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4話『互いを知るために』
3・穏やかな日常
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****♡Side・塩田
「スーツに大剣って……らしいと言えばらしいね」
「ん? ああ、そうだな」
十時の休憩。塩田の操作するスマホを覗き込む電車。
「にしても、副社長慣れるの早いよね」
「なんか下の妹弟の相手してたらしいから」
「そんじゃ、板井のところと一緒だ」
元は同期での交流を兼ねて始めたオンラインゲームである。
操作キャラであるアバターの衣類と装備の枠が別となっており、任意でどちらを見た目に選ぶか決められるシステムが売りのRPG。
最大八人でパーティを組むことが出来、ソロでも十分楽しめることから学生にも社会人にも幅広く愛されているゲームの一つ。
特に見た目となる衣類分類はパラメーターの変化が起きないことから、毎日十回の無料ガチャが引ける仕様。ダブったものを交換したりと、お財布にも優しい。
「副社長はゲームの中でもお洒落だねえ」
「お洒落……俺たちには無縁の言葉だな」
「何言ってんの、塩田。バナナが一本あればそれでいいんだよ」
「どこにつけ……いや、言うな」
嫌な予感がして思わず手で電車の口を塞ぐ塩田。
「むぐぐ。塩田の手、いい匂い」
「ヤメロ」
こんなところを皇に見られたら面倒である。
「おい。堂々と俺様の恋人とイチャイチャするとはいい度胸だな、電車」
「うおっ。副社長いつの間に」
心の中で言わんこっちゃないと思っていた塩田だが、意外と電車が動じないことを知っているので黙っていることにした。
触らぬ神に祟りなしである。
「そんなことより、副社長だいぶレベルあがったね」
電車のマイペースっぷりは健在だ。
「”そんなこと”言うな!」
”これは重要なことだぞ”とぷんすかする皇に笑いそうになるも耐える塩田。
「随分と賑やかだな」
声のする方に目をやれば一階の購買に行っていた課長唯野と同僚板井が苦情系の入り口から中へ入ってくるところだった。
「おかえり」
電車は相変わらずニコニコしながら二人に声をかける。
「新作のスイーツがあったので買ってきましたよ、人数分」
板井は皇のことを意識してか丁寧語でそう発し、そのまま給湯室へ飲み物を入れに行ってしまった。代わりにスイーツのカップを三人の前に置いてくれる唯野。
「なにこれ、バナナプリン?! うまそッ」
案の定、バナナ好きの電車はハイテンションになった。
”ご馳走様”と礼を述べる皇にならい、礼を述べる塩田。
「そう言えば、地域によっては”ご馳走様”が伝わらないところがあるって知ってた?」
と電車。
「へえ?」
「まだ食べてないのに”ご馳走様”は変に感じるらしい」
「なるほど。ご馳走になりますって意味なんだが、言われてみれば変かもしれないな」
と皇。
──へえ、まったりしていてチーズケーキみたいな感じだな。
「ところで塩田」
電車と地域での言葉の意味の違いについて語り合っていた皇に突然話を振られ、
「ん?」
と顔を上げる塩田。
「帰りに駅前の焼き鳥屋に寄ってもいいかな」
平日は家でご飯を食べたいと言ったせいか、”持ち帰りで”と一言添える彼。
「うん」
律儀だなと思いつつ頷けば、可愛いと言われてしまう。
いつになく穏やかな一日を過ごし、約束通り駅前の焼き鳥屋に寄った。
会社から駅までは徒歩五分。しかし塩田のマンションとは方向が異なるため、会社帰りに駅に向かうのは稀だ。
車から降りた皇に手を差し出され、素直にそれを掴む塩田。
よく考えれば、仕事帰りは車か別々という二択しかないため手を繋ぐことが出来るのはマンションに着いてからの数分だけ。
恋人同士が手を繋ぐのはそう変わったことではないが、ほんの少しの時間でも手を繋ごうとする皇に感じるものがあった。
ほんの少しの時間ならあえて手を繋ぐ必要がないと感じる者もいるだろう。
そう言えば、と思う。彼には以前社内に婚約者がいたが、その彼女と一緒にいるところを見かけたことがない。元からドライな関係だったのかもしれないが、彼が自己申告するまでそんな相手がいるとは信じられないほどに。
自分は恋人として大切にされているのかなと思うと、口元の綻ぶ塩田であった。
「スーツに大剣って……らしいと言えばらしいね」
「ん? ああ、そうだな」
十時の休憩。塩田の操作するスマホを覗き込む電車。
「にしても、副社長慣れるの早いよね」
「なんか下の妹弟の相手してたらしいから」
「そんじゃ、板井のところと一緒だ」
元は同期での交流を兼ねて始めたオンラインゲームである。
操作キャラであるアバターの衣類と装備の枠が別となっており、任意でどちらを見た目に選ぶか決められるシステムが売りのRPG。
最大八人でパーティを組むことが出来、ソロでも十分楽しめることから学生にも社会人にも幅広く愛されているゲームの一つ。
特に見た目となる衣類分類はパラメーターの変化が起きないことから、毎日十回の無料ガチャが引ける仕様。ダブったものを交換したりと、お財布にも優しい。
「副社長はゲームの中でもお洒落だねえ」
「お洒落……俺たちには無縁の言葉だな」
「何言ってんの、塩田。バナナが一本あればそれでいいんだよ」
「どこにつけ……いや、言うな」
嫌な予感がして思わず手で電車の口を塞ぐ塩田。
「むぐぐ。塩田の手、いい匂い」
「ヤメロ」
こんなところを皇に見られたら面倒である。
「おい。堂々と俺様の恋人とイチャイチャするとはいい度胸だな、電車」
「うおっ。副社長いつの間に」
心の中で言わんこっちゃないと思っていた塩田だが、意外と電車が動じないことを知っているので黙っていることにした。
触らぬ神に祟りなしである。
「そんなことより、副社長だいぶレベルあがったね」
電車のマイペースっぷりは健在だ。
「”そんなこと”言うな!」
”これは重要なことだぞ”とぷんすかする皇に笑いそうになるも耐える塩田。
「随分と賑やかだな」
声のする方に目をやれば一階の購買に行っていた課長唯野と同僚板井が苦情系の入り口から中へ入ってくるところだった。
「おかえり」
電車は相変わらずニコニコしながら二人に声をかける。
「新作のスイーツがあったので買ってきましたよ、人数分」
板井は皇のことを意識してか丁寧語でそう発し、そのまま給湯室へ飲み物を入れに行ってしまった。代わりにスイーツのカップを三人の前に置いてくれる唯野。
「なにこれ、バナナプリン?! うまそッ」
案の定、バナナ好きの電車はハイテンションになった。
”ご馳走様”と礼を述べる皇にならい、礼を述べる塩田。
「そう言えば、地域によっては”ご馳走様”が伝わらないところがあるって知ってた?」
と電車。
「へえ?」
「まだ食べてないのに”ご馳走様”は変に感じるらしい」
「なるほど。ご馳走になりますって意味なんだが、言われてみれば変かもしれないな」
と皇。
──へえ、まったりしていてチーズケーキみたいな感じだな。
「ところで塩田」
電車と地域での言葉の意味の違いについて語り合っていた皇に突然話を振られ、
「ん?」
と顔を上げる塩田。
「帰りに駅前の焼き鳥屋に寄ってもいいかな」
平日は家でご飯を食べたいと言ったせいか、”持ち帰りで”と一言添える彼。
「うん」
律儀だなと思いつつ頷けば、可愛いと言われてしまう。
いつになく穏やかな一日を過ごし、約束通り駅前の焼き鳥屋に寄った。
会社から駅までは徒歩五分。しかし塩田のマンションとは方向が異なるため、会社帰りに駅に向かうのは稀だ。
車から降りた皇に手を差し出され、素直にそれを掴む塩田。
よく考えれば、仕事帰りは車か別々という二択しかないため手を繋ぐことが出来るのはマンションに着いてからの数分だけ。
恋人同士が手を繋ぐのはそう変わったことではないが、ほんの少しの時間でも手を繋ごうとする皇に感じるものがあった。
ほんの少しの時間ならあえて手を繋ぐ必要がないと感じる者もいるだろう。
そう言えば、と思う。彼には以前社内に婚約者がいたが、その彼女と一緒にいるところを見かけたことがない。元からドライな関係だったのかもしれないが、彼が自己申告するまでそんな相手がいるとは信じられないほどに。
自分は恋人として大切にされているのかなと思うと、口元の綻ぶ塩田であった。
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