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0章──それが恋に変わる時

9・好きになった日

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****♡Side・楠

 いいなって思ってた、ずっと。
 羨ましいなって思っていた。

──自分には本音で話せる人はいない。

 ただ上辺で付き合って、無事に高等部を卒業し、大学部へ上がって。なんとなく人に紛れて器用に生きて行けばいいと思っていた。
 ”白石 奏斗”
 他校生の彼女がいて、仲のいい妹がいて。幸せそうに見えていた同級生が、ある日突然、どん底に落ちたのを知る。彼は”こっち側”の人間になったんだと思った。

──でも、違ったんだ。

 彼には手を差し伸べてくれる人がいた。自分は我慢して来たのに。誰にも頼らなかったのに。どうして彼には味方がいて、自分にはいないのだろう。彼と自分は何が違うんだろう?

 そんな時、奏斗が頼りにしている先生が、生徒に想いを寄せていることに気づいた。

──俺はあの時、ただ……白石に嫉妬して、先生の気持ちを自分に向けたかっただけで。
 初めは本気じゃなかったんだ。

 でも自分は爽一を観察しているうちに、この人はあの生徒のことを諦めたら、奏斗のことを好きになるんだろうか?と思った。

──白石に取られたくないって……思ってしまったんだ。

 話してみたら優しい人で、生徒をわけるような人じゃなかった。
 もしかしたら、自分の悩みも聞いてくれるかもしれない、そう感じた……。

 だが、現実はどうだ。先生の眼中に自分は居ない。どんなに好きだと言っても、届かない。振ったくせに、なぜこんなことをするんだろう?

──俺は、都合のいい性欲処理の道具なの?

「和馬」

 優しい声で、名前を呼ばないで。
 勘違いしてしまうから。
 白石の代わりは嫌だ。

「!」
 悶々としながらも、一切抵抗しなかった楠は、爽一の指がある一点に触れた時、血の気が引いた。
「先生、なんで……そんなとこ」
「男同士はここを使うことぐらい、お前だって知ってるだろう?」
 爽一の言葉に楠は瞳を揺らす。

──怖い……。

「俺に告白して来たんだ、知っていて、とうぜ……知らないのか?」
 楠は返事の代わりに瞬きをする。知らなければ許されるものだと思っていた。
「お前……ホントに初めてなんだな」
「遊んでるように見えるんですか?」
「いや。力抜いてろよ?」
 小さく笑んだ彼から笑みが消え、トロッとした何かと共に彼の指先が蕾を突《つつ》く。
「やだ……何して」
「解さなきゃ入らないだろ」
「入る? 何を入れるんです?」
 パニックになる楠に、
「和馬。今に分かる」
と告げる彼。
「いやだ! 先生っ……やめて……」
 抵抗むなしく、彼の指はくぷぷっと蕾に挿入される。
「和馬、今によくなる」
「いやだぁっ……なんでこんなことっ」
 胸を押しのけようとするが、逆に押さえつけられてしまう。
「和馬、俺はお前のことが……だから」

───なんて言ったの?
 聞えない。

 キコエナイヨ……。


──誰も俺を救ってはくれない。

「いやだあああああッ」
「和馬!」
「なんで……なんでこんな酷いことするの? 俺が先生を好きなったからいけないの?」
 震える声で、問いかける。充分に解されたそこを、爽一自身が貫いていた。屈辱的な行為に涙が止まらない。
「和馬、これで最後にするから。一緒に気持ちいいことしよう?」
「最後? 最後って何?」
 自分にこんな酷いことをしておいて、いなくなるとでも言うのか? 
 人の心をボロボロにして置いて、想う事すら……見ていることすら許さないというのか?
「そのままの意味だ」
「先生、辞めちゃうの?」
 返事の代わりにちゅっと優しい口づけをくれる。

「好きなのに……先生っ」
「傍に居ても、酷いことしかできない」
「どうして俺の傍にはいてくれないの?」
「何を言ってるんだ?」
 すれ違い続けた二人の間には、もはや交差する地点すら存在しない。
「先生が贔屓するのは、白石ばかり」
「なんでそうなるんだよ」
 互いに何を思い違いをしているのかも分からないまま。

「このこと誰にも言わないから。だから……辞めるとか言わないで」
 どれだけ爽一に愛されているのかわからないまま。
「あと、半年なんだよ?」
 爽一は、瞬きを一つして楠の頬を撫でる。教師を辞め気持ちを伝えたいと思っているのに、何故か反対されているのだ。
「先生のこと、諦めるから。ねえ、辞めないで」
 諦めて欲しくなんかないのに、言う事も出来ない。爽一はただ切なげに眉を寄せた。
「どうして俺の願いは何も聞いてくれないの?」
 なんと答えたらいいのか分からないまま、爽一は楠を抱きしめる。

「和馬、俺にとってお前は特別だ」
 楠は、その言葉を聞いて自分の想い通りにできるから、と解釈した。
「何故、それがわからない?」
 そもそも言わなくてもわかると思っていることが大間違いである。

──わからない?
 わかっている。
 先生は白石が大切で、俺のことは自分に好意を持っている上に弱みを握っているから、思い通りになると思っている。
 そういうことだろ?
 でも、好きな人から性欲処理の道具にされるのはいやだ。

「なあ、和馬はどうして俺がこんなことするかわからないのか?」

──白石には手を出せないから。
 だから……。

「分からないから……こうなってるんだよな」
 爽一は深いため息をついて楠の背中を撫で、肩口に顔を埋めた。
「俺はずっとこうしていたいと思ってるよ」
 それは温もりを分け合いたいという意味なのだが。

──俺は早く抜いて欲しい。
 こんなの、もう、いやだ。

 全く噛み合っていなかったのである。
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