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0章──それが恋に変わる時
1・懲りない自分
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****♡Side・爽一(教師)
『先生、大崎は止めておいた方がいいですよ』
そんなことは分かっている。
彼には想い人がいて、彼女もいる。自分がどんなに片思いしたところで報われはしないし、それ以前に教師と生徒という禁断の関係だ。しかも未成年。成人年齢が下がろうとも、十八歳未満に手を出したら犯罪だ。
──いや、決して……手を出そうとかじゃ……。
待て待て、誰に言い訳してるんだ俺は。
爽一は狭い教科準備室で、机に向かい頭を抱えた。犯罪まがいの恋をし、とうとう頭がイカれたかと悲しい気持ちになる。
『そ、そんなこと……君に言われなくても、わ……分かってる』
──なんであんなことを言ってしまったのだろう?
あれでは、認めたようなものではないか。
ああああああッ。
俺の馬鹿野郎!
『すみません、余計なこと言って』
悪いのは、楠ではないことくらい分かっている。彼はただ心配してくれただけなのだ。それに、その言葉には”あんた、犯罪ですぜ!げへへ”という感情は感じられなかった。
『あ……いや。こっちもすまない』
何故生徒相手にこんなに動揺してしまうのか。
やはり、自分に疚しい気持ちがあったからだろうか。
────うん?
いや、もちろんそんな早まったことはしない。
”ちゃんと卒業まで待つしな”と思ったところで、爽一はガンッと机に額を打ち付けた。
「ダメだろ! 俺」
顔を上げ、額を抑える。
「うう……痛い」
思った以上に強く打ち付けてしまったらしい。
「先生、大丈夫?」
「!!」
いつの間に居たのだろうか?
「し……白石! いつからそこに⁈」
K学園には美形で有名な生徒がいるため、彼はそんなに目立った方ではないが、整った顔立ちに金髪をし制服を着崩した彼は”白石《しらいし》 奏斗《かなと》”という。
──少なくとも、俺にとっては好みのタ……。
煩悩よ、去れ。
奏斗は他校の女生徒と交際していたが別れて以降、遊び人という噂を流されていた。
見た目はチャラいが真面目で成績もよく、面倒見もよい。詳しいことは知らないが、奏斗に告白して振られた女生徒が、腹いせに彼の良くない噂を流しているとのことを大崎 圭一から聞いたことがあった。
噂ではなく、彼の方を信じた爽一は、奏斗から気に入られている。よく準備室に顔を出すのもそのせいだ。
「どこから見てたんだよ、声かけろよ」
「大丈夫ですよ。よく妹も奇声あげながら、壁に額打ち付けていますから」
──そんなの、全然大丈夫じゃない。
大丈夫か? 白石妹。
「先生、楠と仲いいんですか?」
何故彼が、そんなことをあえて問うのか分からない。嫉妬ではないのは確かだ。
楠という言葉を聞き、爽一は彼から言われた言葉を思い出してしまった。
『先生。大崎なんかやめて、俺にしときなよ』
──あれは、冗談だ。元気づけるために言ってくれただけ。
自惚れるな、俺。
「先生、赤くなってるけど大丈夫ですか?」
爽一は再び道を踏み外そうとしているのだった。
「白石は、なんだ……その、楠とは仲がいいのか?」
何故しどろもどろになってしまうのか。
何故、楠のことを聞こうとしているだけで、こんなにも緊張するのか。
やはり、自分は疚しいのか。
──なんでもいいが、挙動不審すぎるぞ! 俺。
「アイツ、何かしたんですか?」
と不思議そうな奏斗。
当然である。いきなり身辺捜査など始めれば、誰だって不思議がるし、不審だろう。
「まだ、何も」
──まだってなんだ!
まるで、何かされたいみたいじゃないか。
爽一は心の中で頭を抱える。ちょっと好みのタイプに優しい言葉をかけられたからと言って、心がかき乱され過ぎだ。
「楠は俺と違って、見た目も真面目だから疑われることはないとは思うけど」
と奏斗はじっと爽一を見つめ、
「まあ、岸倉先生なら噂だけで生徒を判断しませんよね」
と目を細めた。
──ぬあッ!
イケメンの笑顔は破壊力半端ないな。
って、こんなに信頼されているのに、何故俺は煩悩に支配されているんだ!
「ありがとう、白石。信頼してくれて嬉しいよ」
爽一は心の声が外に出ないよう、細心の注意を払い微笑んだ。
「また何か変な噂でもあって、調べてるんですか?」
「あ、ま、まあ」
余計なことを言えば、墓穴を掘りかねない。かと言って否定すれば、話を聞く機会を失う。爽一が曖昧な返答をすると、彼は何かを察したようで、
「すみません、先生には守秘義務がありましたね」
と引いた。
彼は噂とは異なり、聡明だ。
「えっと、楠の何をお知りになりたいのですか?」
一所懸命言葉を選び、失礼が無いようにと配慮する彼。しかし爽一は、彼の両肩をガシッと掴むと、
「なんでもいい! 知ってることを教えてくれ」
と全力で食いついた。
──なんだ俺は。
いつから探偵になったんだ。
『先生、大崎は止めておいた方がいいですよ』
そんなことは分かっている。
彼には想い人がいて、彼女もいる。自分がどんなに片思いしたところで報われはしないし、それ以前に教師と生徒という禁断の関係だ。しかも未成年。成人年齢が下がろうとも、十八歳未満に手を出したら犯罪だ。
──いや、決して……手を出そうとかじゃ……。
待て待て、誰に言い訳してるんだ俺は。
爽一は狭い教科準備室で、机に向かい頭を抱えた。犯罪まがいの恋をし、とうとう頭がイカれたかと悲しい気持ちになる。
『そ、そんなこと……君に言われなくても、わ……分かってる』
──なんであんなことを言ってしまったのだろう?
あれでは、認めたようなものではないか。
ああああああッ。
俺の馬鹿野郎!
『すみません、余計なこと言って』
悪いのは、楠ではないことくらい分かっている。彼はただ心配してくれただけなのだ。それに、その言葉には”あんた、犯罪ですぜ!げへへ”という感情は感じられなかった。
『あ……いや。こっちもすまない』
何故生徒相手にこんなに動揺してしまうのか。
やはり、自分に疚しい気持ちがあったからだろうか。
────うん?
いや、もちろんそんな早まったことはしない。
”ちゃんと卒業まで待つしな”と思ったところで、爽一はガンッと机に額を打ち付けた。
「ダメだろ! 俺」
顔を上げ、額を抑える。
「うう……痛い」
思った以上に強く打ち付けてしまったらしい。
「先生、大丈夫?」
「!!」
いつの間に居たのだろうか?
「し……白石! いつからそこに⁈」
K学園には美形で有名な生徒がいるため、彼はそんなに目立った方ではないが、整った顔立ちに金髪をし制服を着崩した彼は”白石《しらいし》 奏斗《かなと》”という。
──少なくとも、俺にとっては好みのタ……。
煩悩よ、去れ。
奏斗は他校の女生徒と交際していたが別れて以降、遊び人という噂を流されていた。
見た目はチャラいが真面目で成績もよく、面倒見もよい。詳しいことは知らないが、奏斗に告白して振られた女生徒が、腹いせに彼の良くない噂を流しているとのことを大崎 圭一から聞いたことがあった。
噂ではなく、彼の方を信じた爽一は、奏斗から気に入られている。よく準備室に顔を出すのもそのせいだ。
「どこから見てたんだよ、声かけろよ」
「大丈夫ですよ。よく妹も奇声あげながら、壁に額打ち付けていますから」
──そんなの、全然大丈夫じゃない。
大丈夫か? 白石妹。
「先生、楠と仲いいんですか?」
何故彼が、そんなことをあえて問うのか分からない。嫉妬ではないのは確かだ。
楠という言葉を聞き、爽一は彼から言われた言葉を思い出してしまった。
『先生。大崎なんかやめて、俺にしときなよ』
──あれは、冗談だ。元気づけるために言ってくれただけ。
自惚れるな、俺。
「先生、赤くなってるけど大丈夫ですか?」
爽一は再び道を踏み外そうとしているのだった。
「白石は、なんだ……その、楠とは仲がいいのか?」
何故しどろもどろになってしまうのか。
何故、楠のことを聞こうとしているだけで、こんなにも緊張するのか。
やはり、自分は疚しいのか。
──なんでもいいが、挙動不審すぎるぞ! 俺。
「アイツ、何かしたんですか?」
と不思議そうな奏斗。
当然である。いきなり身辺捜査など始めれば、誰だって不思議がるし、不審だろう。
「まだ、何も」
──まだってなんだ!
まるで、何かされたいみたいじゃないか。
爽一は心の中で頭を抱える。ちょっと好みのタイプに優しい言葉をかけられたからと言って、心がかき乱され過ぎだ。
「楠は俺と違って、見た目も真面目だから疑われることはないとは思うけど」
と奏斗はじっと爽一を見つめ、
「まあ、岸倉先生なら噂だけで生徒を判断しませんよね」
と目を細めた。
──ぬあッ!
イケメンの笑顔は破壊力半端ないな。
って、こんなに信頼されているのに、何故俺は煩悩に支配されているんだ!
「ありがとう、白石。信頼してくれて嬉しいよ」
爽一は心の声が外に出ないよう、細心の注意を払い微笑んだ。
「また何か変な噂でもあって、調べてるんですか?」
「あ、ま、まあ」
余計なことを言えば、墓穴を掘りかねない。かと言って否定すれば、話を聞く機会を失う。爽一が曖昧な返答をすると、彼は何かを察したようで、
「すみません、先生には守秘義務がありましたね」
と引いた。
彼は噂とは異なり、聡明だ。
「えっと、楠の何をお知りになりたいのですか?」
一所懸命言葉を選び、失礼が無いようにと配慮する彼。しかし爽一は、彼の両肩をガシッと掴むと、
「なんでもいい! 知ってることを教えてくれ」
と全力で食いついた。
──なんだ俺は。
いつから探偵になったんだ。
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