元にあてている。
「悪いが、俺は女相手に立たないからな」
「それじゃあ、和馬と一緒ね」
彼女の言葉に、爽一は怪訝な表情をした。
たしか楠の体には無数の痕があったはずだ。しかも、自分は玩具にされていると言っていたはず。
「和馬と寝てるんじゃないのか?」
「微妙に違うわね」
彼女が言うには、愛撫と言う名の奉仕をさせているらしい。
──なんだ。
最後まではしてないのか。
爽一は少しホッとする。
この義理の姉に汚されているのではないかと思っていたのもあるが、楠が同性相手では無理なのではないかと思っていたからだ。
「なあに、あからさまにホッとした顔をして」
「別に」
ふいっと爽一がそっぽを向くと、彼女はスマホを指先でこちらに押しやる。
「白石 奏斗」
「は?」
彼女の口から奏斗の名前が出たことに驚き、思わず声を漏らす。
しかし、奏斗は楠の友人だ。義姉である彼女が知っていたとしても不思議ではない。
「彼、和馬のこと好きみたい」
「え?」
何を根拠にそんなことを言っているんだと、彼女のスマホの画面を覗き込むと、
「いや、ただの友人だろ」
そこには楠からのメッセージが。
──三年なんだ、仲のいい友人と卒業旅行なんて定番だろ?
「でも、卒業旅行が二人きりってよっぽどじゃなくて?」
爽一はなんだか嫌な予感がしていたのだった。
予感が的中したと感じたのは、翌日廊下で楠とすれ違った時。
「奏斗。俺、図書館寄りたいから先行って……。あ、岸倉先生」
相変わらず、分かりやすい好意を表情に出し、眩しそうにこちらを見る楠。
だが、爽一の心中は穏やかではなかった。
「分かった。じゃあ風花と正門で待ってる」
奏斗はそんな爽一に気づかないフリをして、楠に片手を挙げる。
「先生、また」
と楠が歩き出すと、その場を立ち去ろうとした奏斗の腕をガシっと掴んだ。
「白石」
「なんです? 岸倉せんせー」
前回、楠を名前で呼んだ時とは違う。
爽一は彼が”わかっていて”やっているのだと確信した。
──名前で呼ぶだけでは飽き足らず、和馬に名前で呼ばせているなんて!
腹ただしいことこの上ない。
「俺の言いたいことわかるよな?」
「名前で呼び合うなんて、普通ですよ。俺たち”親友”なんですから」
”親友”というところにやたら力を入れ、優越感に浸る彼。
「親友ねえ。好意があっても友と言うのか?最近は」
下心があるくせに、いけしゃあしゃあと友だなんて言うふてぶてしさ。かつては奏斗をリスペクトしていた爽一も、楠が絡めばそんな暢気なことはいってられない。
「友から恋人に昇格することなんて、よくある事ですよ。先生」
「俺は、宣戦布告と受け取った」
「どうぞ、ご自由に」
両者一歩も譲らず。
「そう言えば、旅行に行くんだってな」
「早耳ですね」
彼は楠から聞いたのだと思ったのか、誰から聞いたのかは問わなかった。
もっとも、聞かれたところで楠の義姉とは言えないので濁すだけだが。
「しかも、二人きりで」
「よくご存じで」
彼の余裕はどこから来るのだろうか。爽一は心の中で青ざめつつも、気丈に振舞う。
「二人きりで卒業旅行って、正気か?」
「先生風に言えば、下心があるから二人きりで行きたいんですが?」
「なっ」
自分は何故、余計なことを言ってしまったのか。
はっきり言われてしまっては反対するのが難しい。
──くそっ、逆手に取りやがって。
どうやら奏斗のほうが一枚上手のようである。しかし、ここで引き下がるわけにはいかない。
楠を誰にも渡したくないという想いは、きっと一緒だ。
「まだ、何か? 妹を一人で待たせているので、なければもう行きますが」
と、彼。
──どうする?
このままじゃ、白石に和馬を奪われるのは時間の問題。
考えろ、考えるんだ、俺。
そこで爽一は、無謀な作戦に出る。
「俺も行く」
「は?」
奏斗は、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。
無理もない。生徒の個人的な卒業旅行に教師が同行すると言い出したのだから。
「和馬には俺から話をつける」
「あんた、正気かっ⁈」
奏斗は相手が教師だということも忘れ、思わずそう口にしたのだった。
「なあんだ。気づかなかったんだ」
彼女はテーブルに頬杖をつき、ふふふっと笑った。
彼女こと、和馬の義姉”花穂”は大学の後輩にあたる。しかも爽一が振った相手であった。
しかし爽一は、彼女に直接会うまで、そのことに気づかず仕舞い。
「ならこれは、仕返しか?」
美人でお金持ち、周りから羨望の眼差しで見られる彼女は、自分自身に相当な自信を持っていた。
もちろん、爽一に振られるはずはないと思っていたに違いない。
「仕返しぃー?」
甘えた声で不思議そうに言うと、クスクスと笑う。展望レストランの個室。
”Closure”が流れており、お洒落な雰囲気が漂っている。
「何故仕返しで、和馬に手を出すわけ? あなたが和馬を好きだと知っているならまだしも」
「それは……そうだな」
”でも、良いわ”と彼女は言う。
「相手、してくれるんでしょ?」
楠の代わりに付き合うと言ったのは、自分だ。
爽一はため息をつくと、
「ああ」
と短く答えた。
「あの時、ちゃんと言ってくれていれば、こうはならなかったのよ」
全ての発端は、彼女のプライドを傷つけたこと。
爽一がちゃんと女性は恋愛対象外と言ってくれていれば、プライドが傷つくことはなかったと、彼女は言っているのだ。
「和馬の待ち受けを見て、相手があなただとすぐにわかったわ」
彼女は指先で爽一の頬を撫でる。
長い爪が食い込みそうで怖い。
「そりゃどうも」
──和馬は俺を待ち受けにしているのか?
可愛すぎる。
「俺と付き合うんだから、和馬にこれ以上手を出すなよ」
「それは約束するわ。わたし、この顔が好きだから」
頬を撫でていた指先はいつの間にか、爪先を爽一の喉元にあてている。
「悪いが、俺は女相手に立たないからな」
「それじゃあ、和馬と一緒ね」
彼女の言葉に、爽一は怪訝な表情をした。
たしか楠の体には無数の痕があったはずだ。しかも、自分は玩具にされていると言っていたはず。
「和馬と寝てるんじゃないのか?」
「微妙に違うわね」
彼女が言うには、愛撫と言う名の奉仕をさせているらしい。
──なんだ。
最後まではしてないのか。
爽一は少しホッとする。
この義理の姉に汚されているのではないかと思っていたのもあるが、楠が同性相手では無理なのではないかと思っていたからだ。
「なあに、あからさまにホッとした顔をして」
「別に」
ふいっと爽一がそっぽを向くと、彼女はスマホを指先でこちらに押しやる。
「白石 奏斗」
「は?」
彼女の口から奏斗の名前が出たことに驚き、思わず声を漏らす。
しかし、奏斗は楠の友人だ。義姉である彼女が知っていたとしても不思議ではない。
「彼、和馬のこと好きみたい」
「え?」
何を根拠にそんなことを言っているんだと、彼女のスマホの画面を覗き込むと、
「いや、ただの友人だろ」
そこには楠からのメッセージが。
──三年なんだ、仲のいい友人と卒業旅行なんて定番だろ?
「でも、卒業旅行が二人きりってよっぽどじゃなくて?」
爽一はなんだか嫌な予感がしていたのだった。
予感が的中したと感じたのは、翌日廊下で楠とすれ違った時。
「奏斗。俺、図書館寄りたいから先行って……。あ、岸倉先生」
相変わらず、分かりやすい好意を表情に出し、眩しそうにこちらを見る楠。
だが、爽一の心中は穏やかではなかった。
「分かった。じゃあ風花と正門で待ってる」
奏斗はそんな爽一に気づかないフリをして、楠に片手を挙げる。
「先生、また」
と楠が歩き出すと、その場を立ち去ろうとした奏斗の腕をガシっと掴んだ。
「白石」
「なんです? 岸倉せんせー」
前回、楠を名前で呼んだ時とは違う。
爽一は彼が”わかっていて”やっているのだと確信した。
──名前で呼ぶだけでは飽き足らず、和馬に名前で呼ばせているなんて!
腹ただしいことこの上ない。
「俺の言いたいことわかるよな?」
「名前で呼び合うなんて、普通ですよ。俺たち”親友”なんですから」
”親友”というところにやたら力を入れ、優越感に浸る彼。
「親友ねえ。好意があっても友と言うのか?最近は」
下心があるくせに、いけしゃあしゃあと友だなんて言うふてぶてしさ。かつては奏斗をリスペクトしていた爽一も、楠が絡めばそんな暢気なことはいってられない。
「友から恋人に昇格することなんて、よくある事ですよ。先生」
「俺は、宣戦布告と受け取った」
「どうぞ、ご自由に」
両者一歩も譲らず。
「そう言えば、旅行に行くんだってな」
「早耳ですね」
彼は楠から聞いたのだと思ったのか、誰から聞いたのかは問わなかった。
もっとも、聞かれたところで楠の義姉とは言えないので濁すだけだが。
「しかも、二人きりで」
「よくご存じで」
彼の余裕はどこから来るのだろうか。爽一は心の中で青ざめつつも、気丈に振舞う。
「二人きりで卒業旅行って、正気か?」
「先生風に言えば、下心があるから二人きりで行きたいんですが?」
「なっ」
自分は何故、余計なことを言ってしまったのか。
はっきり言われてしまっては反対するのが難しい。
──くそっ、逆手に取りやがって。
どうやら奏斗のほうが一枚上手のようである。しかし、ここで引き下がるわけにはいかない。
楠を誰にも渡したくないという想いは、きっと一緒だ。
「まだ、何か? 妹を一人で待たせているので、なければもう行きますが」
と、彼。
──どうする?
このままじゃ、白石に和馬を奪われるのは時間の問題。
考えろ、考えるんだ、俺。
そこで爽一は、無謀な作戦に出る。
「俺も行く」
「は?」
奏斗は、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。
無理もない。生徒の個人的な卒業旅行に教師が同行すると言い出したのだから。
「和馬には俺から話をつける」
「あんた、正気かっ⁈」
奏斗は相手が教師だということも忘れ、思わずそう口にしたのだった。
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