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3話『慣れない日々と愛しい君』
8・彼の望むもの
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****♡Side・副社長(皇)
──参ったな。
どうやら愛しい恋人を怒らせてしまったらしい。
スマホを何度も気にする皇に企画部の者は心配そうな視線を向ける。
「副社長」
「ん?」
「何か用があったのでは?」
書類に目を落とす皇に気遣う声。
「そういうわけではないが、これを確認したら帰るよ」
極めて穏やかに告げ、笑みを浮かべる皇。そこに待ちわびた恋人からのメッセージ。
──あまり機嫌が良くなさそうだな。
メッセージを確認した皇は心の中でため息を付き、再び書類に視線を戻す。
帰り際に彼から言われたことを思い出す。
こうならないように気をつけていたつもりではあった。もう手伝いに来るなと言われたくなかったから。
自分は少しでも傍に居たい。話せなくてもいいし、目が合わなくてもいい。ただ視界の中に彼がいればそれで。
そんなことを思いながら、書類にサインをした。
急いで帰らねばならない。
「ただいま」
帰宅し奥に声をかけるが返答がない。困ったなと思いながらキッチンに向かうと塩田はカウンターに突っ伏し眠っていた。
音楽が静かに流れるダイニングキッチン。それは皇が選曲したもの。
傍らに置かれたタブレットの画面にタッチすると直前まで開かれていたページが表示される。
「レシピ?」
今夜のメニューでも考えていたのだろうか?
このままでは風邪を引いていまいそうだ。声をかけるか迷い、上着をかけてやろうとしたところで彼が目をさます。
「ん……皇?」
「ただいま」
「ん」
寝ぼけ眼でぎゅっと抱きつく彼が可愛い。
「おかえり」
優しく抱きしめ返し、ちゅっと口づけて離れる。
「これからスーパー行くのか?」
塩田は時計を見上げて。時刻は十八時前。そんなに遅い時間ではない。
しかし皇は、
「湯冷めするし、今日は出前でもいい? レシピを見ていたところ申し訳ないんだが」
と提案する。
上着をハンガーにかけながら。
「うん、いいよ」
てっきり不満そうな声で返答されると思っていた皇は驚いて塩田の方を見た。
「なに?」
「あ、いや」
”手料理が良かったんじゃないのか?”と聞き返すと、
「いや。確かに一緒に暮らしているのに不経済だとは思うけれど、俺は平日は家でゆっくり過ごしたいって思ってる」
と彼。
「皇がお洒落な演出とか好むのは分かるんだけれど」
と付け加えて。
皇は彼の言わんとしていることを考える。
「それは家でイチャイチャしたいってこと?」
「え? ああ、まあ。そういうことかな」
”何言ってんだ?”と言われると思っていたのに、彼が肯定するので皇は口元を抑えた。ニヤニヤしてしまいそうだ。
「何、また鼻血だすのか?」
怪訝そうな彼。
「いや、出さないけど。塩田にそんなこと言われるなんてと思ったから」
”嬉しい”と素直な気持ちを伝えると彼は何故か笑った。
片膝を引き寄せ、じっと皇を眺める塩田。
何か変だったろうか?
「な、なに?」
「俺、皇のスーツ姿好きだよ」
「え?」
童顔で私服だとものによっては学生に見間違えられる皇。それはコンプレックスの一つ。スーツは似合うとは言われているが、それだって童顔がどうにかなるわけじゃない。
「あ、ありがと」
ワイシャツの胸ポケットから出したスマホをカウンターに置こうとして近づけばネクタイを掴まれる。シャツの上を腹から胸に伝う彼の手。理性が崩壊しそうだ。
「風呂湧いてるよ」
「ん」
引き寄せられ再び口づけを落とし、
「入っている間に何か頼んでおいて」
とタブレットを引き寄せる。
「それと塩田が好むようなものなら作れるから、俺」
と告げて一旦離れた。
「え、そうなの?」
驚く塩田の髪を撫で、胸に引き寄せる。
「一人暮らし長いからね。まあ、塩田の好むものは切って和えるか、焼くだけのものが多いから。それくらいなら俺にも作れる」
「へえ」
”明日から自炊しようか”と告げれば彼は嬉しそうに笑ったのだった。
──参ったな。
どうやら愛しい恋人を怒らせてしまったらしい。
スマホを何度も気にする皇に企画部の者は心配そうな視線を向ける。
「副社長」
「ん?」
「何か用があったのでは?」
書類に目を落とす皇に気遣う声。
「そういうわけではないが、これを確認したら帰るよ」
極めて穏やかに告げ、笑みを浮かべる皇。そこに待ちわびた恋人からのメッセージ。
──あまり機嫌が良くなさそうだな。
メッセージを確認した皇は心の中でため息を付き、再び書類に視線を戻す。
帰り際に彼から言われたことを思い出す。
こうならないように気をつけていたつもりではあった。もう手伝いに来るなと言われたくなかったから。
自分は少しでも傍に居たい。話せなくてもいいし、目が合わなくてもいい。ただ視界の中に彼がいればそれで。
そんなことを思いながら、書類にサインをした。
急いで帰らねばならない。
「ただいま」
帰宅し奥に声をかけるが返答がない。困ったなと思いながらキッチンに向かうと塩田はカウンターに突っ伏し眠っていた。
音楽が静かに流れるダイニングキッチン。それは皇が選曲したもの。
傍らに置かれたタブレットの画面にタッチすると直前まで開かれていたページが表示される。
「レシピ?」
今夜のメニューでも考えていたのだろうか?
このままでは風邪を引いていまいそうだ。声をかけるか迷い、上着をかけてやろうとしたところで彼が目をさます。
「ん……皇?」
「ただいま」
「ん」
寝ぼけ眼でぎゅっと抱きつく彼が可愛い。
「おかえり」
優しく抱きしめ返し、ちゅっと口づけて離れる。
「これからスーパー行くのか?」
塩田は時計を見上げて。時刻は十八時前。そんなに遅い時間ではない。
しかし皇は、
「湯冷めするし、今日は出前でもいい? レシピを見ていたところ申し訳ないんだが」
と提案する。
上着をハンガーにかけながら。
「うん、いいよ」
てっきり不満そうな声で返答されると思っていた皇は驚いて塩田の方を見た。
「なに?」
「あ、いや」
”手料理が良かったんじゃないのか?”と聞き返すと、
「いや。確かに一緒に暮らしているのに不経済だとは思うけれど、俺は平日は家でゆっくり過ごしたいって思ってる」
と彼。
「皇がお洒落な演出とか好むのは分かるんだけれど」
と付け加えて。
皇は彼の言わんとしていることを考える。
「それは家でイチャイチャしたいってこと?」
「え? ああ、まあ。そういうことかな」
”何言ってんだ?”と言われると思っていたのに、彼が肯定するので皇は口元を抑えた。ニヤニヤしてしまいそうだ。
「何、また鼻血だすのか?」
怪訝そうな彼。
「いや、出さないけど。塩田にそんなこと言われるなんてと思ったから」
”嬉しい”と素直な気持ちを伝えると彼は何故か笑った。
片膝を引き寄せ、じっと皇を眺める塩田。
何か変だったろうか?
「な、なに?」
「俺、皇のスーツ姿好きだよ」
「え?」
童顔で私服だとものによっては学生に見間違えられる皇。それはコンプレックスの一つ。スーツは似合うとは言われているが、それだって童顔がどうにかなるわけじゃない。
「あ、ありがと」
ワイシャツの胸ポケットから出したスマホをカウンターに置こうとして近づけばネクタイを掴まれる。シャツの上を腹から胸に伝う彼の手。理性が崩壊しそうだ。
「風呂湧いてるよ」
「ん」
引き寄せられ再び口づけを落とし、
「入っている間に何か頼んでおいて」
とタブレットを引き寄せる。
「それと塩田が好むようなものなら作れるから、俺」
と告げて一旦離れた。
「え、そうなの?」
驚く塩田の髪を撫で、胸に引き寄せる。
「一人暮らし長いからね。まあ、塩田の好むものは切って和えるか、焼くだけのものが多いから。それくらいなら俺にも作れる」
「へえ」
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