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0章──それが恋に変わる時
3・彼への好奇心
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****♡Side・楠
「何してたんだよ」
廊下に出ると、待ってくれているとは思わなかった奏斗が、腕組みをし壁に寄り掛かってこちらを見ていた。
「へえ、待っててくれるんだ」
「まあ」
”一緒に行きたいと言ったのは、そっちだろ”と怪訝な表情をする彼の肩をポンと叩き、先に歩き出す楠。
「風花ちゃんとは、どこで待ち合わせ?」
奏斗の妹、風花は同じK学園高等部の一年である。
「正門。つうか、待たせて置いて先に行くとか、どういう神経してるんだよ」
彼は不服そうだ。そんな彼を、楠はいい奴だなと思った。自分が彼に近づいたのには理由がある。
もちろん、風花目的ではない。
──岸倉先生と仲が良いと聞いたからだ。
教師の岸倉と言えば、人気こそないものの評判がいい。
特に身に覚えのない良くない噂をされる生徒から、信頼が厚かった。K学園はマンモス校だ。たくさんの教員がおり、しかも新米教師など埋もれてしまう。
そんな中、際立って評価されている教師がどんな人物なのか興味が湧いた。
──実際会ってみたら、ルックスはいいが頼りなさそうで、何考えてるのか分かりやすい人だったがな。
すると今度は、その教師と仲のいい奏斗にも興味を持ったのだった。
何ゆえに、あの人のよさそうな教師に懐いているのか。
白石 奏斗と言えば一見チャラそうに見えて一途らしく、告白してくる女子を振りまくり、彼女たちに恨まれた挙句、悪い噂ばかり流されている世渡りの下手そうな男子生徒である。そして、妹に甘いらしい。
「早く来いよ、短足」
「誰が短足だ」
ムッとしながらもついてくる彼を振り返ると、女子たちが彼を見てうっとりとしていた。
──こんな世渡り下手な男が何でモテるんだ?
ますます謎は深まるばかり。
「白石くん」
彼が呼び止められたので楠が立ち止まると、女子に気を取られていた彼が背中にぶつかる。
「おい、楠。急に立ち止まるなよ」
「前見て歩けよ。いくら女子のスカートが短いからって、見惚れてるお前が悪い」
「なっ!」
理不尽なことを言われて、眉を寄せる奏斗。
「いつ、俺がっ」
──先生は白石のどんなところが好きなんだろう?
じーっと見つめていると、彼がたじろいた。
「お前、さっきからなんなんだよ」
という彼の言葉に、
「ヤキモチかな」
と返す楠。
「は?」
二人のやり取りを聞いていた女子生徒が、
「あの、二人って付き合ってるんですか?」
と場違いな質問をした。
──女ってこの手の話好きだよな。
でも白石が落ち着いたら、先生は俺の方も見てくれるんかな?
白石には悪いが、利用させてもらうよ。
「さあねえ? どう見える?」
と楠は悪戯っぽく笑うと、彼の手を掴み歩き出したのだった。
「ちょっ、楠っ」
──俺の駒になってよ、白石。
「お前、ほんとさぁ! さっきから、意味わかんねーし」
ぶんっと腕を上下に振り、楠の手を振り払い立ち止まる奏斗に、楠は目を細める。
「白石と仲良くなりたいだけだが?」
「はぁ?」
彼からすれば嫌がらせでしかない、一連の出来事。
「白石も、そんな顔するんだな」
無表情とまではいわないが、普段はクールに見える奏斗。
表情が良く変わるのは、爽一と一緒に居るときと、妹の相手をしている時だけだと気づいた。それでも彼は、困ったような泣きたいような、複雑な表情をすることはない。
「どんな顔だよ」
「イジメたくなる顔」
トンっと指先で押しやれば、彼は壁に背中をぶつける。
「油断しすぎなんじゃないのか?」
楠は、彼の顔の横に手をつくと、彼の逃げ場を塞いだ。
じっとこちらを睨みつける様を可愛いと思うのだから、自分は異常だなと、楠は思う。
「何してるの?」
しかし、楠の独壇場はいとも簡単に壊される。
邪魔者によって。
「お兄ちゃんに何してるの?」
返事をしない楠にイラついたような言い方をする彼女。おそらく奏斗の妹、風花だ。
「どうみても、壁ドンじゃない?」
とにっこり微笑んで見せる楠だったが、その笑顔は風花には通用しなかった。
「お兄ちゃん女好きだから、口説いても無駄だと思うけど」
と、じっと楠を見つめ。
「ちょっと待て、風花。いつから俺が女好きになったんだよ」
慌てる奏斗。
「じゃあ、男好き? 女好きでしょ?」
「なんだ、その二択は」
不服そうな奏斗に、ヤレヤレという仕草をする彼女。そんな二人を楠は面白そうに眺めていた。
──口説いても無駄、ね。
女と上手くいかなくなったなら、押せばいけそうな気がしたのに。
実際、奏斗は動揺していたはずだ。心に揺さぶりをかけ、自分に向け良いように利用しようと思っていた。少なくとも爽一は、彼に興味を持っている。
分かりやすい、あの人のことだ。心の声なんて駄々洩れなのに、隠しているつもりでいる。
──白石がホントに男に興味ないならいいが。
案外こういうタイプはどっちもイケるんだよなと、ぼんやり思った。そもそも今どき、どちらの性と恋愛しようが偏見を持つ者はいない。
そうなると、好みはあるだろうが、自分を理解してくれる者が特別になることはそう難しいことじゃない。しかも、奏斗がライバルじゃ勝てる気がしない。
人は、放って置いても大丈夫な人間を、気にかけたりなんてしない。奏斗のように一見強そうに見えて脆く、人と距離を置くような人間を心配するのだ。
教員ならば、群れからあぶれた子羊に、愛の手を差し伸べたいと思うのは当然だ。それが仕事なのだから。
──さて、どうしたもんかね。
「何してたんだよ」
廊下に出ると、待ってくれているとは思わなかった奏斗が、腕組みをし壁に寄り掛かってこちらを見ていた。
「へえ、待っててくれるんだ」
「まあ」
”一緒に行きたいと言ったのは、そっちだろ”と怪訝な表情をする彼の肩をポンと叩き、先に歩き出す楠。
「風花ちゃんとは、どこで待ち合わせ?」
奏斗の妹、風花は同じK学園高等部の一年である。
「正門。つうか、待たせて置いて先に行くとか、どういう神経してるんだよ」
彼は不服そうだ。そんな彼を、楠はいい奴だなと思った。自分が彼に近づいたのには理由がある。
もちろん、風花目的ではない。
──岸倉先生と仲が良いと聞いたからだ。
教師の岸倉と言えば、人気こそないものの評判がいい。
特に身に覚えのない良くない噂をされる生徒から、信頼が厚かった。K学園はマンモス校だ。たくさんの教員がおり、しかも新米教師など埋もれてしまう。
そんな中、際立って評価されている教師がどんな人物なのか興味が湧いた。
──実際会ってみたら、ルックスはいいが頼りなさそうで、何考えてるのか分かりやすい人だったがな。
すると今度は、その教師と仲のいい奏斗にも興味を持ったのだった。
何ゆえに、あの人のよさそうな教師に懐いているのか。
白石 奏斗と言えば一見チャラそうに見えて一途らしく、告白してくる女子を振りまくり、彼女たちに恨まれた挙句、悪い噂ばかり流されている世渡りの下手そうな男子生徒である。そして、妹に甘いらしい。
「早く来いよ、短足」
「誰が短足だ」
ムッとしながらもついてくる彼を振り返ると、女子たちが彼を見てうっとりとしていた。
──こんな世渡り下手な男が何でモテるんだ?
ますます謎は深まるばかり。
「白石くん」
彼が呼び止められたので楠が立ち止まると、女子に気を取られていた彼が背中にぶつかる。
「おい、楠。急に立ち止まるなよ」
「前見て歩けよ。いくら女子のスカートが短いからって、見惚れてるお前が悪い」
「なっ!」
理不尽なことを言われて、眉を寄せる奏斗。
「いつ、俺がっ」
──先生は白石のどんなところが好きなんだろう?
じーっと見つめていると、彼がたじろいた。
「お前、さっきからなんなんだよ」
という彼の言葉に、
「ヤキモチかな」
と返す楠。
「は?」
二人のやり取りを聞いていた女子生徒が、
「あの、二人って付き合ってるんですか?」
と場違いな質問をした。
──女ってこの手の話好きだよな。
でも白石が落ち着いたら、先生は俺の方も見てくれるんかな?
白石には悪いが、利用させてもらうよ。
「さあねえ? どう見える?」
と楠は悪戯っぽく笑うと、彼の手を掴み歩き出したのだった。
「ちょっ、楠っ」
──俺の駒になってよ、白石。
「お前、ほんとさぁ! さっきから、意味わかんねーし」
ぶんっと腕を上下に振り、楠の手を振り払い立ち止まる奏斗に、楠は目を細める。
「白石と仲良くなりたいだけだが?」
「はぁ?」
彼からすれば嫌がらせでしかない、一連の出来事。
「白石も、そんな顔するんだな」
無表情とまではいわないが、普段はクールに見える奏斗。
表情が良く変わるのは、爽一と一緒に居るときと、妹の相手をしている時だけだと気づいた。それでも彼は、困ったような泣きたいような、複雑な表情をすることはない。
「どんな顔だよ」
「イジメたくなる顔」
トンっと指先で押しやれば、彼は壁に背中をぶつける。
「油断しすぎなんじゃないのか?」
楠は、彼の顔の横に手をつくと、彼の逃げ場を塞いだ。
じっとこちらを睨みつける様を可愛いと思うのだから、自分は異常だなと、楠は思う。
「何してるの?」
しかし、楠の独壇場はいとも簡単に壊される。
邪魔者によって。
「お兄ちゃんに何してるの?」
返事をしない楠にイラついたような言い方をする彼女。おそらく奏斗の妹、風花だ。
「どうみても、壁ドンじゃない?」
とにっこり微笑んで見せる楠だったが、その笑顔は風花には通用しなかった。
「お兄ちゃん女好きだから、口説いても無駄だと思うけど」
と、じっと楠を見つめ。
「ちょっと待て、風花。いつから俺が女好きになったんだよ」
慌てる奏斗。
「じゃあ、男好き? 女好きでしょ?」
「なんだ、その二択は」
不服そうな奏斗に、ヤレヤレという仕草をする彼女。そんな二人を楠は面白そうに眺めていた。
──口説いても無駄、ね。
女と上手くいかなくなったなら、押せばいけそうな気がしたのに。
実際、奏斗は動揺していたはずだ。心に揺さぶりをかけ、自分に向け良いように利用しようと思っていた。少なくとも爽一は、彼に興味を持っている。
分かりやすい、あの人のことだ。心の声なんて駄々洩れなのに、隠しているつもりでいる。
──白石がホントに男に興味ないならいいが。
案外こういうタイプはどっちもイケるんだよなと、ぼんやり思った。そもそも今どき、どちらの性と恋愛しようが偏見を持つ者はいない。
そうなると、好みはあるだろうが、自分を理解してくれる者が特別になることはそう難しいことじゃない。しかも、奏斗がライバルじゃ勝てる気がしない。
人は、放って置いても大丈夫な人間を、気にかけたりなんてしない。奏斗のように一見強そうに見えて脆く、人と距離を置くような人間を心配するのだ。
教員ならば、群れからあぶれた子羊に、愛の手を差し伸べたいと思うのは当然だ。それが仕事なのだから。
──さて、どうしたもんかね。
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