上 下
3 / 51
0章──それが恋に変わる時

1・懲りない自分

しおりを挟む
****♡Side・爽一(教師)

『先生、大崎は止めておいた方がいいですよ』
 そんなことは分かっている。
 彼には想い人がいて、彼女もいる。自分がどんなに片思いしたところで報われはしないし、それ以前に教師と生徒という禁断の関係だ。しかも未成年。成人年齢が下がろうとも、十八歳未満に手を出したら犯罪だ。

──いや、決して……手を出そうとかじゃ……。
 待て待て、誰に言い訳してるんだ俺は。

 爽一は狭い教科準備室で、机に向かい頭を抱えた。犯罪まがいの恋をし、とうとう頭がイカれたかと悲しい気持ちになる。
『そ、そんなこと……君に言われなくても、わ……分かってる』

──なんであんなことを言ってしまったのだろう?
 あれでは、認めたようなものではないか。
 ああああああッ。
 俺の馬鹿野郎!

『すみません、余計なこと言って』
 悪いのは、楠ではないことくらい分かっている。彼はただ心配してくれただけなのだ。それに、その言葉には”あんた、犯罪ですぜ!げへへ”という感情は感じられなかった。
『あ……いや。こっちもすまない』
 何故生徒相手にこんなに動揺してしまうのか。
 やはり、自分に疚しい気持ちがあったからだろうか。

────うん?
 いや、もちろんそんな早まったことはしない。

 ”ちゃんと卒業まで待つしな”と思ったところで、爽一はガンッと机に額を打ち付けた。
「ダメだろ! 俺」
 顔を上げ、額を抑える。
「うう……痛い」
 思った以上に強く打ち付けてしまったらしい。
「先生、大丈夫?」
「!!」
 いつの間に居たのだろうか?
「し……白石! いつからそこに⁈」
 K学園には美形で有名な生徒がいるため、彼はそんなに目立った方ではないが、整った顔立ちに金髪をし制服を着崩した彼は”白石《しらいし》 奏斗《かなと》”という。

──少なくとも、俺にとっては好みのタ……。
 煩悩よ、去れ。

 奏斗は他校の女生徒と交際していたが別れて以降、遊び人という噂を流されていた。
 見た目はチャラいが真面目で成績もよく、面倒見もよい。詳しいことは知らないが、奏斗に告白して振られた女生徒が、腹いせに彼の良くない噂を流しているとのことを大崎 圭一から聞いたことがあった。
 噂ではなく、彼の方を信じた爽一は、奏斗から気に入られている。よく準備室に顔を出すのもそのせいだ。
「どこから見てたんだよ、声かけろよ」
「大丈夫ですよ。よく妹も奇声あげながら、壁に額打ち付けていますから」

──そんなの、全然大丈夫じゃない。
 大丈夫か? 白石妹。

「先生、楠と仲いいんですか?」
 何故彼が、そんなことをあえて問うのか分からない。嫉妬ではないのは確かだ。
 楠という言葉を聞き、爽一は彼から言われた言葉を思い出してしまった。

『先生。大崎なんかやめて、俺にしときなよ』

──あれは、冗談だ。元気づけるために言ってくれただけ。
 自惚れるな、俺。

「先生、赤くなってるけど大丈夫ですか?」
 爽一は再び道を踏み外そうとしているのだった。


「白石は、なんだ……その、楠とは仲がいいのか?」
 何故しどろもどろになってしまうのか。
 何故、楠のことを聞こうとしているだけで、こんなにも緊張するのか。
 やはり、自分は疚しいのか。

──なんでもいいが、挙動不審すぎるぞ! 俺。

「アイツ、何かしたんですか?」
と不思議そうな奏斗。
 当然である。いきなり身辺捜査など始めれば、誰だって不思議がるし、不審だろう。
「まだ、何も」

──まだってなんだ!
 まるで、何かされたいみたいじゃないか。

 爽一は心の中で頭を抱える。ちょっと好みのタイプに優しい言葉をかけられたからと言って、心がかき乱され過ぎだ。
「楠は俺と違って、見た目も真面目だから疑われることはないとは思うけど」
と奏斗はじっと爽一を見つめ、
「まあ、岸倉先生なら噂だけで生徒を判断しませんよね」
と目を細めた。

──ぬあッ!
 イケメンの笑顔は破壊力半端ないな。
 って、こんなに信頼されているのに、何故俺は煩悩に支配されているんだ!

「ありがとう、白石。信頼してくれて嬉しいよ」
 爽一は心の声が外に出ないよう、細心の注意を払い微笑んだ。
「また何か変な噂でもあって、調べてるんですか?」
「あ、ま、まあ」
 余計なことを言えば、墓穴を掘りかねない。かと言って否定すれば、話を聞く機会を失う。爽一が曖昧な返答をすると、彼は何かを察したようで、
「すみません、先生には守秘義務がありましたね」
と引いた。
 彼は噂とは異なり、聡明だ。
「えっと、楠の何をお知りになりたいのですか?」
 一所懸命言葉を選び、失礼が無いようにと配慮する彼。しかし爽一は、彼の両肩をガシッと掴むと、
「なんでもいい! 知ってることを教えてくれ」
と全力で食いついた。

──なんだ俺は。
 いつから探偵になったんだ。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

この先は君だけだと言われましても

恋愛 / 完結 24h.ポイント:63pt お気に入り:350

その目が嫌い

恋愛 / 完結 24h.ポイント:589pt お気に入り:13

カテゴリー

BL / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:14

陽の光の下を、貴方と二人で

BL / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:176

アネモネの花

BL / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:26

私の理想の異世界チート

ety
恋愛 / 連載中 24h.ポイント:21pt お気に入り:729

Blue Destiny

BL / 連載中 24h.ポイント:21pt お気に入り:232

転生夫婦~乙女ゲーム編~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:25

転生したら同性から性的な目で見られている俺の冒険紀行

BL / 連載中 24h.ポイント:42pt お気に入り:970

処理中です...