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4話『互いを知るために』
1・がんばれ塩田
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****♡Side・塩田
『思っているだけでは伝わらない。なるべく言葉にする』
それはきっと当たり前のことに違いない。
この世には、エスパーはなかなかいないのだから。
「そんなわけで、コミュニケーション能力の高いお前に協力して欲しいんだが」
「え?!」
突然の塩田の申し出に、バナナを咥えていた電車が素っ頓狂な声を上げる。
「これは残念なお知らせだ。どうやら皇はエスパーではないらしい」
「それは残念なお知らせなのか?」
眉を寄せ、複雑な表情をしている電車。
「残念以外のなんだというんだ」
塩田はPCを立ち上げながら、カフェオレに手を伸ばす。
ふと向かい斜めの席に座っていた同僚の板井と目が合う。彼の目は明らかに笑っていた。”相変わらずおかし気な話をしているな”とでも言いたそうに。
「いつもお客さんとどんな話しているんだよ」
苦情係の主な仕事は電話対応とデータのまとめ。データに関しては他部署の手伝いも行っているため、そのスタイルは多岐に渡るが。
電話対応に関してはそんなに変わり映えはしない。
特に苦情に関してのみ言えば、悪質クレーマーのみこちらに回ってくるので、相手はほぼ常連。
クレーマーには何種かあり、クレームをつけて何等かの得をしようと考えるタイプや腹いせというものもあれば、暇つぶしというケースもある。
前者の二ケースについては株原は強い。
裁判を起こして解決することもある。
しかし問題は後者。
暇つぶしにクレームの電話をかけてくる相手と言うのは、何か文句を言いたいだけなのだ。つまり話し相手が欲しいだけ。
つまり、我が社『株原』の苦情係ではこのタイプのクレーマーの相手をしているのである。
苦情係ができ、塩田が電話対応するようになってからはこの手のクレーマーは激減した。その代わり、毎日同じ客から電話がかかってくるようになったが。
そんな彼らと塩田は世間話をしていた。
彼らはある程度話し相手をすれば満足して切っていく。
「大した話はしてない。株原の新商品の話とか、今月の特売の話とか」
一応会社に関係した話ではあるのだと感心する電車。
「商品の感想とかも」
「へえ。結構話し慣れてるじゃない。なんで副社長とはコミュニケーション取らないのさ」
電車の疑問は最もだとは思うのだが。
「株原の話しても面白くないだろ」
「え」
塩田の返答に一瞬固まる彼。そんな彼とはゲーム仲間だったりもする。
コミュニケーションがとり辛い相手が恋人の皇だけだというのは、確かにオカシイのかもしれない。
「そもそも、恋人とは何を話すものなんだ?」
「そこからなの……」
困った表情をする彼。
「塩田は副社長のこと好きなんだよね?」
「ああ、そうだが?」
「なら、何か知りたいこととかないの?」
「特には」
”誕生日がいつ”というのはカレンダーに記載してあるし、”怪我をして輸血”となった時のために血液型などはきちんとカードに記載されている。
住居については同棲しているのであえて聞く必要はない。
職場は同じため、どんな仕事しているのかも知っている。
彼の好きな食べ物や嫌いな食べ物についてはあえて聞かなくても、一緒に食事に行くうちになんとなくわかっていた。
「今更聞く必要がないというわけで、興味がないというのとは違うからな」
誤解されても面倒なのであらかじめ釘を刺しておく。
「じゃあ、塩田が今一番知りたいことは?」
と電車。
「今度のイベントのボス戦の攻略法だ」
彼の質問に即答した塩田。
電車はやれやれと肩を竦める。
「じゃあさ、もう副社長と別れて俺とつき合えば? そしたら話も合うし、話題にも困らないでしょ」
「うーん?」
”今、何か解決したのか?”というように首を傾げた塩田。
背後に魔王が迫っていることにも気づかずに。
「おい、貴様。何、俺様の恋人を堂々と口説いているんだ。そこに直れ、電車!」
「うお、いつの間に」
「あ、皇。いいところに」
状況はカオスと化していたのだった。
『思っているだけでは伝わらない。なるべく言葉にする』
それはきっと当たり前のことに違いない。
この世には、エスパーはなかなかいないのだから。
「そんなわけで、コミュニケーション能力の高いお前に協力して欲しいんだが」
「え?!」
突然の塩田の申し出に、バナナを咥えていた電車が素っ頓狂な声を上げる。
「これは残念なお知らせだ。どうやら皇はエスパーではないらしい」
「それは残念なお知らせなのか?」
眉を寄せ、複雑な表情をしている電車。
「残念以外のなんだというんだ」
塩田はPCを立ち上げながら、カフェオレに手を伸ばす。
ふと向かい斜めの席に座っていた同僚の板井と目が合う。彼の目は明らかに笑っていた。”相変わらずおかし気な話をしているな”とでも言いたそうに。
「いつもお客さんとどんな話しているんだよ」
苦情係の主な仕事は電話対応とデータのまとめ。データに関しては他部署の手伝いも行っているため、そのスタイルは多岐に渡るが。
電話対応に関してはそんなに変わり映えはしない。
特に苦情に関してのみ言えば、悪質クレーマーのみこちらに回ってくるので、相手はほぼ常連。
クレーマーには何種かあり、クレームをつけて何等かの得をしようと考えるタイプや腹いせというものもあれば、暇つぶしというケースもある。
前者の二ケースについては株原は強い。
裁判を起こして解決することもある。
しかし問題は後者。
暇つぶしにクレームの電話をかけてくる相手と言うのは、何か文句を言いたいだけなのだ。つまり話し相手が欲しいだけ。
つまり、我が社『株原』の苦情係ではこのタイプのクレーマーの相手をしているのである。
苦情係ができ、塩田が電話対応するようになってからはこの手のクレーマーは激減した。その代わり、毎日同じ客から電話がかかってくるようになったが。
そんな彼らと塩田は世間話をしていた。
彼らはある程度話し相手をすれば満足して切っていく。
「大した話はしてない。株原の新商品の話とか、今月の特売の話とか」
一応会社に関係した話ではあるのだと感心する電車。
「商品の感想とかも」
「へえ。結構話し慣れてるじゃない。なんで副社長とはコミュニケーション取らないのさ」
電車の疑問は最もだとは思うのだが。
「株原の話しても面白くないだろ」
「え」
塩田の返答に一瞬固まる彼。そんな彼とはゲーム仲間だったりもする。
コミュニケーションがとり辛い相手が恋人の皇だけだというのは、確かにオカシイのかもしれない。
「そもそも、恋人とは何を話すものなんだ?」
「そこからなの……」
困った表情をする彼。
「塩田は副社長のこと好きなんだよね?」
「ああ、そうだが?」
「なら、何か知りたいこととかないの?」
「特には」
”誕生日がいつ”というのはカレンダーに記載してあるし、”怪我をして輸血”となった時のために血液型などはきちんとカードに記載されている。
住居については同棲しているのであえて聞く必要はない。
職場は同じため、どんな仕事しているのかも知っている。
彼の好きな食べ物や嫌いな食べ物についてはあえて聞かなくても、一緒に食事に行くうちになんとなくわかっていた。
「今更聞く必要がないというわけで、興味がないというのとは違うからな」
誤解されても面倒なのであらかじめ釘を刺しておく。
「じゃあ、塩田が今一番知りたいことは?」
と電車。
「今度のイベントのボス戦の攻略法だ」
彼の質問に即答した塩田。
電車はやれやれと肩を竦める。
「じゃあさ、もう副社長と別れて俺とつき合えば? そしたら話も合うし、話題にも困らないでしょ」
「うーん?」
”今、何か解決したのか?”というように首を傾げた塩田。
背後に魔王が迫っていることにも気づかずに。
「おい、貴様。何、俺様の恋人を堂々と口説いているんだ。そこに直れ、電車!」
「うお、いつの間に」
「あ、皇。いいところに」
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